【ライブレポート】「『アキのテーマ』は“旧・潮騒のメモリー”」 裏話満載の大友良英&『あまちゃん』スペシャルビッグバンドのツアーが終了

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大友良英&『あまちゃん』スペシャルビッグバンドの東名阪ツアーファイナルが12月5日、NHKホールにて開催された。

◆大友良英&『あまちゃん』スペシャルビッグバンド 東京公演 画像

9月28日のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』最終回から、気づけばもう“暦の上ではディセンバー”。「じぇじぇじぇ」は流行語大賞も受賞するなど、2013年は『あまちゃん』フィーバーが吹き荒れた1年だった。

そんな『あまちゃん』のドラマを彩った楽曲の数々をドラマの音楽を担当した大友良英と、劇伴レコーディングにも参加して大友と一緒に劇伴を作り上げていったバンドメンバー総勢18名による、大友良英&「あまちゃん」スペシャルビッグバンド。ファイナル公演はチケットも即日完売と、全国の『あまちゃん』ファンからの注目度もかなり高い公演となっていた。

「じぇじぇじぇ!」Tシャツを着たり、「北の海女」手ぬぐいを頭に巻いたりと、『あまちゃん』愛を思い思いの格好に落とし込んだ観客たちが見守る中、大友を先頭にステージ上にスペシャルビッグバンドのメンバーが登場。「最初に“最後の”チューニングを」「じゃあ、やりましょうか。」と、こんな感じでファイナル公演は幕を開けた。もちろん1曲目は「あまちゃん オープニングテーマ」。ブルーの照明や映像演出が、北三陸の海を思い起こさせる。

曲間に話される、大友良英による楽曲解説や作曲秘話もこの公演の魅力のひとつ。「あまちゃん オープニングテーマ」で聴こえる“ネコの声”は、実は江川良子のサックスだったことが明らかにされ、驚きの声が早々に上がる(実演つき)。

「あまちゃんクレッツマー」ではチャンチキトルネエドの面々を中心に、海女さんたちが巻き起こすてんやわんやを再現するかのようなステージに。さらに、スナック梨明日のテーマかのように使われ続けた、琥珀の勉さんのテーマ「琥珀色のブルース」では、リードギターを大友が担当。ステージ上手端っこで、琥珀色のライトに照らされながら、琥珀を磨くかのようなチョーキングを見せるその姿は、やはり何度観ても勉さんがそこにいるかのよう。ちなみにステージ上、そのまま視点を移動させると、大友が「うちの(足立)ヒロシ」と呼ぶ、サックスの鈴木広志の服はブティック今野で扱っていそうな柄であった。

打ち上げの席で小泉今日子から「『地味で変で微妙』みたいな曲が大友さんの本領だよね」と言われて微妙な気持ちになったという「地味で変で微妙」を聴くと、ふと“ジミヘンとハゼを混ぜたような彼氏”と付き合うことになったユイちゃんのことが脳裏をよぎる。さらに、華やかな芸能界をイメージした「銀幕のスター」について「NHKにはよく来ているんですが、華やかな芸能界なんて見たことがない」という大友。そんな彼が、華やかな芸能界としてイメージしたのは、懐かしの『シャボン玉ホリデー』にて、ザ・ピーナッツがハナ肇に肘打ちしているバックでジャズのスタンダードナンバー「スターダスト」が流れるシーン、だそうだ。

「まさか鈴鹿ひろ美さんと太巻さんが夫婦だなんて思ってもみなかった……。」と、会場を笑わせながら、“黒い”芸能界をイメージした太巻のテーマ「芸能界」。ちなみに出演者の譜面には当初の曲名が書かれているようで、それによるとこの曲は「アメ横太巻事務所」という曲名だったそうだ。

そしてミズタクのテーマソングである「ミズタク物語」。ハーモニカが印象的なこの曲について、「水口さんのお父さん(つまり松田龍平の父親である故・松田優作)がやってた『探偵物語』のイントロの感じをそのまま『あまちゃん』にしてみようという、すごい安易なリスペクト」と説明。会場は笑いに包まれた。

このタイミングで、大友のマイクスタンドがグラグラになり、マイクがどんどん下がっていく。そんな状況を面白おかしく実況していくうちに、内容がどんどん脱線していく大友。クール・ジャズを代表するリー・コニッツが、同じくマイクがどんどん下がっていく状況で演奏している動画がYouTubeに上がっていることを思い出して、「ぜひチェックしてください。」と、紹介し、さらに「NHKホール、ケツがあるのかな? 終電に間に合えばいいよね?」と沸かせた。

2部構成だったこのライブ。2部は「潮騒のメモリー」「暦の上ではディセンバー」などの作曲者としてもクレジットされているSachiko Mも参加して、3.11の瞬間を描いたシーンでバックに流れた「トンネル~大地」からスタートする。「震災そのものには音楽がつかないと思っている」と言う大友が、自然界にはないSachiko Mのサインウェーブ(純音)を劇伴に用いて、大友のギターハーモニクス、江藤直子の鍵盤(ピアノの“弦”部分の音も使っていたようだが)とともに束ねた音。それは絶望でも不安でもなく、自然という大きな力の前には無力であるという感情をあらためて浮き彫りにする。ちなみに大友は、この曲が最終週の、再建された海女カフェにて鈴鹿ひろ美が「潮騒のメモリー」を生歌歌唱する直前、影武者として会場に飛び込んできた春子のマイクから飛び出した電池が太巻の額を直撃するコミカルなシーンで用いられたことを「ずっとシリアスなシーンで流れた曲が、あのシーンについたことで、すごい救われた気持ちがした」という心情とともに話した。

またライブ中には、能年玲奈と宮本信子、宮藤官九郎からの映像コメントも上映された。「あまちゃんクレッツマー」が北三陸の感じがして好きと語る能年。宮本は「本当に素敵な、忘れられない音楽だと思います。最高!」と絶賛する。さらに宮藤官九郎は「どんな楽曲にも大友さんの人柄が出ている」と楽曲を分析。さらに「暦の上ではディセンバー」制作時のエピソードとして、大友からのデモ音源がなぜかラップパートから送られてきたことを「なんでここから作り始めたのかな?」と、不思議がる(この曲はまず歌詞があり、そこに大友ら4人が分業して曲を付けた)。これについて大友は「ラップ書けって言ったの宮藤さんですからね。(そして制作部の人が)明日までに作れっていうから。忘れてるのかな。」と、苦笑い。ちなみに、「暦の上ではディセンバー」は、ベイビーレイズと女優・水瀬いのりが歌唱したが、実はそのほかにも、レコーディング時にスケジュールがたまたま空いていたアイドルの娘や、アイドルの卵たちを集めてレコーディングされたそうだ。

その後も、当初は「潮騒のメモリー」として作曲していたものの、イメージが違うので一度はボツにした“旧・潮騒”こと「アキのテーマ」や、ドラマの演出家に「東京編は山手線がたくさん出てくる」「北鉄に対して山手線だ」と熱く言われたので、タイトルを「上野アメ横山手線」にしたものの、実際に東京編で山手線が出てきた記憶がほどんとなかったことから、タイトルが変わった「上野アメ横1984」などを裏話とともに披露。なかでも劇中にて“いろんな意味で”インパクトがあった音楽番組『私らの音楽』のタイトルロゴを書いたのは大友だった(美術部の人に「私らの音楽」って書いてみて、と言われて書いたら、なぜか採用されていた)という話や、アキが北三陸に帰ろうと決心するシーンにも使われた「地元に帰ろう」について、「アキちゃんの地元って北三陸か? 世田谷だろ?」という冷静なツッコミに、客席からは驚きの声と爆笑が起こっていた。

アンコールでは、ドラマの中で重要な役割を果たす楽曲として注目され、さらには現実の音楽チャートでも大ヒットとなり多くの世代から愛された「潮騒のメモリー」がインスト演奏された。「みなさんの好きなように歌ってください!」と大友がアナウンスすると、客席からは思い思いの歌声が響き始め、それが次第に大合唱となってホールに響き渡る。それは、インストバンドのコンサートとしては非常に稀な、感動的な瞬間となった。

そしてラストでは「あまちゃん オープニングテーマ」が再び演奏される。会場の興奮は最高潮となり演奏が終了すると同時に、拍手喝采のスタンディングオベーションで観客はこのステージを讃え、ツアー千秋楽は大成功で幕を閉じた。

「本当は9月で終わらなきゃいけないのに、僕たちは落第生」と、大友。彼にとっても、そしてビッグバンドのメンバー、もちろん観客にとっても思い入れが深かった『あまちゃん』が、この日、ひとりひとりの胸の中で卒業式を迎えたのだった。

なお、「あまちゃん」サウンドトラック第3弾『あまちゃんアンコール』は、クリスマスの12月25日にリリースされる。

大友良英&『あまちゃん』スペシャルビッグバンド
2013.12.5 東京公演 NHKホール
・セットリスト
1st Set
1 オープニングテーマ
2 行動のマーチ
3 あまちゃんクレッツマー
4 あまちゃんワルツ
5 琥珀色のブルース
6 地味で変で微妙
7 銀幕のスター
8 芸能界
9 ミズタク物語
10 アイドル狂想曲

2nd Set
1 トンネル~大地 (新曲) Sachiko M(sinewaves)ゲスト
2 友情と軋轢  Sachiko M(sinewaves)ゲスト    
3 奈落のデキシー(暦の上ではディセンバー)
4 上野アメ横1984
4 アキのテーマ
5 地元に帰ろう
6 TIME
7 希求
8 海
9 灯台

アンコール
1 潮騒のメモリー    
2 オープニングテーマ  

バンドメンバー:
大友良英(G)
江藤直子(P) 近藤達郎(Or,Har) 斉藤 寛(Fl) 井上梨江(Cl) 鈴木広志(Sax)
江川良子(Sax)東 涼太(Sax) 佐藤秀徳(Tp) 今込 治(Tb) 木村仁哉(Tuba)
大口俊輔(Acc) かわいしのぶ(B) 芳垣安洋(Ds) 小林武文(Ds,Per)
上原なな江(Per) 相川 瞳(Per) Sachiko M(Sinewaves)

◆BARKSライブレポ
◆「連続テレビ小説 あまちゃん オリジナル・サウンドトラック」レーベルサイト
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