【インタビュー2/4】グラハム・ボネット「アルカトラス編」
2017年3月に来日公演を行ったグラハム・ボネット・バンドへのインタビューの第2回(全4回)。今回はグラハムが率いたバンド、アルカトラスの話題を中心に訊いてみよう。
◆グラハム・ボネット画像
1983年から1986年にかけて3枚のアルバムを発表し、イングヴェイ・マルムスティーンやスティーヴ・ヴァイらを輩出したアルカトラスだが、今回の来日ではライブ後半にグラハム、ジミー・ワルドー(キーボード)、ゲイリー・シェア(ベース)という当時の3人のメンバーが再合体し、「アイランド・イン・ザ・サン」「ヒロシマ・モナムール」「ゴッド・ブレスド・ヴィデオ」などの名曲から「オハヨー・トーキョー」「ウィッチウッド」などのレア曲までが披露された。
今回もグラハム、ベス=アミ・へヴンストーン(ベース)、コンラド・ペシナート(ギター)、ジミー・ワルドー(キーボード/アルカトラスのオリジナル・メンバー)、新加入のマーク・ベンケチェア(ドラムス)が語ってくれた。
──グラハムはリッチー・ブラックモア、マイケル・シェンカー、イングヴェイ・マルムスティーン、スティーヴ・ヴァイなど世界最高峰のギタリスト達と共演してきたわけですが、コンラドは彼らのギター・パートをステージで再現することについてどう考えますか?
コンラド・ペシナート:もちろん難易度はとてつもなく高いけど、それを苦に思うことはないし、自分をより良いミュージシャンにしてくれるチャレンジだと考えているよ。最初はちょっとビビっていたことも確かだ。自分に弾けるんだろうか?ってね。でも、とにかくベストを尽くして、自分でも楽しむことを心がけたよ。いずれも超一流のギタリストだし、特にリッチーからは多大なインスピレーションを得てきた。
グラハム・ボネット:コンラドの良いところは、俺が過去に共演したギタリストのプレイを単にコピーするのでなく、自分のテイストを加えることだ。彼はリッチー・クローンでもイングヴェイ・クローンでもなく、コンラドというオリジナリティのあるギタリストなんだよ。
──マークもコージー・パウエルやテッド・マッケナなどのプレイをライブで再現していますが、彼らからの影響はありますか?
マーク:うん、俺はドラムを始めた頃からコージーに憧れてきた。1979年にレインボーの『ダウン・トゥ・アース』ツアーのLAフォーラム公演を観たんだ。グラハムとコージーがいた頃のラインアップだよ。ツーバスを叩くのもコージーからの影響だし、『ダウン・トゥ・アース』の曲をグラハムのボーカルで自分が叩くなんて、光栄だよ。それは『ザ・ブック』からの曲についても言えることだ。俺の前任者のマーク・ザンダーは優れたドラマーだし、彼のスタイルをコピーするのは難しい。でもそのチャレンジを楽しんでいる。毎日のように何かを学んでいるよ。
コンラド・ペシナート:マークはコージーのドラミングの伝統を現代に継承して、さらに独自のスタイルを身につけたプレイヤーだと思う。もしコージーが生きていてこのバンドのライブを見たならば、きっとマークのプレイに喜んでくれると信じているよ。
──コンラドから30年前の1986年、アルカトラスの3代目ギタリストとして加入したダニー・ジョンソンはやはりイングヴェイとスティーヴのプレイを再現しなければなりませんでしたが、彼はどのように対応していましたか?
グラハム・ボネット:ダニーは当初、死ぬほどビビっていたよ。誰も彼のことは責められないだろう。彼の前任者がイングヴェイとスティーヴで、お客さんはダニーにブーイングを浴びせる気まんまんだったからね。でも、それはスティーヴについても言えることだった。イングヴェイの後任としてアルカトラスに加入して、最初のライブではステージ上で震えていたよ。あまりの緊張ぶりに、マネージャーが「大丈夫だ、やれるよ」と背中をバンバン叩いて気合いを入れたほどだった。でもダニーに対するプレッシャーは、さらに大きなものだったと思う。彼はベーシックなブルース・プレイヤーだったからね。
ジミー・ワルドー:ダニーはZZトップとかが好きだったよ。
グラハム・ボネット:ダニーはwiddley-widdley(音数が多い、テクニカル)な速弾きギタリストではなかった。地に足が着いたロック・プレイヤーだったよ。でも彼は素晴らしいプレイヤーだった。良いフィーリングをしていたし、良い曲を書いてくれた。スティーヴのフレーズの弾き方がわからないときは、スティーヴ本人に訊きにいったり研究熱心でもあったよ。
──リック・デリンジャーが、ダニーは1970年代中盤のバンド“デリンジャー”時代に既にタッピングをやっていて、それを見たエディ・ヴァン・ヘイレンが影響を受けたと話していましたが、実際に彼はタッピングを得意としていましたか?
グラハム・ボネット:うーん、それはどうかな?ダニーはそういうタイプのギタリストではなかったと思う。もしかしたらちょっとしたトリックとしてタッピングをやって、それを見たエディがヒントにして独自に発展させていったのかも知れないけどね。
コンラド・ペシナート:まあ、タッピングのテクニックはエディから始まったわけでもなく、昔からあるものだからね。レス・ポールが右手で弦をヒットする映像を見たことがあるし、ダニーがやっていた可能性も十分あるよ。
グラハム・ボネット:ダニーはイングヴェイやスティーヴのようなタイプのギタリストではなかったけど、だからといって実力が劣っていたわけではない。彼独自のユニークなスタイルを持っていたんだ。アルバム『デンジャラス・ゲームス』には良い曲が入っているよ。
──ダニーはアルカトラス脱退後、エディのプロデュースするプライヴェイト・ライフというバンドでアルバムを発表しましたが、それはエディがダニーに注目していたからでしょうか?
ジミー・ワルドー:プライヴェイト・ライフはダニーのガールフレンドのケリー(ブレズニック)がシンガーを務めるバンドだったんだ。彼女がエディの当時の奥さんと友達だったことで、エディが彼らのアルバムをプロデュースすることになったと記憶している。ダニーがいたからではなくてね。まあ、実際のところはよくわからないし、もう大昔の話だね…。
──リック・デリンジャーはエディにアル・ヤンコビックの「今夜はEAT IT」のギター・ソロについて「自分の劣化版」と批判された過去があるので、エディに対して胸に一物あったのかも知れませんけどね。
グラハム・ボネット:そうかもね。そういうのはロックンロールでは毎日のようにあることだけどね(笑)。
──アルカトラスのファースト・アルバム『ノー・パロール・フロム・ロックンロール』は当時アメリカではロックシャイア・レコーズから発表されましたが、すぐに廃盤になってしまったのは何故でしょうか?
ジミー・ワルドー:ロックシャイア・レコーズはロッキーとシャーリーというデイヴィス夫婦でやっていたんだ。だから“ロッキー+シャーリー=ロックシャイア”という名前だったんだよ。シャーリーは大富豪ハワード・ヒューズが経営する航空会社『ヒューズ・エアクラフト』社で経理を担当していた。彼女は数年にわたって“ドクター”ロッキーへの給与として、不正に1,300万ドルから2千万ドルを出していたんだ。ロッキーはそれを元手にしてレコード会社を始めたんだよ。それである日、FBIとIRS(国税局)がやってきて、社屋を封鎖して、『ロックシャイア』は無くなってしまった。オフィスからコンピュータやデスク、椅子までを持ち出していったよ。
──初期アルカトラスはアメリカでロックシャイア、日本でポリドール、イギリスではRCAと契約していましたが、ロックシャイアが閉鎖したことは、どの程度の打撃だったでしょうか?
ジミー・ワルドー:今から思えば、かなりの打撃だったね。ロックシャイアはアルカトラスをプライオリティ・アーティストとしてプッシュしてくれた。ロッキーはリハーサルに来て、いつも話していたし、ファミリーの一員だったんだ。快くレコーディングやツアーの費用も持ってくれたしね。その後、アルカトラスはキャピトル・レコーズと契約したんだ。キャピトルは大手レーベルだったけど、アルカトラスは山ほどいる所属アーティストの箱の中に放り込まれた。ティナ・ターナーやアイアン・メイデンもいたし、キャピトルにとっては俺たちよりカトリーナ&ザ・ウェイヴスの方が大事だったんだ。彼らは「ウォーキング・オン・サンシャイン」をヒットさせていたしね。ほとんどプロモーションもなく、俺たちは埋没するしかなかったんだ。
──同じく元レインボーのトニー・ケアリーもロックシャイアと契約していましたが、彼との接点はありましたか?
グラハム・ボネット:トニーが契約していたのは知らなかったよ。フォーク・デュオのチャド&ジェレミーがいたのは知っていたけどね。あとTVシリーズ『マンスターズ』でエディ・マンスターをやっていた子役(ブッチ・パトリック)もいた。大人になっていたけどね。
ジミー・ワルドー:そうそう、覚えているよ。エディ・マンスターがスタジオにいるのを見て、「うわぁ、本物だ」と思ったよ(笑)。少し話したけど良い人だった。(編集部註:『マンスターズ』は『アダムズのお化け一家』と並ぶアメリカのモンスター・ファミリーTV番組。そのビジュアルは日本の『妖怪人間ベム』にも影響を与えたといわれる)
取材・文:山崎智之
Photos by Mikio Ariga
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