【連載】Vinyl Forest Vol.15 ── ARGY「WISH YOU WERE HERE」
ここ最近の流行によって、良くも悪くもBarealicと呼ばれるジャンルが確立しつつあるクラブシーンであるが、少しジャンル自体が先行してしまい名曲を少しエディットしただけで、中身がイマイチなトラックも多いと感じているリスナーもいるかと思う。今回は、そんなシーンの中でも芸術性に富み、オリジナリティのあるトラックを制作しているギリシャのアーティストがいるので紹介したいと思う。
私、Blue Eclairがご紹介したいのは、Zodiac Free Arts Clubというアーティスト集団だ。このプロジェクト名よりも、These Daysの「Argy」の象徴的なジャケットのヴァイナルのアーティストの方がピンとくる方は多いかもしれない。もしくは最近リリースされたFloating Worldのアーティストの方がよりピンとくる方もいるだろう。
ArgyことArgyris Theofilis。These Daysレーベルでリリースしていた頃は、若干ミニマルよりのディープハウストラックが多かったが、Floating WorldなどではいわゆるBarealic Soundにシフトしている印象を受けた。Nu DiscoやBarealicにシフトしてくるアーティストが多い中で個人的に感じる事は、やはりオリジナルトラックがしっかり作れるアーティストのサウンドは埋もれないし、玄人達の耳に留まるということだ。呼称はあまり重要ではないが、このArgyのサウンドはモダン・バレアリックサウンドとも呼ばれている。
今回はドイツの振興レーベルPermanent Vacationからのリリースとなっており、個人的にはArgyらしくジャケにも拘って欲しかったのだが、今回はジャケなしのようだ。現段階ではプロモなので、リリースされる際はジャケ付きかもしれない。
トラックのレヴューの前にZodiac Free Arts Clubについて、少し補足をすると、伝説の'60年代ベルリンのアート音楽集団のZodiak Free Arts Labから影響を受けたとされている。彼らを一躍シーンに押し上げたのは、Manuel GottschingのSunrainのリミックスであったと言い切っても良いだろう。いろいろな動画サイトでも確認できるので、ぜひ一度聴いてみてほしい。
今回の4曲入りEPでは、Barealic過ぎず、4つ打ちHouse過ぎず、いいバランスが取れているという第一印象だった。
「N.O.A.E」は、全体的にどこか哀愁感が染み出るような雰囲気で、Barealicから連想される、夏、浜辺、開放感、のような感じはなく、むしろ秋冬、霧の森の中を進んで行くような、どちらかというと、冷たいイメージだ。こういったじんわりと低空飛行するトラックは個人的によくかける。
「Wish You Were Here」は、まさに“ザ・The Permanent Vacationサウンド”と言った印象。Argy自身がレーベル用に用意したか、リクエストがあって制作したのではないかと勘ぐってしまうぐらい、レーベル色にピタリと合っている。浮遊するシンセトラックに跳ねるピアノサウンド、極めつけは透明感のあるフィメイルヴォーカルが絡む。Dub Versionでは少しアシッド感が足されている印象だ。一曲ぐらいはもう少しダウンテンポのチルアウトトラックがあれば良かったのにと思うのは欲張り過ぎだろうか。
日々変化するシーンに柔軟に対応できるアーティストは、このArgyのように芯に独自性があるアーティストではないかと思う。ぜひチェックしてほしい盤だ。
text by Blue Eclair
◆Blue Eclairs Room
◆【連載】Vinyl Forest アーカイブ
──【連載】「Vinyl Forest」とは
筆者の私達は音楽好きなのは言うまでもないのだが、それでも年齢を重ねるにつれ不感症になりつつある。原因はハッキリしていて、テクノロジーの進化によって低価格、高品質な制作環境が容易に手に入る昨今にもかかわらず、楽曲のクオリティが退化の一途を辿っているからだ。低コストで在庫を抱えずに済むからレーベルは多くのリリースができる反面、現場ではとても使えないトラックも非常に多い。
そこで、データ音楽販売が主流となった昨今のダンスミュージック界隈の懐事情を鑑みて、
「私たちは、レーベル側が在庫リスクを背負い、インディながらも頑なにVinylをリリースするという行為そのものが、レーベルが充分な楽曲クオリティを保証しているのではないのか?」
という持論(フィルタリング)で巡り会えた珠玉の刺激物と、今では考えられない予算を投じてリリースされた名盤をご紹介していく。
text by Dee-S&Blue Eclair
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