【インタビュー】葉加瀬太郎、新作・旅・作曲・コンサートに込める思いをすべて語るスペシャル・イシュー
葉加瀬太郎が久々のオリジナルアルバム『WITH ONE WISH』を11月7日にリリース。現在、全国ツアーを展開中だ。線路を歩く葉加瀬自身が映し出されたジャケットのイメージ通り、旅情に溢れた、一枚を通してのストーリーが浮かび上がって来る作品だ。1曲ずつでダウンロードできる今の時代に問いかけるような、アルバムとしての醍醐味を追求した今作について話を聞くと共に、葉加瀬太郎ならではの視点で音楽業界の未来について語ってもらった。
■僕はバイオリンがあれば大丈夫っていう自信がある
■ド演歌を唄ったとしても怖くない。むしろそこからが勝負
――アルバム『WITH ONE WISH』は久々のオリジナルアルバムになりますね。タイトルチューンでもある「WITH ONE WISH」という曲が、このアルバムすべての指針になったとのことですが。
葉加瀬太郎(以下、葉加瀬):2011年に出したのがベストアルバムだったので、今年はオリジナルアルバムを作るって決めていたんです。特に、2011.3.11以降は、自分でも色んなことを考えましたし、行動も起こしましたが、音楽家として一つ残さなければいけないし、引っ張って行くような何かを伝えなければいけない。そういったときに、タイミングよく、日医工さんのイメージソングを作ってほしいというオファーを受けまして。“WITH ONE WISH”という言葉は、日医工さんが東北を救えというキャンペーンをやっていて、そのときにもうあったんです。彼らがこの言葉をチラシなどに使って、色んな活動をしているのを見ていて、この言葉から曲が浮かんできたので、迷うことなく、曲名もツアータイトルもアルバムタイトルもこの言葉にしたんですよ。
――復興への願いを込めた「WITH ONE WISH」で、次が家に帰ろうという意味のタイトルがついた「Back to our home」じゃないですか。今でもまだ家に帰れなくて苦しんでいる方々がいらっしゃる。その人たちへの応援のメッセージもこもっているような流れですね。
葉加瀬:そう。これは意図的な流れです。僕自身も年を重ねたというのが一番の理由でしょうけど、今までになく自分の故郷とか、自分の幼少時代とか、そこに帰る、そこを見つめ直すみたいな作業が多くて。一番最後のほうに入っている「MY HOMETOWN」っていう曲もそうですし。今までは、あまり掘り下げなかった、そういう自分の子供の頃の感覚っていうのを自分の中で見た気がします。全部が自分の経験においての里帰りじゃないけど、レイドバックするような、そういう気持ちになるような曲作りをしたかったんです。今まではそういうことは考えられませんでしたが、今回はそれが濃かったと思います。今、僕の中では、感覚的にそういうところに戻ることが必要みたいですね。
▲『WITH ONE WISH』限定盤
葉加瀬:うん。旅はなぜ旅かって言うと終わりがあるからなんですよね。帰るところがあるから旅が成立する。旅先にずっといたら、それは移住ですから(笑)。旅が終わるときの何とも言えない寂寥感とか、でも充実した感じってあるじゃないですか。帰りの飛行機でも新幹線、遠足の帰りの電車の中の気分とかあるでしょ? そういう感覚をいま音にしたいんです。
――「シシリアンセレナーデ」の葉加瀬さんの解説にニーノ・ロータの名前が出てきますが、曲を聴いたあとにこの解説を読むとニヤリとしますね。あぁ、なるほどと(笑)。
葉加瀬:この曲はメロディが先にできて、曲が持っている原初的なイメージでアレンジメントを考えていたときに、まさにニーノ・ロータの「太陽がいっぱい」が浮かんで来て。奇をてらうこと無く、そういうフォーマットに乗ったアレンジメントをしようと。これは実は勇気のいることなんです。過去の名曲とイメージを遠ざけるために、もっと別の見え方がするアレンジにしたほうが逃げられますが、そういう逃げのアレンジメントをするのが今はすごく嫌で。テクノロジーの発達によって色んな音色が使えるというのもあって、シンセだ、ProToolsだ、手を変え品を変え、一つのファクターを色んな風に見せるのも楽しい作業なんだけど、そこにいまは飽きていて。メロディの持っているもの、そこにとって正しいアレンジメントをするというのがすごく楽しいんです。
▲『WITH ONE WISH』通常盤
葉加瀬:そうそう。クライズラー&カンパニーなんてまさにそうで、手を変え品を変えをどこまでできるかが勝負のバンドだったわけですよね。クライズラー&カンパニーの一番の魅力って、全部がシャレなんだよね。本気でシャレをやってる。最終的に言いたいことは「嘘だよー!」ってことだから。いまはそれに飽きてるんです。自分で作った曲も先陣達の影響をいっぱい受けているじゃないですか。あの時の感動をもう一回伝えるために継承して何が悪いんだ?っていう感じ。
――自分の色がしっかりないとできないことでもありますね。
葉加瀬:そうなんです。いまはそれは、僕のバイオリンがあれば大丈夫っていう自信があるんです。ド演歌を唄ったとしても大丈夫っていうね。怖くないですね。むしろそこからが勝負っていう。自分で言うのもなんだけど、僕はバイオリンで何をやってきたかって言うと、歌を唄う代わりにバイオリンを弾いていると思うんです。8小節のシンプルで美しいメロディを描き、そのメロディをどう弾き切るかっていうのに命をかけてきたと思うし、そこは自信がある。自分の曲を描く時は、フッと浮かんだメロディがあったら、それを書いた五線紙をずっと自分の見えるところに置いておくんです。そこから一週間、二週間なりの作業は、いらない音を取って行く。極限までにシンプルにする。そこまでやって、何もなくなったメロディをどう唄うか。例えばファ、ミ、レ、ドってあって、ファ、ミ、レは必要ないと思って取っちゃったら、ド1音に込める力の方が強くなるから。そうやって和音とリズムとメロディの関係をピアノの譜面台の上に五線紙を乗せてただずっと見ているんです。
――いつくらいからその方法で作ってらっしゃるんですか?
葉加瀬:10年以上でしょうね。職人としてのこだわりっていうかね。これもいらない、これもいらないって、いろんなものを取って行くと、どんどんシンプルになっていく。そこが自分の作曲するときの一番の肝だと思っています。そうすると自分のバイオリンが生きて来る。できるだけ行間を作るっていう。
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