【ライブレポート】コトリンゴ with 金子飛鳥ストリングス、うれしくて暖かくて神秘的なひととき

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横浜市の歴史的建造物の魅力を伝えたい、保存していきたいという思いから企画された音楽イベント<古い建物の響き>──その舞台に選ばれたのは、1917年に創建されて以来、横浜の代表的建造物の一つとして多くの市民に親しまれている横浜市開港記念会館。どっしりとしたレンガ造りの時計台を備える堅固な外観に対し、館内は石造りの壁にルネサンス風の意匠や細かな幾何学的装飾が施されており、色硝子が鮮やかなステンドグラスの大窓や植物を模した優美な曲線のシャンデリアと共に大正モダンの香りを今に伝える贅沢な空間でした。

◆コトリンゴ with 金子飛鳥ストリングス画像

定刻を知らせるアナウンスとともにシャンデリアがローソクを吹き消すように順番に消えていき、額縁舞台の向こうからふんわりとした白い衣装に身を包んだコトリンゴが金子飛鳥ストリングスとともにステージに登場すると、まるでおとぎ話に出てくる楽団のような佇まいに。思わず会場からは「綺麗…!」というため息と、大きな拍手が沸き起こります。

拍手が鳴り終わるのを待ってピアノの前に腰掛けたコトリンゴが「ワン、ツー、スリー」と小さく合図を送ってスタートした1曲目は「runaway girl」。柔らかいカルテットの弦の響きにコトリンゴの軽やかな歌声が重なりあい、会場はあっという間に夢の世界に引きこまれます。そのまま「にちよまち」まで歌いあげると、「今日はこんな素晴らしい演奏家の皆さんとご一緒できて嬉しいです」とにっこり。この日の衣装を担当した衣装デザイナーのスズキタカユキにちなみ、彼がウェディングドレスを提供した映画『新しい靴を買わなくちゃ』のサウンドトラックから「Fashion Show」を披露した後は、コトリンゴのソロパートへ。ピアノのリズムに合わせて会場のあちこちで身体を揺らす様子が見受けられた「みっつの涙」「closet」や、ミュージック・ビデオで横浜の風景が使われたという大きなスケールを感じさせる「ツバメが飛ぶうた」、何度も弾き直しをしては「ごめんなさい…」と小さくなって謝る様子に会場中からクスっと笑いが起きた「かいじゅう」など、彼女のあたたかな人柄がにじみ出るパフォーマンスが続き、一曲ごとに会場中に笑顔があふれていきます。

「いろいろ言いたいことをすっ飛ばしちゃった…」と笑いつつ迎えた本編最後はカルテットを再び招き入れて、この日のためにコトリンゴ自らがアレンジし直したという「classroom」と、ライブの定番曲で久しぶりにストリングスとの競演となった「おいでよ」を。「皆さん、色んな所でお見かけする方ばかりで。私のアレンジでこんなに命を吹き込んでくださるなんて…!と、リハーサルの時からひとりで感激していました」と語ったように、ここでは金子飛鳥ストリングスの面目躍如!「classroom」ではチェロをベースのようにタッピングして踊るように弾むサウンドを表現し、「おいでよ」では圧倒的なアンサンブルでバンドにも負けない疾走感と空間の広がりを生み出してみせるなど、クラシックに留まらずジャズやロックと共演してきたことで知られる彼らの魅力を存分に発揮し、大きな喝采を浴びたのでした。

アンコールは金子飛鳥とコトリンゴのふたりによる、お互いに寄り添うような演奏が会場中に染み渡った「こどものせかい」、そして最後にこちらもカルテットのための新アレンジとなった「to stanford」。曲線を描く講堂の天井から、物語を紡ぐ歌声とおおらかなストリングスのハーモニーが降り注いでくる様子を誰もが息を潜めて見守るフィナーレは圧巻の一言。それはクリスマスや大晦日の夜のような、とてもうれしくて暖かくて、神秘的なひとときとなったのでした。

Text:伴 牧子
Photo by Kentaro Minami, Taku Tatewaki

<古い建物の響き at 横浜市開港記念会館 2013年10月31日(木)>
1.runaway girl
2.にちよまち
3.Fashion Show
4.みっつの涙
5.closet
6.ツバメが飛ぶうた
7.かいじゅう
8.rattlebox
9.こんにちは またあした
10.Let me awake
11.Butterfly
12.Light Up Nippon Theme
13.Preamble
14.classroom
15.おいでよ
EN1.こどものせかい
EN2.to stanford
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