【BARKS編集部レビュー】手作りイヤホン、その魅力とは?

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2012年6月23日(土)、イヤホン・ヘッドホン専門店e☆イヤホン主催にて<ファイナルオーディオデザインのイヤホンを作ってみよう!>というユーザー参加型イベントが開催された。

◆<ファイナルオーディオデザインのイヤホンを作ってみよう!>イベント画像

▲今回用意された全パーツは、綺麗に個包装され、混乱なく作業できる環境が整えられていた。
▲ステンレスのハウジングとブッシュにケーブルを通し抜け防止の結び目をひとつ。
▲スポンジに固定したドライバーにケーブルを手速くハンダ付け。
▲ドライバー前面に音漏れ防止の黒いドーナツ状のスポンジリングを貼ってこの通り。
▲リアボディとフロントボディをネジで締めて合体。
▲この音導管に音響フィルターとなるスポンジとダストフィルターを接着する。
▲ダストフィルター接着完了。
▲背面はアルミシートを貼れば完成。
▲アルミシートを張る前にアルミテープでポート孔のサイズを試行錯誤。まずは爪楊枝で1穴ブスリ。
▲細かいチューニングは後の楽しみとして、まずは完成!
▲なんとケースも付属。heaven IVに付属するケースと同じものだ。
▲今回搭載されているドライバーの周波数特性を解説。
▲会場では皆少年のような目がきらり(※女性は乙女のまなざしで)。
220,000円という超弩級から3,280円のエントリーモデルまで、幅広いイヤホンのラインナップを持ちながらも一貫して強烈な個性でマニアを悶絶させるピュアオーディオブランドであるファイナルオーディオデザインだが、このイベントは、完成に必要なイヤホンパーツを彼らが全て用意し、イヤホンの組み込みを体験させてくれるという、いわば一般ユーザー向けイヤホン組立教室である。組み立てに必要なパーツと道具のセットアップはもちろん、専門エンジニアのサポートまで用意するという至れり尽くせりの環境のもと、秋葉原の某ビルにて2時間にわたってイベントは行われた。

今でこそイヤホンマニアから絶大な信頼を誇るファイナルオーディオデザインだが、そもそも一部の突き抜けたハイエンドピュアオーディオ・マニアに向けた事業展開を行ってきた企業だけに、コンシューマの目に届くことなくODM事業などバックエンドで様々な実績を重ねてきた社歴を持っている。オーディオにまつわる様々なノウハウと高品質なデータを保有するブランドだが、そんな彼らが未だ力説するのは「オーディオは測定データと音が一致しない」という奇妙な事実だ。数値では解決できない水面下の要素が多分に影響するということかもしれないが、サウンドデザインはやはり「感性の問題」と断言する。

そんな彼らだからこそ、普段から標準筐体というデフォルトサウンドを設け、そこを基準にサウンド設計やチューニング、ODM案件を進めていくのだという。そして今回のイベントで用意されたのは、まさしくそのデフォルトサウンドを叩き出す標準筐体をそのまま使用した、ザ・デフォルトとでもいうべきファイナルオーディオデザインのイヤホン製作であった。

組み立て教室自体は、非常にシンプルで難易度は高くない。既に磨きこまれたステンレス筐体と、被膜もきれいに処理済みのケーブル、完成済みのダイナミックドライバーを順に組み上げるというだけだ。デリケートな点としては、手早い作業が必要なドライバーへのケーブル・ハンダ付けや、空気漏れを防ぐパッキンの均等な貼りこみ、音響フィルタの接着などで、器用さが求められる点も多少はあるものの、専門的なスキルが必要というものではない。各細かいパーツもすべて完成された形状で用意されているため、工作技術は全く不要だ。

ただ、やはり面白いのは、組み込み過程の精度やセットアップによってサウンドが変化するという点である。我々素人は意図しないところでサウンドに悪影響を与えてしまうわけだが、逆に言えばそれは、手を加えることでサウンドがいかようにも変化することを示唆している。そこで重要になってくるのが、今回用意された標準筐体というもので、実は、こいつがデフォルトでは過剰なほどの低域が出る設計となっている。ここがポイントだ。

レコーディングでも、出ていない音はいくらイコライザーで突こうとも出すことはできないが、出ていることを減らすことは容易であり、サウンドチューニングは余計な帯域をカットするのが王道となる。そういう意味において、全帯域が過剰に出る標準筐体でデフォルトサウンドをユーザーに提供し、さあ、自分の好みでチューニングをしてみようじゃないか、というのがこのイベントに隠されていた壮大な裏テーマでもあったのだ。

サウンドをチューニングする手法として手を加える余地はたくさん残されていた。筐体はねじ切りで簡単に分解ができる。音導管(ステム)に詰められたフィルターを交換するもよし、アルミ箔で作られた背面用のシールは、針で突けば自在に穴が開き、低域の量をコントロールすることができる。たっぷり用意された筐体内の内部容積を詰め物で減らすことで低域の鳴りを減少させ、タイトな高域寄りのサウンドに調整することも可能なのだ。

ファイナルオーディオデザインのスタッフは、「東急ハンズに行くと全てがフィルターに見える」と会場の笑いを誘ったが、これもあながち冗談ではないだろう。その辺のスポンジや布きれはもちろん、ティッシュだって立派なフィルターになるはずだ。クリネックスよりネピアの方がローの締りがいいなんて会話だってあるかもしれない。また、背面にどのようなポートを設けるかも低域の量感や音場に影響を与える。塞げばタイトになるが、穴を空ければその分低域の量が増える…が、ある臨界点を境に音の腰は砕け、完全にオープンにすると開放型のような広がりが得られる。ハウジングに関しては、中の詰め物によって容積コントロールと共に背面の音響フィルターを兼ねることもできるだろうし、頻繁なメンテさえいとわなければ、経年変化の激しい素材を突っ込むことだってOKだ。マシュマロとか最高かもしれんぞ。つまりメーカーではとてもマネのできないサウンドコントロールの幅が、我々の手中にはあるということだ。

ODM事業を含め、イヤホンの設計・製作・販売まですべての工程を自社でまかなっている希少なブランドだからこそ、チューニングのおもしろさと奥深さ、その深遠なるオーディオの醍醐味を、イヤホンファンに堪能してもらいたいと彼らは思ったのだろう。今回のイベントの根底にある真の企画意図はそこにある。

「いろんな試みをしてチューニングによって音が大きく変わることを体感してください。そして自分好みの音作りに挑戦してみれば、その面白さと大変さがお分かりになると思います。そしてそこで得た知識をもとに他社のイヤホンも見てみれば、様々な工夫や素晴らしい作りやアイディアがたくさん注がれていることに気付かれるでしょう。」──ファイナルオーディオデザイン

音の好みは十人十色、個人差も激しく、ひとりひとりで求める理想も好みも違うものだ。ピュアオーディオマニアの求めるサウンド設計の歴史を通して、ファイナルオーディオデザインが追及し続けているものは、今もなおいかにオーディオファンひとりひとりに十分な満足を提供するかということだ。<ファイナルオーディオデザインのイヤホンを作ってみよう!>というイベントこそ、ファイナルオーディオデザインが提示する、本来のブランド姿勢に100%沿ったものと言えるのではないか。

5月と6月にかけて、大阪と東京の2か所で開催された今回のイベントは、参加者からは5000円の参加費が徴収されているが、実のところ部材費だけで原価は1万円を下らないという。こんなイベントを繰り返していては会社がつぶれてしまうわけで、今後も精力的に行うわけにはいかないというのも、偽らざる事実だ。だが、ファイナルオーディオデザインが貫く一貫した姿勢は、イヤホン・ヘッドホン界の明日を切り開く、これまでにない新たな市場を開拓する余地もある。

今後の予定は全く未定だが、ファイナルオーディオデザインのことであるから、またきっと我々に新鮮な驚きと心地よい刺激を与えてくれることだろう。

text by BARKS編集長 烏丸

◆ファイナルオーディオデザイン・オフィシャルサイト
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