【インタビュー】HANDSIGN「手話はひとつの言語だよ」

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HANDSIGN(ハンドサイン)が、2018年9月19日にシングル「HANDSIGN」でメジャーデビューを果たした。現在、足立梨花、みやぞん、故・平尾昌晃らが出演する「僕が君の耳になる」MVがYoutube再生210万回を突破し、話題を集めているダンス×手話パフォーマーだ。

◆HANDSIGN映像&画像

2005年に“かっこいい”から始まったHANDSIGNだが、TATSUとSHINGOの2人の思いは、たくさんの偶然とかけがえのない出会いを経て、“今”にたどりついている。

──まずはおふたりの出会いから教えてください。

TATSU:僕たち幼馴染で小学校1年生からずっと一緒なんですよ。活動するというよりも「こういうのやらない?」って誘う立場が僕です。

SHINGO:僕がついていく立場。イエスマンなんで(笑)。

TATSU:いや、ついて来てもらってます(笑)。

──早くもいいチームワーク発揮してますね(笑)。

SHINGO:その後、ふたりして中学校でブレイクダンスにのめりこみ、高校~大学はチームを組んでブレイクダンスのイベントに出たりクラブで踊ったりとか、ちょこちょこ活動してました。

──最初にダンスがあったんですね。手話に興味を持ったのは?

TATSU:僕が当時流行っていたドラマ「オレンジデイズ」(妻夫木聡、柴咲コウ主演)を見たのがきっかけです。「ダンスに手話を採り入れて発信したらかっこいいかな」って。それに、手話があれば音楽が聞こえない人も含めていろんな人に伝わるんじゃないかって思ったんですよ。

──手話はドラマを見るまでは身近なものではなかった?

TATSU:現実では出会ったこともなかったし、自分には関係ないものだと思ってました。

──それが、どうして「オレンジデイズ」で惹かれたんでしょう。

TATSU:う~ん…柴咲コウさんが聴覚を失った女性で、妻夫木さんがその恋人役だったんですけど、なんか、その妻夫木さんが好きな相手(柴咲コウ)のために、自然と無理しないで手話を覚えていくのがいいなと思ったんです。それにつられて周りの友達も手話を覚えていって。楽しそうなのが自然でいいなと思った。

──それでSHINGOさんに声をかけた。

TATSU:はい。そのときは今と違って軽い感覚でだったんですけどね。

SHINGO:「手話でダンスやってみない?絶対かっこいいと思うんだよね」って、ほんと軽い感じできましたね(笑)。で、僕イエスマンだから(笑)、速攻、駅前の本屋さん行って手話の本買ってきて、手話の単語帳を調べながら、そのとき好きだったKEN-Uさんの「どこ」って曲に手話を振り付けていったんです。

──え?いきなり?

SHINGO:はい(笑)。最初は見よう見まねだったんで、やってくうちに、これでちゃんと伝わってるのかなって思って「オレンジデイズ」の手話指導をされている人のところに行ってみたんですよ。そしたら全然違ってて(笑)。僕らが最初にやってた手話は全然意味が違ってたらしいです。でも、そのとき僕らのダンスを見てくれてたのがクラブで踊っている方々で、「全然手話なんて知らないけど、見てたら感動した」って言ってくれて。なんかわかんないけど手話で踊ってるってことに胸を打たれてくれたんですね。

──ふたりの手話とダンスから何かは伝わっていた。

SHINGO:だといいですね。そこで良い反応がなかったら続けていけてなかったと思うんで、その言葉は励みになりました。その後、その手話の先生に一緒に手話ダンスを制作してもらうようになりました。そのうちに聞こえない方々が来てくださるイベントに出演する機会があって、そこで披露したらちゃんと意味もとらえてもらえたし、リズムに乗って手話すると楽しいって言ってもらえたんです。

TATSU:ただ、僕ら自身はまだその頃、手話でコミュニケーションをとることはできなかったんですよ。ステージでは手話ダンスをするから、できると思われて手話で話しかけられるんですけど、実際には会話はできない。それで、地元の手話サークルにも通い出したんです。


──最初は「手話かっこいい!」から始まったけど、手話を習いに行ったということは、コミュニケーションをとりたいということですよね?自分の中でだんだんモチベーションが変わってきたんでしょうか。

TATSU:そうですね。でも最初の入り口が手話からだったらこうなってなかったかもしれないです。

──というと?

TATSU:たとえば先に、手話サークルとか行ってたらダンスに手話を採り入れようなんて思ってなかったんじゃないかな。やっぱり手話ってNHKの手話講座みたいに、まじめにやらなきゃいけないみたいなイメージがあるじゃないですか。もちろん僕たちもまじめに取り組んでいるんですけど…。

──わかります。ダンスって今でこそ学校の授業にもなってますけど…なんだろう、楽しみながらみたいな感じになると、国民性なのか少し不謹慎に捉えられがちってことですよね。

TATSU:でも、僕はダンスから入ったから、手話ってこういうものだっていうのをあまりよくわかってなくて、「かっこいいから…感動したから手話やろう」って気持ちが先にあった。そこから「聞こえない人にも届けよう」って変化していったんですよね。

──そうやって活動していくうちにNYアポロシアターコンテスト<アマチュアナイト>で優勝するというHANDSIGNにとって大転機が訪れます。

TATSU:(NYアポロシアターは)2009年ですね。

──2005年にHANDSIGNの活動をスタートして2009年にNYアポロシアターってすごいですね。

TATSU:いや、どちらかというとアポロシアターに立つより、オーディションに出る方が難しかった。

SHINGO:そうそう。だって1週間くらい前に「来週やります」って連絡がくるんですよ(笑)。

TATSU:絶対無理!急すぎる!(笑)。とはいえ、なんとかスケジュールの合う日があって、それで飛んで行きましたね。

──(笑)行ってからは?

TATSU:朝の9時くらいからオーディションが始まるんですよ。で、日本人心で10分前に行ったら、もうすっごい並んでて。朝の9時に並んでオーディション受けたのがなんと夜の9時(笑)。

──すごい人数が受けたんですね。

SHINGO そんななか僕たちが洋楽の手話ダンスやったら、審査員の方々も「Hoo!」ってすっげぇ上がってくれたんですよ。

TATSU:最初、ふ~んって感じで見てたのが途中からすごいノリだしたよね(笑)。

SHINGO:実はそれを見て、オーディション半ばくらいで「よし、イケル」って思ってました(笑)。

──その後、2010年にはNYアポロシアターコンテスト「アマチュアナイト」公認パフォーマーになりましたね。

SHINGO:その後、NYアポロシアターから帰ってきたらテレビにもたくさん取り上げていただいて、自主制作のイベントもいろいろやりました。でも、その当時僕ら「歌」がなかったんですよ。ダンスだけだったんで頑張っても20分くらいのステージしかできなかった。そしたら、イベントに来ていたお客さんが「一緒になって楽しめるようなことをしたい」って言ってくださったんです。それを聞いたことで「今度は自分たちの想いを歌にして、それを自分たちの手話で届けたいな」っていう想いが芽生えてきたんです。

──そこでようやく「歌」が出てくるんですね。

TATSU:ですね。歌はまだ始めて4~5年くらいです。

──ダンス、手話ときて、最後に歌ってなるのは珍しいパターンに思えます。

SHINGO:そうかもしれないですね。

──一番初めに作った歌は覚えていますか?

TATSU:めっちゃはっきり覚えてます!2012年に「海外支援活動プロジェクト」に参加させていただいていて、その一環でカンボジアに行ったんです。そこで聞こえない子や地雷の被害にあった子たちが通う学校に行ったんですけど、そういう子たちと出会って話していくうちに思いも変わってきた。そこで感じたことを書いたのが「DANCE&SMILE」で、カンボジアに行って感じたいろんなことを詰め込んだ曲ですし、忘れられないです。

──NYから帰った後から、「地元神奈川県内中学高校50校公演project」がスタートしてますね。この経緯というのも教えてください。


TATSU:最初に行こうと思ったきっかけは、僕ら全然手話ができなかったからなんです。手話が上達するには聞こえない人に教えてもらうのが一番だよって言われて、平塚ろう学校に電話して「ダンス教えさせてください」って言ったんです。

──え?ダンスを教える?

TATSU:そこで僕らはダンスを教えるから、逆に生徒さんからは手話を学ぼうと。お互いが教えあえる環境を作りたかったんですよ。

──なるほど!どっちかが一方的じゃなく。

TATSUで、半年間、週に1回生徒さんに教えて、それを文化祭で発表したんです。そしたら、「今までダンス興味なかったけど、すごい楽しかった!」とか「私は将来の夢ができました。それはダンスの先生です」とか、生徒さんからメッセージをもらって…。これは平塚だけじゃなく全国で発信していこうと思えました。そこから全国まわることになったんです。

──HANDSIGNとしては、手話もある、ダンスもある、歌もある。でも手話を教えていくという立場ではない。となると、おふたりは手話というものに対してどうありたいと思っているのでしょうか。

TATSU:僕は、HNADSIGNがやっている「手話をしながら歌うこと、踊ること」をエンターテインメントのひとつとして見てもらいたい。福祉とかそういう目線ではなくて、僕がそうであったように「手話ダンスかっこいい」とか「感動した」って思ってもらえたらって思います。手話単体ではなく手話ダンスを楽しんでほしいんです。

SHINGO:そうだね。楽しいってところから手話に触れてもらって、それがいつか福祉的な意味でもどこかで役立つときっていうのがきっとあると思う。でも入り口はエンタメから入ってきて、まずは手話に触れてもらうっていうのが大事かな。

TATSU:僕たちは「手話やってください、覚えてください」ではないんです。ただ「手話はひとつの言語だよ」ってことはみんなに知ってほしい。「かっこいい」から入ってもらって、手話はよく知らなくても、手話という言葉があることは誰もが知っている世の中になってほしいと思っています。

──なるほど。よくわかりました。さて、そんなHANDSIGNは9月にシングル「HANDSIGN」でメジャーデビューをしましたが、1曲目の「僕が君の耳になる」はYoutube再生200万回を突破しましたね。MVには、足立梨花さん、栗山航さん、みやぞんさん、平尾昌晃さんが出演されていて豪華ですね。

TATSU:みやぞんさんはギリギリまでスケジュールの関係で出演できるかどうかわからなかったんですけど、確か前々日に出演OKってなって…ありがたいですね。

──おふたりはMVのクリエイティブにもかなり関わっているんですよね。

TATSU:そうですね。出演者の皆さんの衣装も僕が用意したり(笑)。

──え?そうなんですか?

SHINGO:結構セルフでいろいろやってきてたんでね。

TATSU:なんなら出演者のブッキングも僕です(笑)。ひとり制作会社(笑)。もちろんみんなにも手伝ってもらってますけど。

──「僕耳」は2017年からあった曲ですが、これをメジャーデビューシングルに決めた理由は?

TATSU:この曲は僕の友人の実際にあったエピソードを元にした曲なんですけど、MVができてYoutubeにアップしたらそれを見た皆さんからすごくたくさんコメント頂いたんですよ。そんなに支持してもらえるとは思ってなかったんですごく嬉しかったし、自分が「オレンジデイズ」を見て感動したように、自分も何かを伝えられるになりたいと思っていて、その夢が少しかなったかなっていう曲だったんで、やっぱりこれが一番いいのかなって。あとは…わかりやすさ。ひとことで「僕は君の耳になる」って言ってるんで何を伝えたいかわかりやすいですよね。

──確かに。「聞こえない君の耳になる」と歌っているけど、根本にあるのは相手を思う普遍的な気持ちだから、どんな人にでも届くのかなって思いました。

TATSU:僕ね、昔、「オレンジデイズ」のような世界はリアルには存在しないと思ったこともあったんですよ。でも、僕が言えることではないかもしれないですけど、聞こえる人も聞こえない人も同じように恋愛するし、同じように飲んだり騒いだりするんですね。

──TATSUさんの思う「オレンジデイズ」の世界ですね。

TATSU:うん。なんか、そういうのがこの曲からもMVからも感じられると思ったのもメジャーデビュー曲にした理由かな。

SHINGO:歌詞が一番最初からストレートですよね。実はここまで書いていいのかなってちょっと葛藤する部分もあったんです。嫌がる方だっていらっしゃると思うし。でもそこは13年間活動してきた裏付けがあるわけだし、踏み出してもいいのかなって思いました。この曲は、そういった表現が変わった第一歩でもあると思います。


──なるほど。では2曲目の「この手で奏でるありがとう」についても教えてください。

TATSU:いつか親への感謝の気持ちを歌にしたいと思っていて、どう歌にしようかなと思っていたときに、広島である親子に出会いまして。お母さんのほうがろう者で僕らのライブを見に来てくれてて、娘さんは芸能界を目指していて。何度か会う機会があって話をしたら、その娘さんが、「将来、芸能界で成功してお母さんの喜ぶ顔が見たい」って言っていたんです。それを聞いて、自分も親に対してこういう気持ちだったなと思って。それでできたのが「この手で奏でるありがとう」なんです。思春期のときとか親に対して、ありがとうってなかなか言えなかったりするじゃないですか。僕もSHINGOも思春期のときは結構反抗期ひどかったんで(苦笑)。なので、そういう自分たちの気持ちも乗せて歌にしました。


──最後に改めてメジャーデビューする意気込みを聞かせてください。

SHINGO:メジャーデビューという戦場に行くので、より気を引き締めていかないと…と思っています。これは自分への戒めとして(笑)。あと、メジャーデビューするからといって、決して遠くへ行くわけじゃない。僕らはファンの皆さんと近い存在でありたいし、より感謝の気持ちを込めてこれからも追求していこうと思います。

TATSU:13年間活動してきたなかで、こうしてメジャーの話をいただいて。僕はこれがラストチャンスだと思ってます。そんななかで聞こえない方たちからもたくさんおめでとうって声をいただいています。そういう方たちももっと幸せになれるように、もっとボーダレスの社会になれるように、このこのメジャーデビューをきっかけに頑張って…いや、頑張るっていうか、みんなに楽しんでもらいたいですね、やっぱり。音楽はみんなのものだぞ、聞こえる人も聞こえない人も関係ない、みんなのものなんだぞって伝えたいです。

インタビュー・文:佐倉千里

HANDSIGN「HANDSIGN」

2018年9月19日発売
¥2,000(税込)UPCY-5066
1.僕が君の耳になる
2.この手で奏でるありがとう(フジテレビ パラスポーツ応援番組『PARA☆DO!~その先の自分(ヒーロー)へ~』テーマソング)
DVD
1.「僕が君の耳になる」Music Video
2.「この手で奏でるありがとう」Music Video
※字幕入り両曲字幕:日本語、英語、韓国語、3 カ国対応で収録
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