【独占インタビュー】アーネルとディーンが語る、ジャーニー映画『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』の真実

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30年ぶりとなった日本武道館公演を含む4年ぶりのジャパン・ツアーを大盛況のうちに終了させたジャーニー。3月16日からは、かねてから注目を集めていたドキュメンタリー映画『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』の劇場公開も開始となり、新たな感動の輪が広がりつつある。今回は、この滞日中に実現した彼らとの貴重なインタビューをお届けしよう。取材に応えてくれたのは、アーネル・ピネダ(Vo)とディーン・カストロノヴォ(Dr)。この2人には、実は多くの共通点がある。あくまで映画の話を中心とするごく短時間の会見ではあったが、彼らの言葉と表情から、取材現場の和やかな雰囲気を感じ取っていただければ幸いだ。そして、まだこの映画に触れていない人たちには、映画館に是非とも足を運んで欲しいと思う。あなたがジャーニーのファンであるならばもちろん、逆に、このバンドの歴史についてほとんど知らなかったとしても。

◆ジャーニー画像

――まずストレートに訊かせてください。この映画が完成して最初に観たとき、どんな感想を持ちましたか?

アーネル:最初のうちは「どうしよう?」と思いながら観ていたよ。自分のなかの半分が「俺の顔をあんまり映さないで。酷い顔してるから」と囁いていた(笑)。だけど観ているうちに、もう半分の自分が満足感をおぼえ始めていたんだ。というのも、この映画をいろんな人たちに観てもらうことで、強いメッセージを伝えられることに気付けたからだよ。ミュージシャン志望の人たちはもちろんのこと、何らかの世界で成功を目指している人、さまざまな夢を抱えた人たちに、「自分自身を信じながら懸命に取り組み続ければ、辿り着ける場所がかならずあるんだ」ということをね。夢を叶えるためにもがいている人は世界中にたくさんいるはず。だけどそうやって辛抱強くあれる人たちには、奇跡は起こり得るものなんだと俺自身も信じているしね。

ディーン:最初にこの映画を観たのは地元のサンフランシスコでのことだった。驚いたよ。「なんで俺はこんなこと喋ってるんだ?」とか「俺、こんなことしてたっけ?」と思わされるような場面が多々あったからね(笑)。だけどクールだなと思ったのは、何ひとつ台本に基づいたものじゃないってこと。すべて俺たち自身の姿なんだ。だから、メンバー各々がどんな人間かというのを伝えてくれる作品になっていると思う。しかも俺、カメラに追われてることに気付かずにいることが多かったんだよ。だから「俺、こんなこと言ってたっけ?」みたいな場面が多かったんだ(笑)。

――実際、すべて真実であることがこの映画に撮っての最重要な部分ですよね。ただ、現実を見せ過ぎてしまうことに抵抗をおぼえたりはしませんでしたか?

ディーン:いや、ドキュメンタリーというのはそういうものだって理解できていたからね。これは俺たちの人生、アーネルの人生を見せるべきものであるわけで。彼がいつも、どれほどのプレッシャーを味わい、それを克服しながら素晴らしいパフォーマンスをやっているか。俺たちが何者で、どうやって日常に折り合いをつけているか。そういった物語なんだ。そういう意味では、さっきの話の繰り返しになるけども、カメラが遠巻きに撮ってくれていたことは功を奏したと思う。個人でインタビューを受けているときでも、知らないうちに遠くのほうでいろんな角度から撮られていたという感じでね。

――カメラは本当に気にならなかったんですね? 常に追い回されるのは鬱陶しかったんじゃないかと想像していたんですが。

ディーン:全然そういうことはなかった。完成した映画を観てから「そうそう、こんなことがあった」と思い出すようなところさえあったし。まさに、俺たちのありのままの姿が収められているよ。誰も演技なんかしていない。

アーネル:俺の場合、確かにカメラに追われていた時間が長かった。疲れが溜まって消耗しきった状態のときでも撮られていたからね。「まだ16本目のライヴが終わったばかりで、あと30本も残ってるのに、どうしたらいいんだ!」みたいな絶望的な気分のときでさえも(笑)。だから正直、カメラに居て欲しくないときもあったけど、そこで自分に嘘をついてしまったらドキュメンタリーではなくなってしまうからね。だから実際、演技なんかすることは考えなかった。あの映画を通じて観てもらえるのは本当の俺の姿なんだ。

――アーネルの場合、奥さんと2人きりのシーンとかもあったじゃないですか。さすがにああいうのは照れくさかったりするものだったんでは?

アーネル:いや、全然。俺はOKだったし彼女もOKしてくれた。もちろん最初のうちは抵抗もあったようだけど、まず彼女に説明をしたんだ。自分たちのことが物語のかなり大きな割合を占めることになるし、それを公に見せることになる。だけどそれがこの映画のためには必要なんだってことをね。それがないとこの映画はリアルなものにならないし、重要なところが見えてこない。そこで彼女も同意して心を開いてくれたし、撮影が進んでいくにつれて徐々にリラックスできるようになっていたよ。最初のうちはすごくハードだった。なにしろ影のようにカメラが追ってくるわけで。だから当初は「カメラがまわってるのにこんなこと言っちゃった!」とか気にしていたけど、だんだんとそういうことも感じなくなってきたんだ。

――今回の機会を経てきたことで、逆に映画出演に対する興味が湧いてきたりとか、そういった部分もあります?

アーネル:うん。それもちょっと感じてる。演技するのも悪くないかもってね。たぶんホラー映画かコメディってことになるだろうけど(笑)。ラヴ・ストーリーじゃなくてね。女性をリードしていくような役柄は、俺には身長的にも無理だよ(笑)。万が一そういうことになった場合には、俺よりも背の低い素敵な女性を探し出してもらわないと(笑)。

ディーン:奥さんに出演してもらえば問題ない!

アーネル:確かに(笑)。でも、やっぱりコメディとかのほうが向いてるんじゃないかな。さもなければ、俺をライオンの檻にぶち込むとか、そういうののほうが現実的かも(笑)。

ディーン:がはははは!

――確かにお2人はコメディ向きなのかも。それが今、目の前で証明されてますし(笑)。

ディーン:いいコンビだろ?

アーネル:俺がチーチ、ディーンがチョンなんだ(笑/チーチ&チョンは、特に1970年代から1980年代にかけて大人気だったアメリカのコメディアン)。

――お2人にはそういう共通項もあるでしょうけど、たとえばディーンはこのバンドにあっていちばんアーネルの心境を生々しく理解できるメンバーだろうと思うんです。なにしろあなた自身もこのバンドの“歴史”と闘い続けてきたわけで。

ディーン:そうだね。実際、彼はヴォーカリストとしてだけでなく人間としてとても健闘していると思う。ヴォーカリストだから当然のように視線を集めることになるわけで。しかも俺たちはいまだに“新メンバー”と呼ばれる。俺がここでプレイするようになって、もう15年にもなるんだけどね(笑)。だけど俺たち、同じようなハートを持っていると思うんだ。貢献するということが好きだし、謙虚さがあるし、敏感であれる。そういう意味でとてもよく似ていると思うし、まさにお互い兄弟のようなものなんだ。もちろん他の先輩メンバーたちとも同じように繋がっているけど、この2人についてはそういった関係性がより強いと思う。

アーネル:お互い、生きてきた過去が似てるんだ。人生の楽しみ方も、道の誤り方もね(笑)。実際、愚かな楽しみの求め方をしていたこともある。そういう意味でお互いに共感をおぼえられるんだ。彼はある意味、俺の人生を救ってくれた。それこそ実の兄弟がそうしてくれるのと同じようにね。ぶっちゃけ、スケジュールの過酷さに負けてボロボロになることもあった。健全な状態で歌えないこともね。そんなとき、俺の代わりにディーンが歌ってくれることもあったし。

ディーン:それが家族のすべきことであり、チームとしての取り組み方だと思うからね。ほぼすべて、9割以上のショウにおいて彼は完璧なんだ。だけど人間だから、本調子じゃないことだってある。具合が悪い日があるのはどのメンバーにとっても同じことだ。そこでメンバー同士がお互いに助け合えるようじゃないとね。ジャーニーは誰か1人のメンバーによるものじゃなく、本当にバンドなんだ。

――素晴らしいことですね。そしてお2人にとってもうひとつの共通点は、こうして自分自身にとっての長年のフェイバリット・バンドの一員として活動しているということ。その夢が叶ったうえでの“次”の夢というのはどんなものなんでしょうか?

アーネル:ときどきそういうことについて、静かに考えることがあるよ。だけど結局は、この夢をより大きなものにしていくこと以外にはないと思う。そうやって懸命に取り組んでいくことで、また別の奇跡を呼び起こすことができるかもしれない。だからいいライヴができれば次もまたいいライヴをやりたいと思うし、いいアルバムが完成するともっといいアルバムを作りたくなる。そうやって夢をどんどん引き伸ばしていきたいんだ。

ディーン:同感だね。俺自身、現状の素晴らしさには驚かされているんだ。こんなすごいことになるなんてね。しかも可能性が膨張し続けている。結局は音楽そのもののポジティヴィティがその原動力になっているんだと思う。アーネルはどん底からここまで這い上がってきた。この映画自体も、いわば彼のサクセス・ストーリーということになるけども、彼はその成功というものについて正しく対処してきたんだと思う。そこに巻き込まれてクレイジーになってしまうこともなければ、ワガママなロックスターになることもなかった。何が言いたいかわかるだろ? 彼は地に足の着いた男なんだ。ジャーニーはそういう人間たちの集まりなんだよ。それがこのバンドの素晴らしいところだと思う。俺は元々、性格的には能天気なところもあったけど(笑)、彼の振る舞いから学ばされたところもすごくたくさんあるんだ。

――なるほど。ところでこの映画のタイトルにもなっている「ドント・ストップ・ビリーヴィン」という楽曲について、「この曲に人生を救われた」とか「迷っているときに背中を押してもらった」といったことを言う人たちがたくさんいます。この曲自体のパワーの秘密ってどこにあるんでしょう?

アーネル:本来その質問には、ニールに答えてもらわないといけないかもしれない。俺は単に、それを歌ってるに過ぎないからね。だけどメロディ自体がものすごくパワフルだし、実際、あの曲を歌い始めた当初から、まるで自分が書いた曲であるかのように感じてきたんだ。そういう感覚になれるってことが、あの曲の呼ぶ共感の大きさを象徴してると思う。まさにあの曲は、何かしらの望みを抱えている人たちすべてにとってのアンセムだよね。

ディーン:そう、ポジティヴなメッセージのカタマリのような曲だ。今の世界は残念ながらさほどポジティヴな状態にはないかもしれない。でも、だからこそ人は信念を持ちたい。何か信じられるものが欲しい。それをみんな、この曲に見つけてるんじゃないかな。

アーネル:うん、まったく同感だな。

ディーン:日々、ネガティヴな出来事が山ほどある。それこそ戦争から何からね。そんななかにあって、この曲のスピリチュアルな部分というのが訴えかけているんだと思う。ジャーニーのそういうところが俺自身も大好きなんだ。音楽そのものがスピリチュアルだというところがね。宗教的なことをやっているわけじゃない。だけど、そういう曲というのは現実を超越してしまうところがあるんだ。

――最後に、この映画に触れることになる読者へのメッセージをお願いします。

アーネル:まずは感謝したい。ライヴ会場や映画館に足を運んでくれる人たちにね。そしてきっと、誰もこの映画を観て後悔することはないと思う。これはドキュメンタリーであると同時にとてもポジティヴな作品であり、みんなに何らかのインスピレーションを与え得るものだと思うからね。どんな問題を抱えている人の心にも、届くものが何かしら絶対にあるはずだと信じているよ。

ディーン:この音楽、そしてこの映画はみんなを美しい旅に連れて行ってくれるはずだ。そして古くからの熱心なファンはもちろんのこと、新しいファンを獲得できている現実をとても誇りに思っているよ。老若男女を問わず、とにかくジャーニーという素敵な体験をしてくれる人たちを歓迎したいね!

文・撮影:増田勇一

映画『ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン』
2007年12月、新しいリードボーカルを探し求めていたギタリストのニール・ショーンはYou Tubeでジャーニーの曲を歌う無名のフィリピン人シンガー、アーネル・ピネダの映像を偶然見つける。ハイトーンの声質、そして驚くべき歌唱力に衝撃を受け、すぐさまニールはアーネルに連絡を取る。まさかの電話にアーネルは悪質な悪戯だと最初はとりあわなかったが、本当にニール本人だとわかるとすぐさま渡米、オーディションを受け、正式にジャーニーの新ボーカリストとして迎えられた。そのネット時代ならではのサクセスストーリーは全米、世界中で大々的に報道された。歌うことを教えてくれた最愛の母親の死、一家離散、2年間もの路上生活…しかし彼は人生のすべてを歌に賭け、計り知れない苦労を乗り越えアメリカン・ドリームを掴んだ。これは決して夢をあきらめることをしなかったアーネルの不屈の精神とその類まれなる才能の物語でもある。
監督・脚本・プロデューサー:ラモーナ・S・ディアス
出演:ニール・ショーン(本人)/ジョナサン・ケイン(本人)/ロス・ヴァロリー(本人)/ディーン・カストロノヴォ(本人)/アーネル・ピネダ(本人)
2012年/アメリカ/ 英語/ドキュメンタリー/ 105分
提供:ファントム・フィルム/キングレコード
配給:ファントム・フィルムjourney-movie.jp
(C)2012 Everyman's Journey, LLC.
3月16日(土)新宿ピカデリー他 全国順次ロードショー
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