【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.8「育児は生涯マネジメント」
木と木のぶつかるような、ゴツゴツという鈍い音が聞こえてきて目が覚めた早朝。寝ぼけながらメガネを探して時計を見ると5時34分。暗さに慣れないままの目を凝らして隣で寝ているはずの息子を探しましたが見当たりません。
ガツッ、ゴツゴツ。キャハハ!
重い体を起こして音のするほうへ行くと、暗闇の中、コロコロとじゃが芋を転がす息子がいました。それはそれは楽しそうに、大層真剣な面持ちで。
彼がじゃが芋に辿り着くまでに通った道にあったものはすべてなぎ倒され、夫のペーパーバックのコレクションは棚から全落ちしているのをみて、なかなかのエネルギーを消耗したろうなと想像しながら黙って片付ける。これが現在生後11ヶ月の子を持つ私の朝の迎え方です。
ミュージシャンのマネージャーをしていた頃は、365日中、340日ほどは出勤していました。今日は朝から会議に出席して午後は取材日、翌日は朝一番の新幹線で地方へ向かいイベントに出演して終電で帰京、翌々日はスタジオで、その翌朝はそのスタジオで迎える。こんな感じで日毎異なるスケジュールをこなし、朝から晩まで担当ミュージシャンと行動を共にすることがほとんどで、ツアーになれば朝5時まで飲んで、その3時間後には集合というような日々を繰り返していました。
マネージャーという仕事は本当に面白いもので、その醍醐味は才能のある人の隣にいられるということで自分だけでは決して見ることのできない景色を見せてもらえるということに尽きると思います。その一瞬で9割の苦労は帳消しにできるほどの心震える体験をたくさんさせてもらえたことは幸運でした。しかしながら、求めて就けた職ではあっても、24時間体制で家族でもない人をマネジメントするという異次元な世界には理不尽なこともありました。可愛らしいところでは、夜中3時に「ワシや、六本木に迎えにきてや」という電話がかかってきても、あの人はロッカーだから仕方がない、六本木で遊ぶこともロッカーだから必要だと自分に言い聞かせて職務を完うしていました。
20代の独身女子だった当時、しんどいときに夢想していたことがありました。それは、いつか家庭を持てる日が来たら、まだ見ぬ夫や子のケアをするわけで、それすなわち、究極のマネジメントであり、生涯マネジメントができる!ということでした。結婚して8年が経とうとしていますが、妊娠発覚後からこれまでの1年半は、あの頃イメージしていた「家族の生涯マネジメント」という概念をすっかり忘れてしまっていました。余裕ゼロです。
妊娠、出産からくるホルモンバランスの変化からでしょうか、イライラしやすく、神経が尖りまくりになったことに加えての育児。初産だったため、今なお初めて尽くし、驚きの連続です。子が加わって家族構成が変わると、それまでの夫婦のみの暮らしから予想以上に変化が起きるということに直面しています。子どもは子ども、親が勝手に思い描く期待通りには決して動いてくれません。いつだって子どもが1番、自分は二の次、三の次。この序列がとても新鮮です。
育児。私はまだ開始してたった11ヶ月ですが、子を育てるという行為はたくさんのことを気づかせてくれます。第一の気づきは親への感謝でした。人間は一人では生きていけないということ、みんな誰かの助けを得て成長できているということを深く認識できるようになり、様々なことに対して感謝することが増えた気がします。また、最近では、イラっとくることがあっても、息子の笑顔を思い出せばどうでもいいやと思えるようになりました。
子を持つということは、責任を負うということだと思います。この子を守り、尻を拭い、幸せを願うことは親として生涯続く育児マネジメントですよね。
この調子で、私の子育てテーマ・ソング『人にやさしく』(THE BLUE HEARTS)を脳内に響かせながら、家族、そして、私自身を良い方向にマネジメントしていければいいなと願い、息子の荒らした部屋を片付けることにします。
◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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