【連載】Vinyl Forest Vol.20 ── France「Grand Tour」
“ジャケ買い”の楽しさは、レコードやCDが好きな方であればわかっていただけるであろうか?
Dee-S氏も含め、私も年間を通して膨大な数のトラックを聴いて、時にはジャケットの芸術性だけで買ってしまう盤がたまに存在する。聴きもせずに買ってしまう衝動にかられる要因は人それぞれであるから、一概には決められないけれど、そんな理屈をぶっ飛ばして直感的に買ってしまう盤が実際にあるのだ。CDにもこのジャケット買いはあるが、ジャケットが大きいせいかレコードのほうがよりその魔力は大きいように感じる。
そんな筆者が、第6感から購入してしまった2012年一発目のジャケ買いは、フランスのアーティストで、その名もFranceである。タイトルの「Grand Tour」から連想すると、Kraftwerkの「Le Tour de France」を思い起こす方もいるかもしれない。
とにかく今回はジャケットでハートを撃ち抜かれてしまった。レトロ・フィチャーの世界観を感じつつも、近未来的な、でも一歩間違えるとダサくなってしまうようなバランスを保ったジャケット。月や惑星、宇宙船のモチーフがあると大体の音の感じは予想しつつも、まず聴いてみた、というのが今回のレコードとの出会いだ。月らしき惑星にエッフェル塔が立っているなんて、筆者としては、もう買わずにはいられないわけだ。ジャケに写っている車はシトロエンだろうか。
1曲目はEP名にもなっている「Grand Tour」、予想通りのシンセベースの綺麗なトラックで、ボーカルはフランス語だろうか、マイナーコードのシンセフレーズとボーカルが重なり、哀愁感すら漂う。
オススメはその名もフランスの道路と名付けられたトラック「Sur Les Routes De France」だ。発射音のようなSEが各所に散りばめられて、なんとも懐かしい曲調に感じる。恐らくは、狙ってこのレトロ感を出しているのだろう。こういった曲調が最近増えてきているようにも感じて、近頃のイタロディスコ回帰の流れに反応していそうだ。このトラックは、ボーカルがよりハーモニックで心地よい。しっとりとした声色でなんとも艶やかだ。個人的には、80年代のMy Mineのボーカル、Darren Hatchのような印象を受け、まさにジャケットにあるような一本道を車で駆け抜ける様なイメージのトラックだ。
ラストの「14 Juillet」は、しっとりとしたギターアルペジオのトラックで締めくくられている。「Grand Tour」や「Sur Les Routes De France」のトラックはアップリフティングな曲調ではないにしろ、選曲次第では、今のNu Discoシーンにもうまくマッチするのではないかと思う。
昨今のNu Discoシーンは一時期のブームは去ったように感じるし、少し飽和状態でもあると感じているので、こういった少し変わったトラックなども「聴きず嫌い」せずに、ぜひ聴いてみてほしい。ちなみにこちらのヴァイナルは今のところ、国内では一切取り扱いがない。気になった方は http://www.tutrur.com/ から購入できる。
text by Blue Eclair
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──【連載】「Vinyl Forest」とは
筆者の私達は音楽好きなのは言うまでもないのだが、それでも年齢を重ねるにつれ不感症になりつつある。原因はハッキリしていて、テクノロジーの進化によって低価格、高品質な制作環境が容易に手に入る昨今にもかかわらず、楽曲のクオリティが退化の一途を辿っているからだ。低コストで在庫を抱えずに済むからレーベルは多くのリリースができる反面、現場ではとても使えないトラックも非常に多い。
そこで、データ音楽販売が主流となった昨今のダンスミュージック界隈の懐事情を鑑みて、
「私たちは、レーベル側が在庫リスクを背負い、インディながらも頑なにVinylをリリースするという行為そのものが、レーベルが充分な楽曲クオリティを保証しているのではないのか?」
という持論(フィルタリング)で巡り会えた珠玉の刺激物と、今では考えられない予算を投じてリリースされた名盤をご紹介していく。
text by Dee-S&Blue Eclair
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