増田勇一の『今月のヘヴィロテ(10月篇)』

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11月とは思えぬ暖かい日差しと冷たい風とが共存している今日この頃。10月に僕が聴きまくった新譜のラインナップにも、轟音とおセンチが同居していたりする。こんな温度感の音楽ファン、実は少なくないのではないかと思うのだけども。というわけで、以下が今回のラインナップである。

●スレイヤー『血塗ラレタ世界』
●アトレイユ『コングリゲイション・オヴ・ザ・ダムド』
●コンヴァージ『アックス・トゥ・フォール』
●スレット・シグナル『ヴィジランス』
●HEAD PHONES PRESIDENT『PRODIGIUM』
●クルシファイド・バーバラ『ティル・デス・ドゥ・アス・パーティー』
●KISS『SONIC BOOM』(輸入盤)
●ヨーロッパ『ラスト・ルック・アット・エデン』
●ザ・ブラック・クロウズ『ビフォア・ザ・フロスト』
●ナタリー・インブルーリア『カム・トゥ・ライフ』

なんとなく、前半に激しくてうるさいものをまとめてみました。順不同です。が、とにかくスレイヤーは文句なし。「どうせいつものスレイヤーだろ?」程度の気持ちでこの作品に触れたら、恐ろしいことになる。というか、それでも「やっぱりいつものスレイヤーじゃん」としか感じない人もたくさんいるのだろうが、「いつものスレイヤー」のままであり続けることには、実は進化や改革や成熟が必要なはずなのだ。それを実践できているからこそ、このバンドはセルフ・パロディの罠にはまることがないし、音楽的に相容れない人たちからも一目を置かれる存在であり続けている。まさに“バンドのあり方”としてのひとつの理想形がそこにあると僕は思う。

格段のスケール・アップを遂げたアトレイユの新作も良かった。ときどき少々“お馬鹿”だったりもするパブリック・イメージゆえに軽視してきた人たちも少なからずいるのではないかと思うが、今作を聴くと「ああ、やっぱり本当にデキるやつらだったんだ」と感じさせられる。ある意味、王道。このダイナミックスを、現在の彼らの格に相応しい状況で味わってみたいもの。来日公演実現を願いたい。

他に刺激物として常用していたのは、コンヴァージとかスレット・シグナルとか。前者は相変わらず圧倒的。カナダ出身の後者は、大胆なメンバー・チェンジを経ているが、音楽的に従来よりも整理ができてきたという印象。ジョン・ハワード(vo)の声質自体が好きな僕としては、これは歓迎すべき転換だったといえる。

今回、国内アーティストのなかから唯一の選出となったHEAD PHONES PRESIDENTに関しては、いよいよ独自の世界観が揺るぎないものとして確立されてきたという印象。さすがは10年選手。10月23日に渋谷O-WESTで観たワンマン・ライヴの際にも感じたことだが、ANZA(vo)は激情型でありながら劇場型でもあれるヴォーカリスト。スポンテニアスな部分を大切にしながら、肝心の部分ではしっかりとコントロールをきかせることができる逸材である。今作と今回のライヴを機に、もうちょっと“深入り”してみたくなったというのが、現在の僕自身の素直な気持ちだ。

音楽的にはまったく違うけども、スレイヤーと同じ意味でセルフ・パロディとは無縁な状態であり続けているのがザ・ブラック・クロウズ。彼らの新作(これを購入すると、もう1枚『アンティル・ザ・フリーズ』と題された新作がダウンロード可能。実質2枚組というわけだ)も素晴らしかったし、ヨーロッパの新作については、すごく正直に言うと「まったく期待していなかったぶん、感動が大きかった」というのが本音。北欧爆走姐ちゃん4人組、クルシファイド・バーバラの成長ぶりにも唸らされたし(ちなみに今回、この作品のライナーノーツを書かせていただいた)、ナタリー・インブルーリアの歌声には、今回も癒された。この人の声、デビュー当時から大好物なもので。

そして、KISS。全米チャート初登場2位という自己最高記録を達成したこの作品は、今のところ日本盤の発売が決まっていない。同じように今回、輸入盤として紹介するつもりでいたラムシュタインとジョー・ペリーは、どちらも嬉しいことに12月に国内発売が決まった(ので改めて別の機会に紹介することにした)のだが、このまま「KISSの日本盤が出ない」なんてことになりでもしたら、これは一大事。各レコード会社の皆さん、是非、ご検討を。ちなみに痺れを切らした僕は、今月、彼らのライヴを観に渡米することにしました。もちろん目的は、それだけじゃないのだが。

他に今月よく聴いたのは、ウルフマザーとか、ウィーザーとか、アンヴィルとか、レーナード・スキナードとか、ボウリング・フォー・スープとか、9月末に発売されていたポーキュパイン・ツリーとか。そして11月の注目新譜といえば、まずは11月11日に発売を迎えるDEAD ENDの『METAMORPHOSIS』に対する反響が楽しみ。彼らの旧作群も同時にリリースされるが、同じ日にはGuns N' Rosesの紙ジャケ・シリーズも一気に登場することになる。こちらに関しては、また改めて。

増田勇一
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