【インタビュー】ASH DA HERO、「歌なんて瞬間芸術だから何回も歌うもんじゃない。だから一発で録るんです」

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■今の日本のミュージック・シーンに退屈している
■人間を救うヒーロー像として『THIS IS A HERO』を作った


――自分がやることに、ちゃんと自分で責任を持ちたいタイプと言えますね。ソロでやろうと決めた時点で、目指す音楽性などは見えていましたか?

ASH DA HERO:どうだろう? ソロになってからは音楽的な縛りというものを作っていないので。僕の身体の中で鳴っている音楽とか、僕の頭の中で鳴っているメロディーとかを、自分が思うような形にしているんですよ。だから、インディーズで出した音源と今回の『THIS IS A HERO』をすべて合わせると11曲になるけど、そこにジャンル的な一貫性はないですね。ただ、今回の『THIS IS A HERO』は、意識的にロックサイドのもので固めました。

――なぜ固めようと思ったのでしょう?

ASH DA HERO:勘ですね。なんとなく、そのほうが良いような気がしたんです。僕はアイドルとかJ-POPもすごく好きだから、テレビの歌番組をよく見るんですよ。そうすると、すごく良い曲が多い。でも、退屈ですよね。そこから派生して、自分と同じように退屈に感じてるヤツは、いっぱいいるんだろうなと思って。自分はそっちを救済する存在になりたいと思ったんです。それで、今の日本のミュージック・シーンに退屈している人間を救うヒーロー像として、今回の『THIS IS A HERO』は作った感じです。なので、オフェンシブなアルバムにはなっているかなと思いますね。


――攻めているというか、突き抜けていることを感じました。『THIS IS A HERO』を作るにあたって、指針になった曲などはありましたか?

ASH DA HERO:どうだろう? ……ないことないけど、あったと言えばあったというか。「反抗声明」という曲を書いた時に、これをリード曲にするという話になったから、そこから外堀を固めていった感じはありますね。

――『THIS IS A HERO』はパワフル&アッパーなアルバムながら、ヒネリを効かせていることも印象的です。「反抗声明」や「結局なんにもやれてない」などは、骨太のロックとエレクトロの要素を融合させていますね。

ASH DA HERO:その2曲はエレクトロ要素を取り除くと、カッコ良いロックンロールになるんですよ。だから、本当はなくても良いんですよね。でも、そうするとステレオタイプの音楽になってしまって、それは、もうすでに誰かがやっている。だからといって新しいものを…というのもステレオタイプで、ダサいと思っているから。それで、“生演奏 VS 俺の生歌 VS テクノロジー”ということに挑むのは面白いんじゃないかなと思ったんです。血の通った音楽が血の通っていない無機質なテクノロジーとぶつかった時に、どういうケミストリーが起きるのかと。それを、アレンジの段階から試していたし、今回のアルバムは歌も含めて一発録りしました。

――えっ、歌もですか?

ASH DA HERO:はい。そうじゃないと目指しているものにならないから。そういう手法を使ってカッコ良いものを作るというよりは、戦っている感じを出したかったんです。アナクロニストの自分が、テクノロジーに溢れた今という時代にどう立ち向かっていくかということを表現したかった。だから、エレクトロの要素を入れると新しいとか、そういうことを狙っているわけじゃなくて。本当に、子供っぽい理由なんです。

――子供っぽくはないと思います。独自のスタンスを持っているということですよね。他にも「WAKE UP ROCK AND ROLL BAND」は間奏でいきなりシャッフルに変わる構成になっていて、さらに間奏は海賊っぽくないですか?

ASH DA HERO:海賊、伝わりましたか?(笑)

――伝わりました(笑)。それに、イントロとかで鳴っているアイリッシュっぽいメロディーの意味が、そこで分かるようになっていますよね?

ASH DA HERO:そう。「WAKE UP ROCK AND ROLL BAND」は、すごくシンプルなパンクロックを作りたかったです。みんなでシンガロングできるパンクロック・アンセムが欲しかった。それで、形にしたけど、やっぱりそのままだとランシドとかとあまり大差がなくて、オリジナリティーがないなと思って。どうしようかなと思って鍵盤を触っていたら、その曲に入れていたバグパイプのアイリッシュっぽいメロディーが違う音色でも合うことに気づいたんです。だったら、三味線でケルトとかアイリッシュの音階を足してみたら面白いなと思って。それで、アレンジャーの宮田(リョウ)と一緒にアイリッシュ・パンクの方向で作り直すことにして、その時にバグパイプの音をシンセの音で攻めたほうが良いだろうという話になったんです。そうやって進めていく中で、ここで海賊が出てきたら面白いよと思ったんです。アイリッシュとか、北欧のほうのイメージなのに、なぜかラテンとかカリビアンっぽいものを感じて。アイリッシュ・パンクと海賊って合うんじゃないのといって、やってみたらハマりました。だから、日本発のアメリカン・パンクみたいなものがアイルランドに一度飛んで、そこから下ってキューバの辺りに辿り着いて、日本に帰ってきた…みたいな(笑)。

――それを違和感なく纏めるのもさすがです。あとは、温かみに溢れたバラードの「BABY GOOD NIGHT」も、アルバムの良いフックになっています。

ASH DA HERO:これは、作詞は自分だけど、作曲はバックバンドの香取真人というギタリストが作ってくれました。その人は本当に素晴らしい、味醂(みりん)のような存在のギタリストなんですよ。

――味醂…ですか?

ASH DA HERO:そう(笑)。どんな料理にも合う味醂のように、いろんなジャンルが弾けるし、ほど良いというギタリストがいて。彼とアレンジャーの宮田と僕の3人で、よくスタジオでアレンジをしたり、プリプロをしたり、曲を作ったりしているんです。そういう中で、香取君が一個ネタがあるんですけど…と言って、サビのメロディーを聴かせてくれて。その時にピンと来て、どういう方向性かなと言いながらサクサク作っていって、作りながら歌詞も書いていって形にしました。「BABY GOOD NIGHT」は、皆既月食の歌なんですよね。皆既月食とうまくいかない恋愛をリンクさせたというか。太陽が彼氏だったとしたら、月は彼女というか。合わないほうが良い男女の関係ってありますよね。太陽と月が重なると、その一瞬は美しいけど、それがずっと続くと草木は枯れて、台地は荒れ果ててしまう。太陽と月は離れていて、それぞれの役割を果たすことで、昼があって、夜があって、地球は青く廻っているという。ちょっと壮大な感じのテーマだけど、それと恋愛を重ね合わせて、うまくいかない恋もポジティブに捉えてくれると良いなと思って書きました。それに、お互いに好きだけど一緒にならないほうが良い関係性というのは、自分とファンの子との関係性とつなげているところもあります。「好きになってくれて良いけど、恋しちゃダメだぜ、ベイビー。ヤケドするぜ」みたいな(笑)。君には君の家族とか、自分が好きな大事な人がいるだろうと。そういう人のことを大切にして生きていて、たまに僕は現れるから、その時に皆既月食の時のような美しい景色を一緒に作ろうね…という歌です。

――アーティストとファンの皆さんの理想的なあり方と言えますね。歌詞の話が出ましたので、続いて歌詞について話しましょう。『THIS IS HERO』の歌詞は、リスナーの背中を強く押すものがメインになっています。

ASH DA HERO:押すというか、もう叩いてる(笑)。

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