【CDレビュー】X JAPAN、狂気と感動のベストアルバム『THE WORLD~X JAPAN 初の全世界ベスト~』
■『THE WORLD』は過去の集大成であると同時に未来を見据えた
■追憶ではなく前進する意欲をより強く感じるベストアルバム
6月17日にリリースされたばかりの、X JAPANにとって初の全世界向けベストアルバム『THE WORLD』は、もうあなたの手元に届いているだろうか。厳選された代表曲、全曲リマスター、初収録バージョンも含めたCD2枚組で、初回限定盤にはライブ映像を収録したDVDと豪華60Pフォトブックが付く。今年でメジャーデビュー25周年を迎えた彼らは、2007年の再結成以降すでに2度のワールド・ツアーを行い、来たる10月11日にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで初公演を行うことを発表するなど、その長いキャリアにおける何度目かのピークに向かって前進中だ。このベストアルバムからも、過去の集大成であると同時に未来を見据えた、追憶ではなく前進する意欲をより強く感じることができる。
思えば彼らほど、波乱万丈という言葉が似合ってしまうロックバンドも他にいない。まだビジュアル系と言う名称が存在しない時代に、奇抜なメイクとファッション、ヘヴィメタルとクラシックが共存する多様な音楽性でリスナーの度肝を抜き、CDのミリオンセールス、東京ドーム3DAYS、紅白歌合戦出場など、前人未到の実績を積み重ねた90年代前半の快進撃。一方で、度重なるYOSHIKIの体調面での不安、メンバー間の軋轢、最初の解散発表、HIDEの死と、ネガティブな事件が相次いで起きた90年代後半。2007年に奇跡の再結成を果たし、ワールド・ツアーが好評を得る一方で、SUGIZOの正式加入、元メンバー・TAIJIの死と悲喜こもごもが入れ替わり、幾多の困難を乗り越えてきたバンドだけが持つ凄みのあるオーラを身にまとって現在に至る。存在自体が奇跡と言えるバンド、それが今のX JAPANだ。
『THE WORLD』の収録曲は、まずDISC1に11曲。ほぼすべてがシングル曲で、オープニングの攻撃的なハイスピード・チューン三連発がいきなり凄い。「Silent Jealousy」の、クラシカルなメロディからメロディックなスラッシュメタルに急転する曲調、「Rusty Nail」のずば抜けたポップ性、HIDE作「SCARS」の、ノイズ成分たっぷりのイカれたハードロックぶりと、洋楽ハードロック/ヘヴィメタルを軸とした過激かつキャッチーな曲作りの巧さは、今もなお非常に新鮮に響いてくる。
続いて登場するのは、言わずと知れた大名曲「ENDLESS RAIN」。YOSHIKIのクラシックの素養が生み出したこの美しすぎるメロディがあったからこそ、X JAPANはジャンルを超えた音楽リスナーの心に残る存在になったと言っていい。そこから「WEEKEND」「紅」と、メジャーデビューアルバム『BLUE BLOOD』収録のハイスピードなロックナンバーが続く。「紅」はアルバム・バージョンで、前奏のストリングスが収録されているものだ。
「Forever Love」は、制作に難航を極めたアルバム『DAHLIA』からの曲だが、これはシングルでリリースされたオリジナル・バージョン。「ENDLESS RAIN」や、この作品には未収録の「Say Anything」などと並び、非常に人気の高いバラードの名作だ。そして「DAHLIA」は一転して、スラッシュメタルのスピードとパンクのワイルドさを掛け合わせた強烈にアッパーな1曲。この頃のYOSHIKIは体調面での理由でハイスピード・チューンを控えていたと聞くが、いざ本領を発揮した時のドラミングの凄まじさを、たっぷりと味わえる曲になっている。
ここまでがスタジオ録音で、このあと3曲はライブ・バージョン。「Amethyst」の原曲はYOSHIKIのソロ作として1993年にリリースされ、別プロジェクト・Violet UKのレパートリーでもある曲だが、これはメンバー紹介のアナウンスの入ったインスト。その次の「X」と共に、1997年末に東京ドームで行われた最初の解散ライブからのテイクが採用されている。特に「X」でのToshiの鬼気迫るボーカルの迫力は、何度聴いても背筋が痺れるほどに強烈だ。
そしてもう1曲は「Without You」。ファンはご存知の通り、HIDEが亡くなった直後にYOSHIKIが彼を思って書いた美しいバラードで、初出は2005年のソロ作『ETERNAL MELODYⅡ』だが、ToshIのボーカル曲として再結成後のライブ定番となっている曲。CDに収録されるのはこれが初だ。非常に生々しいライブ・バージョンで、優しく語りかけるようなToshIの歌声の表現力が、いつになくウェットな抒情をかもし出す。X JAPANの持つメロディアスで感傷的な一面をよく表すバラードの逸品だ。
DISC2に収められたのは、たった1曲。だがこの曲「ART OF LIFE」は、X JAPANの歴史を語る時に欠くべからざる曲で、約30分で1曲という壮大さの中に、ボーカル、インスト、ハードロックとクラシックのパート、ピアノ・ソロなどが組曲のように構成され、オーケストレーションにはロンドンのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団が参加。YOSHIKIの半生を描いたと言われる歌詞の世界観も含め、X JAPANの最高傑作のひとつと言えるこの1曲のためにDISC2が設けられたのは、当然のことだろう。
初回限定盤付属のDVDには、2009~2011年のワールド・ツアーのライブ映像をもとにした“World Tour Trailer”を収録。各国での熱狂的な歓迎ぶりや、独自の特別な演出の模様など、彼らが世界中でどのように受け入れられているのかがよくわかる、ファン必見の映像になっている。
YOSHIKIは現在、“YOSHIKI Classical WORLD TOUR PART1”と題したピアノ演奏によるソロツアーを終えたところ。X JAPANとしての活動は、10月11日のマディソン・スクエア・ガーデンが発表されたのみだが、ワールドワイドなライブの予定が、このあと次々とアナウンスされることを期待したい。“日本が世界に誇る”という定型の形容詞を、本当の実感を持って使うことのできる稀有なロックバンド。X JAPANの奇跡の旅路はまだまだ続いてゆく。
文●宮本英夫
『THE WORLD~X JAPAN 初の全世界ベスト~』
2014年6月17日(火)発売
初回限定豪華BOX盤(2CD+1DVD+全60Pフォトブック)価格:4,600円+税 WPZL-30826/8
通常盤(2CD)価格:3,000円+税 WPCL-11780/1
CD
1.Silent Jealousy(作詞・作曲:YOSHIKI 編曲:X)
2.Rusty Nail(作詞・作曲:YOSHIKI 編曲:X JAPAN)
3.SCARS (作詞・作曲:HIDE 編曲:X JAPAN)
4.ENDLESS RAIN(作詞・作曲:YOSHIKI 編曲:X)
5.WEEK END(作詞・作曲:YOSHIKI 編曲:X)
6.紅(作詞・作曲:YOSHIKI 編曲:X)
7.Forever Love(作詞・作曲:YOSHIKI 編曲:X JAPAN)
8.DAHLIA(作詞・作曲:YOSHIKI 編曲:X JAPAN)
9.X(THE LAST LIVE~最後の夜~ LIVE VERSION)(作詞:白鳥瞳 作曲:YOSHIKI 編曲:X)
10.Without you(LIVE VERSION)(作詞・作曲・編曲:YOSHIKI)
CD2※初回盤・通常盤共通
1.ART OF LIFE(作詞・作曲:YOSHIKI 編曲:X JAPAN)
DVD※初回限定盤のみ
・Exclusive Trailer of X JAPAN World Tour Live 2009, 2010 & 2011
フォトブック※初回限定盤のみ
・豪華全60P 内容未定
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