【連載】Vinyl Forest vol.3 ── Ndf「Since We Last Met」

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最近、ダンスミュージック・シーンで90年代が再評価されている。

理由は様々あると思うが、私の所感では、現在活躍しているアーティストが最も影響を受けたのは87年から90年代初頭というダンスミュージック黎明期から成長期にかけての音楽で、「青春を謳歌した音楽が20年の時を経て一回りし、最新の音と偶然にフィットしてしまった」というのが自然なところかもしれない。ちなみに私も「Nu Disco」という世界に触れ、最先端の音楽と往年の名曲を同時に聴きながら常日頃感じている事なのだが、2010年は特に、この87年から90年代初期の音楽が不思議と違和感なく聴こえてしまう。

この87年から90年代初期のダンスミュージックを最新の音楽へ上手く取り入れたのが、今回ご紹介するNdf「Since We Last Met」だ。すでに日本のコアなリスナーにはなじみの深い、NY Underground Discoを代表するレーベル「DFA」から登場した本作は、Minimal / Techno出身のBruno PronsatoとSergio Giorginiによるユニットを採用。90年代初頭のdeep houseを彷彿とさせる音数の少ないシンプルな曲構成でスモーキーな展開、そして新しくも懐かしい食感を全編にわたって感じることができる素晴らしい作品となっている。

特に新しい手法を取り入れている訳でもなく、華がある訳でもない。しかし、このトラックはDJのセンス次第で、ココから先にどのような展開に持っていくか? とワクワクさせてくれる。そんな曲なのだ。

そして、この作品はリミキサーにRicardo Villalobosを採用しているのも興味深い。Minimal / Techno界の重鎮がNu Disco界に参入してきたという事が、今後、ダンスミュージック業界全体に影響を与えるキッカケとなり得るからだ。今回のremixはRicardo作品で最も評価の高い2006年リリースの「Fizheuer Zieheuer」に匹敵する傑作で、実に彼らしい無機質で淡々とした展開にキラリと光るブッ飛び具合が正にツボ。

この作品を境にNu Discoはminimal / technoとのコネクトを可能にする、そう断言しても大袈裟ではない。

text by Dee-S

◆drumatrixx mag

──【連載】「Vinyl Forest」とは

筆者の私達は音楽好きなのは言うまでもないのだが、それでも年齢を重ねるにつれ不感症になりつつある。原因はハッキリしていて、テクノロジーの進化によって低価格、高品質な制作環境が容易に手に入る昨今にもかかわらず、楽曲のクオリティが退化の一途を辿っているからだ。低コストで在庫を抱えずに済むからレーベルは多くのリリースができる反面、現場ではとても使えないトラックも非常に多い。

そこで、データ音楽販売が主流となった昨今のダンスミュージック界隈の懐事情を鑑みて、

「私たちは、レーベル側が在庫リスクを背負い、インディながらも頑なにVinylをリリースするという行為そのものが、レーベルが充分な楽曲クオリティを保証しているのではないのか?」

という持論(フィルタリング)で巡り会えた珠玉の刺激物と、今では考えられない予算を投じてリリースされた名盤をご紹介していく。

text by Dee-S&Blue Eclair
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