BARKS編集長002「楽器フェアで聴いた、いい音」
◆「2009楽器フェア速報記事」
▲DIEZELのシュミット |
私も一時期愛用したが、実はその最大の長所であるはずの音の良さに飽きを感じてしまってもいた。あまりに画一的に完成度の高いハイゲインを簡単に出してしまう器用さが、なんだかつまらなく感じてしまったのだ。もちろんDIEZELの凄さはそこであり、安定した高品位サウンドの確保はプロにとって何よりも重要なこと。だからこそ世界中で高い評価を受けている。
ただ、わたしゃアマチュア。なんともわがままな話なのだけど、ねじ伏せていい音を捻り出す床の間ギタリストには、もっと遊びの触れ幅の大きいアンプのほうが楽しめたりするようなのだ。いい音を求めているくせに、それが簡単に手に入ると「いい音だー♪」という至上の喜びも長続きしない。なんだかヘリでエベレストの頂上に降り立って喜んでいるような心地悪さだ。
誰が弾いてもいい音って実は面白くない。誰が弾いても悪い音なんてのは論外だが、人によって音が違ってしまう面白さこそ、楽器好きにとって最大の醍醐味と感じはじめてからは、シンプル構造のヴィンテージアンプのような器のでかさを、最先端のアンプブランドから現代風のアレンジで発売してほしいと懇願していたところがあった。
そんな心模様に「これどうよ!」と突きつけてくれたのがシュミットだったのである。EL34×2のクラスA駆動という時点でVH-4/ハーバート/アインシュタインとは全く別物。多チャンネルではあるものの、極端なハイやローを制御するつまみもないし、とにかく自然にドライブしていく男らしい設計思想が貫かれている(ようにみえる)。
▲ピーター・シュタプファー氏 |
そんな兄ーちゃん、話を聞かせてくれたこの人こそ、実は、ドイツDIEZEL社で開発を行なっているピーター・シュタプファー氏。いっしょにいたスキンヘッドのおっちゃんこそ、オーナーDIEZEL氏ご本人だった。勝手なイメージながら、DIEZEL開発者からAC/DC系サウンドへの大いなるリスペクトを得られることが予想外で、妙な喜びにシュミットへの期待値は5割アップに急上昇だ。
ハイゲインの3chでは、極悪ゲインを望まなければ十二分な歪量をもつ。適度なざらつき、腰に来るアタック、この肉感的なバイブこそ、DIEZEL社にとって新機軸であることに間違いない。「これ、もう買うぞ。買っちゃうぞ。借金してな…」と心の中でお祭りスイッチが入ったが、そんな高揚した私に、ピーター氏は「付属のフットスイッチの接続はね、普通のギターのシールドでOKなんだよ」と教えてくれた。
▲フットスイッチ |
MIDIを搭載しない一方で、密かに高い技術力と気の利いた設計が施されているシュミット。DIEZELファミリーの四男坊、なかなか凄い子が生まれたようだ。同時にベースアンプも開発していたDIEZELアンプ、彼らへのブランドイメージに新たな側面が追加された、ちょっとうれしい出来事だった。
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