パンクからキャラソン・アニソンまで、SONARを駆使するパフォーマー&コンポーザー、エンドウ.(GEEKS)の曲作りの秘密を聞く vol.3
■歌詞の引き出しはマンガと読書とアニメ
―― 話を変えて歌詞について聞きます。ご自身のバンドの曲と他に提供する曲ではサウンドがまったく違うんですが、歌詞も違いますね? ご自身で書かれてるというのを聞いてちょっと意外な気がしたんですが。それはどういう引き出しから出てきているのかなあと。
エンドウ. 引き出しはもう、読書以外ないと思います。マンガと読書とアニメと。僕、テレビ見ないですし、あんまり外にも出ないので。たぶんそういう情報は読書とアニメとマンガとゲームぐらい。
―― 読書は小説とかけっこう読まれるんですか?
エンドウ. 小説……ミステリーばっかり読んでいます、はい(笑)。ミステリーとか……、あとハリー・ポッターとか。
―― なるほど。
エンドウ. アニメとかだと作品を思い出したり、観直したりとかもしますし。『坂本ですが?』っていうアニメのオープニングをやっているんですけど、その時は、全巻何度も読みました。だいたい原作を読んだりとか、あと、そのアーティストのことを調べたりとかしますね。
※『坂本ですが?』 は佐野菜見によるコミックで、単行本全4巻が発行されている。『このマンガがすごい! 2014』(2013年12月発売、宝島社)ではオトコ編第2位を獲得。2016年4月よりTVアニメが放送中。
―― 女性が歌う曲の歌詞は、女性になりきって、という感じですか?
エンドウ. そうですね。でもやっぱりアニメ、マンガ、ゲームが好きな人はなりきれるんじゃないですかね。やっぱり没頭して、自分をそれに置き換えることができるタイプの人間だと思いますよ、そういうのが好きな人は。
―― イヤホンズのようなセリフがある曲はセリフも考えてるんですか?
エンドウ. セリフも全部、台本を僕が考えてます。
―― そうなんですか! そこだけは違ったりするのかなと思っていたんですが。
エンドウ. (笑) いえ、もう僕が全部考えているんです。
―― あそこまでいくと脚本ですよね(笑)。
エンドウ. あれ、全部で本編が13話ぐらいで、他のバージョンがあって全部で18バージョン作ってるんですけど、全部の台本を僕が書いています。
―― それ、曲作りを超えてますよね?
エンドウ. そうですね。もう、ほんとに。追加料金欲しいです。
―― (一同爆笑)
―― そういった歌詞に書かれる世界観が、またサウンドに作用してさっきみたいないろんな音を作る方向に行く……。
エンドウ. そうですね。確かにそうではありますけど(笑)、自分では意外と、あまり冒険しないでワンパターンな音使いになりがちなタイプだと思うんです。いろんな曲に、好きな音というか同じ音をけっこう使ったりするので。まあでも、それを聴いた人がやっぱり「エンドウ.っぽい」って言ってくれるんですけど。
―― ああ。
エンドウ. まあでも、それに2、3、「この曲にしかない要素」とか「音色」とかを必ず入れるようにして、差別化を図りたいと思ってやっています。それでやっぱりそのアーティストさんのことを調べまくって、思いつくことだったりもしますし。
―― アーティストさんありきで全部作ると……。
エンドウ. そうですね。自分でバンドをやっているので、わがままは全部自分のバンドでできる。人の時はわがままはほとんど盛り込まず、エゴを出さず、その人があわよくば一生のキャリアの中でずっと歌っていくものを作るんだという気持ちでやります。
―― いいですねえ。
エンドウ. 引退しない限り、たぶんずっとその曲を使ってくれるでしょうし。まあ、その人がやめてもその人の曲であることは永遠ですからね。
―― 自分のバンドとそうじゃないのが、両方あるのがいいんですかね。
エンドウ. それがあるから、できてるんだと思います。完全に職人として徹することができますね。「ハイッ、お客様の仰せの通りに」ってやっています(笑)。
―― 職人としての仕事も好き?
エンドウ. 大好きですね。今まで自分でやっていた音楽とは想像つかないようなオーダーが来ますから。自分のバンドだけだったら、一生作んなかっただろうな、みたいな音楽を作れますからね。
―― それで自分の世界が広がるのも楽しんでいる?
エンドウ. それが醍醐味かなぁと思って。
■同じカエルの歌でも小学生が歌うよりバンドで演奏したほうがカッコイイ
―― また話は変わるんですが、ブログに編曲が大事だということを書かれていました。「メロディに良いも悪いもない」という話を書いていらして。
※エンドウ.のブログ2016年2月25日の投稿「花蓮発売」から。「ハッキリ言ってメロディに良いも悪いも無いと思っておりますので、編曲はかなり大事だと思います。例えばどんな良い曲も編曲がダサいと駄曲になってしまったり、逆にどんなダッサい曲でもエンドウ.さんだったら編曲次第でカッコよくできる、なんて思っていたりもします。編曲って大事なのです。」と記している。
エンドウ. そうなんですよ。たまにレコード会社の人間が「この曲はメロディがいいからね」とか言ってるんですけど、そんなのそのへんの小学生が街なかで歌ってたらいいと思わないだろ、お前、っていう話で。「君が歌ってたメロディ、最高だったね」なんて絶対言わないじゃないですか。
―― (一同笑)
エンドウ. メロディなんてもう、ただの音符の動きなんだから。だって、ほとんどのロックの歴史とかひもといてみても、あんな名曲すごーいとか言われても、たとえばヴァン・ヘイレンの「JUMP」のチャッチャッチャっていうシンセの音がすごいメロディかって言われたら絶対違う。
―― ああ!。
エンドウ. なんでもないメロディじゃないですか。でも、あれをかっこよくするのが編曲というか、ヴァン・ヘイレンのキャラクターとか、その当時の流れとか、時代の風潮だったりとかさまざまな要素です。なのに、レコード会社の人間が「メロディがさ」みたいなことを言うのがイヤ。僕の持論としては、「メロディなんかもう、いいも悪いもないんだよ!」っていうのがいつもあったんです。その前後関係だったり、「こう来て、こう来て、こう来たから、このメロディがいいんだよ」とか、そういうのが常にあって。
―― うんうん(一同うなづく)。
エンドウ. だから編曲もそうです。「何をやるかじゃなくて、誰がやるかが重要なんだ」っていうのがあって。同じカエルの歌でも、そのへんの小学生が歌ったのと僕らがバンドで演奏したのじゃ、絶対バンドで演奏したほうがかっこいい。それが編曲というもの。だから一番大事なのはそこかなあと。逆にどんな単調なメロディでも絶対かっこよくできます。編曲さえ僕にやらせてもらえれば。YouTubeとかで、外人が1弦のEだけでメタルを弾く人とかいますよね。すごくかっこいいんだけど、Eしか鳴ってないんですよ(笑)。だから結局、編曲が重要なんです。
―― その話は深いですねえ(笑)。でも、たぶんご謙遜で自分は素晴らしいメロディを作れるっていう前提があるからこそ、今の話を持ってくるんじゃないですか?(笑)
エンドウ. いやいや(笑)、作れればいいんですけど、素晴らしくないメロディも作っちゃうんで。でも、そうなった時、そのメロディが悪いっていうよりも、全部との関係性でそうなっちゃってんだな、と思いますけどね。だから、“なんかよくないなあ、なんかピンとこないなあ”っていうサビでも、メロディはそのままで他のところを変えたらグッと良くなるなんてことは、いくらでも体験してきてるんで。メロディのせいじゃなかったりしますね。
―― 編曲でメロディがよく聞こえるっていうのがあるんでしょうし。
エンドウ. だから、「この曲はメロディが最高!」「至高のメロディ」とかレビューで書いてあると、「いやいやいや」って思います。「お前が感動したのは、後ろの流れてたストリングスのせいもあるんじゃないの?」とか、思いたくなりますね。全部が合わさっていいんだよ、っていう。
―― じゃあ、自分が作ってるのはメロディだけじゃなくコンポーザーとして全体を……。
エンドウ. それはもう絶対です。もう絶対ですね。やっぱり「メロディだけでいいからちょうだい」とか言われたりしてメロディを渡したら、「うーん」って言われたりする。でも、ぜんぜん違う別の時に「じゃあ、ちょっとなんかちょうだい」って言われて、ばれないと思って同じメロディとすごいがっちりしたオケで渡したら、「めっちゃいいじゃん!」って言われたりして。「お前、このメロディを全然良いって言わなかったんだぞ」と思いながらだまってたりとか。そういうのはいっくらでもあって。だからトータルの作品を渡さないと、人は冷静な判断とか正常な判断できないん。絶対メロディだけを聞かせても、その先のビジョンを人間は想像しづらい。
―― たいへんおもしろい話で。
エンドウ. 苦労話になっちゃいましたけど(笑)。
(完)
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