【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.69 「音楽好きな大人たちの寛ぎ空間、Hostess Club Weekender」
その存続を望んでいた多くの声にきっちり応えるラインナップを揃えて復活を遂げた「Hostess Club Weekender」。今回はその復活初日、2月25日の模様を交えつつ、「Hostess Club Weekender」について綴ります。
「Hostess Club Weekender」とは、アンドリュー・レイゾンビー氏率いる独立系音楽会社Hostess Entertainmentとライブ制作等を手がけるYnosによる、2012年から開催されてきた日本発のライブ・イベントで、略称は「HCW」。2011年からのライブ公演シリーズ「Hostess Club」の進化バージョンであり、近年のサマーソニックにおける「HOSTESS CLUB ALL-NIGHTER」はこの派生形と言えるでしょう。
2012年の第1回開催時(会場・恵比寿ガーデンホール)、それまで日本にはなかったレーベル主導型の洋楽イベントは大きな話題となり、レーベル色の豊かさを凝縮させた独自のスタンスで他のフェスやイベントとは一線を画し、日本の音楽ギョーカイに新風を巻き起こしたのはまだ記憶に新しいところ。その後もZEPPダイバーシティ、新木場スタジオコーストと場所を変えてコンスタントに開催され、毎回通うWeekenderたちが多く現れるほどに成長を遂げていたものの、2015年11月公演を最後に休止。存続の行方に注目が集まる中、昨年暮れに開催を発表し、Pixies/The Kills/The Lemon Twigs/MONO/Little Barrie/Girl Band/Communions/Pumarosaという音楽ファン心理をくすぐる出演アーティスト8組による復活公演が、先週末の2日間、新木場スタジオコーストにて行われたのでした。
その初日。野暮用のせいで一番手のPumarosaには間に合いませんでしたが、前評判通りの初々しくも荒々しい無骨さの中に伸び代が垣間見えた新進気鋭のGirl Bandや、2週間前に行われたワールドツアーの東京公演からの勢いのまま、繊細で美しい爆音を轟かせたMONO、ヘッドライナーにはベースにパズ・レンチャンティンを迎えたUSグランジ/オルタナティブ・ロック界のレジェンド・新生Pixiesが登場し、インターバルごとに世界がガラリと変わる濃度高めの数々のショーが程よくゆったりと楽しめるタイムテーブルに沿って繰り広げられました。
▲Pumarosa
▲Girl Band
▲MONO
▲Pixies
そもそもレーベルの持つカタログからも明白に、ロック好きには毎回外れなしの、新旧の良質音楽に間違いなく触れられるハイクオリティなイベントという印象が強くある「HCW」。唯一これまでと違う大きなポイントとして挙げられるのは、日本のバンドが初出演したことでしょう。その栄えある第一号に抜擢された日本のバンドがこのコラムで幾度となく取り上げているMONOだったわけですが、それについては次回でじっくり語るとして。
今回の「HCW」で、最も印象的で好感を抱いた光景は、来場客の佇まいでした。それはライブ会場へ辿り着く以前から飛び込んできました。
まず、新木場駅から会場であるコーストまでの信号待ちで出くわした冠り物をした明らかにWeekenderな外国人2人組と、もしかしてWeekender? な日本人1人。なんとなく言葉を交わし始めた彼らは、「お前も行くのか?」「どこから来たんだ?」「今日の4バンドはいいバンドなのか?」と和気あいあいで楽しそう。よく見ると全員片手に缶ビールを持っていて、すでにほろ酔い。
このゆるい感じ、いいわぁ~と思いながら会場に入るとLittle Barrieのルイス・ワートンのイラスト展が開催されていたので覗いてみると、作品群を穴が開くほどまじまじと鑑賞する人もいれば、突っ立ったままぼんやり眺めている人もいて、さらには同エリアにあるベルギービールに並ぶ人やサイン会が行われていたりしてごった返し状態。
また、敷地内の屋外エリアでは、熱々の屋台メシを仲睦まじく頬張るカップルがいると思えば、見渡すとちょっとした海外気分を味わえるくらい外国人客数が多くあって、とっても賑やか。ライブ中も、それぞれが気ままにリラックスした様子で楽しむ様子の人の多いこと、多いこと。
それにも関わらず不思議と窮屈に感じないのは、それぞれがお互いの存在を認め合うようにさりげなく距離を取って動いているからだと気づき、大人が集まっているイベントの心地よさを体感しました。これは、ヘッドライナーがPixiesだったことに寄るところが大きいと思われますが、精神的に大人な人がそこに流れる音楽や雰囲気を丸ごと受け止めて楽しめる、1人でいても大変居心地の好い空間でした。
もうひとつ、会場敷地内の屋外に設けられた「Hostess Club Shop」という名のガレージショップ。“One buy get one free”や“3 for £10”とどこかに書いてありそうな狭い店内には、レコードやCD、テープがギッシリと積み重ねられるように並べられ、それに負けないくらいぎゅうぎゅうに押し入った客たちが黙々と掘り進めるという音楽愛で充ち満ちたちょっとしたカオスは、見ているだけでハッピーになれました。
ショーが良いのは言うまでもなく、多くの大人たちが音楽と共に、時をハッピーに過ごす姿を観られたことで自分も羽を少し伸ばせた良い休日となりました。
ラインナップによっては、また違うイベントの顔が見えることでしょうね。また次も来たいと感覚的に思えた「HCW」、オススメです。
写真:古渓一道
◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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