【CDレビュー】X JAPAN、狂気と感動のベストアルバム『THE WORLD~X JAPAN 初の全世界ベスト~』

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X JAPANの全世界で発売となる初のベストアルバム『THE WORLD~X JAPAN 初の全世界ベスト~』が6月17日にリリースされた。その驚きに満ちた狂気と感動の内容を、その歴史、世界観、演奏テクニックなどなど多角的に切り込む筆者3人のクロスレビューで紐解いてみる。

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■聴き手の人生を変える唯一無二の集合体と受け止められた
■ありとあらゆるものが予測不可能なX JAPANの特性


X JAPANがいかに絶大な求心力を持っていたのか。彼らの足跡を眺めてみて確認できるのは、言わばそのすべての出来事が、常に他と一線を画すものだったということだ。

YOSHIKIとToshIがXをスタートさせたのは高校時代だが、約2年後に東京に拠点を移してからを本格的な始動と考えていいだろう。しかし、とにかく初期にはメンバー・チェンジが多かった。その背景にあったのは、音楽性というよりも、バンドを運営していく方向性に関する見解の相違である。破天荒という言葉でも足りないほど、従来のロック・バンドには収まり切らないパフォーマンス。具体的なエピソードは枚挙に暇がないが、一般的には“非常識”とされるものも時にはあった。そんな大胆不敵な活動についていけるかどうか。極論を言えば、分岐点はそこだった。

考え方は極めてシンプルだ。YOSHIKI自身もよく口にしていたが、「他のバンドがやらないことをやる」という、至極当然とも言える手法である。その在り方は後に洗練されてはいくものの、少なくとも1980年代半ばに関東で最も過激なバンドだったXは、特にYOSHIKI、ToshI、HIDE、PATA、TAIJIの顔触れが揃ってからは、その勢いを加速度的に増しながら、急激に全国区へとなっていく。

「あんなバンドが売れるはずがない」。かつて、彼らに対してそう嘲笑う向きもあった。ところが、YOSHIKIが設立したエクスタシー・レコードからリリースされた1stアルバム『Vanishing Vision』(1988年)は、往時の話題性も奏功し、セールス面でも目論見通りの成功を収めるのである。誰もが目を向けざるを得ない、そんな状況を自ら作り出した明らかな“勝利”だった。

社会現象。Xの存在自体、そう称したほうが適切かもしれない。メジャー進出作となった『BLUE BLOOD』(1989年)のジャケットに記されている<PSYCHEDELIC VIOLENCE CRIME OF VISUAL SHOCK>なる一節が、“ヴィジュアル系”の語源になったことは、しばしば指摘されている。いわゆる“人気”という観点で言うなら、ナショナル・チャートの1位を記録した『Jealousy』(1991年)、HEATHが加入し、X JAPANに改名してからの『ART OF LIFE』(1993年)、『DAHLIA』(1996年)などの作品群の膨大な売上枚数だけではなく、気づけば、東京ドームで恒常的に3日間連続公演を行えるほどの他に類を見ない動員力も現実のものとなっていた。

ただ、単なるポピュラリティを得たバンドという実績以上に注目すべきは、Xが聴き手の人生を変える、唯一無二の集合体といった受け止め方をされていた点だろう。それぞれ際立ったキャラクターを持つメンバーの発言や行動等を含め、美しさと暴虐さを併せ持つ楽曲そのものがファンを鼓舞し、ライヴの場においては極めて密度の高い熱気を帯びた空間が生まれていった。無論、彼らに影響を受けて音楽活動を始めたと話すミュージシャンも数多い。

1997年の衝撃的な解散発表以降も、彼らの魅力に惹き付けられた次世代のファンが着実に増えていったことは、昨今のライヴの客席を見てもわかる。「両親がX JAPANを好きだった」と言う若年層も珍しくない。時代を経ても色褪せない稀有な個性。ある種の“伝説”は確実に継承されてきたわけだ。

さらに驚かされるのは、いつしかX JAPANは世界中でファンベースが築かれていたことである。彼らが表舞台から去った1990年代後半から2000年代前半、海外でX JAPANのアルバム(日本からの輸入盤だけではなく、海賊盤もあった)やポスターを見かけることはしばしばあった。どの国にもマニアはいる。しかし、その事実が意味する状況を的確に捉えられるようになったのは、2007年に再始動が実現してからのことだった。

それは『THE WORLD』の初回限定盤に付属するDVDに収められている、2009年から2011年に行われたワールド・ツアーの模様にも明らかだ。インターネットがグローバルな物理的距離を縮めた側面は確かにある。とはいえ、各国で繰り広げられた熱狂は、それだけでは説明し切れない。一時期はビジネス誌でも頻繁に使われた“COOL JAPAN”の代表的なアイコンという見方だけでも不十分だろう。初期のような過激なヴィジュアルで惹き付けているわけでもない。そんな簡単には解明できそうもないもう一つの新たな現象が、世界同時多発的に巻き起こっているところにも、ありとあらゆるものが予測不可能なX JAPANの特性を見出したくなる。

冒頭に記したX JAPANの求心力は今も続いている。むしろ、その効果が及ぶ範囲は紛れもなくかつてより広い。ゆえに気になるのが今後の展開である。『THE WORLD』に収録されたHIDEへの追悼曲「Without You」はライヴ・ヴァージョンだが、YOSHIKIは同曲のスタジオ・レコーディングを行うつもりであると2007年末のインタビューで答えていた。加えて、復活第一弾となった「I.V.」や、すでに配信済みの「JADE」「Scarlet Love Song」を始めとする新曲群が今回はラインナップされていない。これは来るニュー・アルバムの構想が一方で進みつつあるのではないかとポジティヴに推測したくもなる事象だ。この10月11日に予定されているアメリカ/ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン公演が近づく頃には、何らかの吉報が届けられることを期待したい。

文●土屋京輔

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