【ライブレポート】INABA / SALAS「素晴らしい歌声ありがとうございました」
稲葉浩志とスティーヴィー・サラスによって誕生した『CHUBBY GROOVE』は、“稲葉浩志が歌うファンクロック”という大方が思い描いた作風をサラリと飛び越え、ノリの良いハード&キャッチーなグルーヴ感あふれる作品となっていた。これは、ひとえに“これまでに聴いたことのない稲葉浩志の世界を生み出そう”とコンセプトを掲げた、スティーヴィー・サラスの明確なプロデュース・ワークによるものだ。
◆INABA / SALAS 画像
そしてそれが完成するに至った重要なポイントに、その高度な要求に120%応えるべくスティーヴィーの描くサウンドへ身を寄せることに徹底した、稲葉浩志の決意の固さと懐の深さがある。30年にも及ぶ活動から積み上げてきたシンガーとしてのセオリーや表現手法という伝家の宝刀を抜くことなく、スティーヴィーの要求にひとつひとつ手探りながら応えることで、誰も知らない稲葉浩志の側面が顔を覗かせた。単なるふたりのミュージシャンの足し算ではなく、お互いに持っている素養の中枢だけを吸い出し、素材として混ぜ合わせることが、INABA / SALASという新たなコアの誕生設計図だったというわけだ。
INABA / SALASというアーティスト・ユニットが、最も輝く場所はどこか。それは言うまでもなくステージだ。“ライブにコミットしている2人だから”という単純明確な理由のみならず、“『CHUBBY GROOVE』の完成への道筋が、新人のバンドがライブ・パフォーマンスを磨いていく過程と同様の過程を辿っているから”である。様々なプレイヤーと世界中でセッションを重ね、自然なグルーヴが生まれいづる様子をフレッシュなままにパッケージしたのが『CHUBBY GROOVE』であり、INABA / SALASの真髄がライブ・パフォーマンスにあることは、ステージを観る前から自明なことだった。
INABA / SALASの全国ツアー<CHUBBY GROOVE TOUR 2017>は、1月から2月にかけて1ヶ月に及ぶものとなったが、そこで繰り広げられたステージは、どでかい波が押し寄せるような音の息吹を身体全体で体感させてくれる、生々しく艷やかなものだった。特筆すべきは、繰り出されるそのグルーヴで、針の穴を通すような几帳面さや丁寧に音符をトレースするような神経質さではなく、ただただ呼吸を合わせることで鼓動がシンクロしてしまうような、そんな肉感的な躍動感に満ち満ちていた。曲を重ねるたびにフロアは熱を帯び、サウナのような会場の空気もまとわりつくように重低音を運んでくる。フロアが揺れるとはまさにこのことだ。
誤解を恐れずに言うならば、CDよりライブのほうがどの曲も100倍カッコいい。まさにライブで鳴らすために設計されたかのダンスナンバーであり、グルーヴナンバーであり、パワフルナンバーだったことがよく分かる。そもそも楽曲が持っているノリの良さは、CD音源ではパッケージングできないものなのかもしれないわけで、生演奏ならではの瞬発力と発せられるエネルギーが直接オーディエンスの身を焦がすかのようだ。ステージ上に生み出される空気はとにかくハッピーなもので、理屈抜きの自然体なノリの良さが、会場を埋めるひとりひとりに直接伝播されていく。稲葉浩志はMCで「演奏するのが初めての曲ばかりで、ほとんど新人バンドの気分」と言っていたが、ステージを共にしているメンバーを「個性豊かな、自分が持っていないものをいっぱい持っている人たち」であり「フレッシュでインスピレーションをもらうメンバー」とも語っていた。彼らが生み出すCHUBBYなGROOVEこそが、INABA / SALASが生み出した最大の宝物であり、それをみんなで共有する特別な場が<CHUBBY GROOVE TOUR 2017>だということなのだろう。
内に向かわず、全てのエネルギーが外に向けて発せられているのが、INABA / SALASが持つ基本特性だ。まさにライブ向きであり、曲もポジティブなエネルギーに満ちあふれ、陰や暗といったニュアンスからは程遠い。この世界観を稲葉浩志にフィットさせたのがスティーヴィー・サラスの功績であり、ライブを観たらアルバムを聴きたくなり、聴くとまたライブが観たくなるという健康的な音楽スパイラルの連鎖を発動させる。
デヴィッド・ボウイ「MOONAGE DAYDREAM」のカバーではスタンドマイクでじっくりと歌いこみ、「MY HEART YOUR HEART」では心臓の鼓動のような打ち込みビートに音に赤と緑のレーザーが空を舞う。「WABISABI」では途中でジャムセッションが発生、稲葉浩志のブルースハープ&歌とスティーヴィー・サラスのギターによる掛け合いが始まった。音で遊ぶインプロビゼーションの空間は非常にスピリチュアルで、ミュージシャンシップが飛び散る様は、ボーカルとギタリストという2ヒーローの雛形をきっちりと描き出す見ごたえのある1シーンとなっていた。
「MARIE」ではハンドクラップとコール&レスポンスが沸き起こり、パーティー感とドライブ感が渾然一体となって、オーディエンスも躍る・歌う・腕を振り上げる・歓声を上げるという、ライブエンターテイメントの真髄が繰り広げられた。この日最後の曲となった「TROPHY」をはじめ、実に多くの楽曲がシンガロングな曲だったという事実も見逃せないポイントだ。
会場を震わせる大合唱で終わったこの日、稲葉浩志は「素晴らしい歌声ありがとうございました。めちゃ気持ちよかったです。どうもありがとう」と頭を下げ手を振ってステージを去った。決して用意されていたセリフではなく、心から飛び出してきたであろうその言葉には、感謝と感動と興奮の息遣いがあった。
取材・文◎BARKS編集長 烏丸哲也
■<INABA / SALAS “CHUBBY GROOVE TOUR 2017”>
2月8日(水)@Zepp Tokyoセットリスト
02.苦悩の果てのそれも答えのひとつ
03.ERROR MESSAGE
04.NISHI-HIGASHI
05.マイミライ
06.シラセ
07.ハズムセカイ
08.正面衝突
09.MOONAGE DAYDREAM
10.MY HEART YOUR HEART
member introduction
11.WABISABI
12.OVERDRIVE
13.MARIE
14.AISHI-AISARE
encore
15.BLINK
16.POLICE ON MY BACK
17.TROPHY
■WOWOW<INABA / SALAS “CHUBBY GROOVE TOUR 2017”>
WOWOWにて独占放送
収録日:2月8日@Zepp Tokyo公演最終
■INABA / SALAS アルバム『CHUBBY GROOVE』
【初回限定盤 CD+DVD】BMCV-8050 3,700円(税抜)/3,996円(税込)
<特典DVD>MUSIC VIDEO 3曲収録
・SAYONARA RIVER
・OVERDRIVE
・AISHI-AISARE
【通常盤 CD】BMCV-8051 2,800円(税抜)/3,024円(税込)
01. SAYONARA RIVER
02. OVERDRIVE
03. WABISABI
04. AISHI-AISARE
05. シラセ
06. ERROR MESSAGE
07. NISHI-HIGASHI
08. 苦悩の果てのそれも答えのひとつ
09. MARIE
10. BLINK
11. MY HEART YOUR HEART
12. TROPHY
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