地球鋼鉄化?映画『グローバル・メタル』公開直前
8月23日に公開されるメタルに関わりの深い映画というと、多くの人は『デトロイト・メタル・シティ』を思い起こすのだろうが、実はもうひとつ、同じ日に東京・渋谷アミューズCQNでレイトショー公開を迎える非常に濃密なメタル作品がある。題して『グローバル・メタル』。『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』を手掛けたサム・ダンとスコット・マクフェイデンの脚本/監督/製作による新作、といえばピンとくる人も多いのではないだろうか。
『グローバル・メタル』というやたらとスケールの大きなタイトルには、地球温暖化ならぬ地球鋼鉄化なんて言葉を連想させるところがあるが、実際、この作品が目的としているのは、まさにグローバルな視点からヘヴィ・メタルの存在を浮き彫りにすること。このチームにとっての処女作でもあった『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』は、“一方では熱烈な支持を集めながら、他方ではとことん嫌われる”というメタルの不思議さの原因究明を軸とし、著名なミュージシャンから学者たちに至るまでの取材を織り交ぜながらその実態を描くというもので、カナダ出身のダン&マクフェイデンが繰り広げる“メタル巡礼の旅”のドキュメンタリーのような成り立ちをしていた。が、どこか“メタルと勉強が好きな2人組による卒業制作”みたいな匂いがしていたのも事実だ。
その第1作の成功そのものが基盤となった(すなわちその収益が製作費にもなった)今作でも、彼らは旅を重ね、その行程がそのままこの作品のストーリーになっている。が、まるで異なっているのがその目的地だ。前回もノルウェーにまでブラック・メタルの取材に出向いたりはしていたが、その訪問範囲はあくまで欧米が中心だった。しかし今作での彼らの旅は、ブラジルやはじめ、日本、中国、イスラエル、インド、インドネシア、アラブ首長国連邦にまで及んでいる。国や地域によってまるで異なる文化や情勢のもと、“同様にヘヴィ・メタルを愛している人たち”にどれだけ共通項があり、また、どれだけの違いがあるのかが描かれているのだ。
実は、両監督は先頃この作品のプロモーションのために来日しており、筆者も取材する機会を得たのだが、その際、「今回いちばん違っているのは、前作では自分たちのなかですでにわかりかけていたことを証明しようとしていたのに対し、今回はメタルのみを共通言語としながら、未知の領域に飛び込んだことなのでは?」と筆者が指摘すると、2人は「そこまで理解してもらえたならば何も説明する必要はないかも」と笑っていた。
ちなみに筆者はその取材時、この映画のスチール写真でサム・ダンがデス・エンジェルのTシャツを着ていたのを確認済みだったため、同バンドのTシャツ着用で出向いたのだが、そのとき彼が着ていたのは、なんとバソリーのTシャツ。彼は「昔は同じクラスはおろか、同じ街にすら自分と同じTシャツを持ってるヤツなんて皆無だった。今、こんなふうに同じ部屋のなかでバソリーとデス・エンジェルのTシャツを着た野郎どもが向かい合ってるというのは、実に興味深いことだと思わないか?」と真顔で語っていた。
実際、この人たちの発言には興味深いものがたくさんあるので、また機会を改めてこの作品の裏話などとともにお届けしようと思うのだが、まずはとにかく『グローバル・メタル』という作品と向き合ってみて欲しい。誤解を恐れずに言えば、メタルに興味のない人でも楽しめるはずの作品だし、メタルを愛する人たちにとっては、いくつものことを確認させられたり、これまで疑問にすら感じずにきたことについて考え始める切っ掛けになり得る場面に遭遇したりすることになるはずだから。
増田勇一
『グローバル・メタル』というやたらとスケールの大きなタイトルには、地球温暖化ならぬ地球鋼鉄化なんて言葉を連想させるところがあるが、実際、この作品が目的としているのは、まさにグローバルな視点からヘヴィ・メタルの存在を浮き彫りにすること。このチームにとっての処女作でもあった『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』は、“一方では熱烈な支持を集めながら、他方ではとことん嫌われる”というメタルの不思議さの原因究明を軸とし、著名なミュージシャンから学者たちに至るまでの取材を織り交ぜながらその実態を描くというもので、カナダ出身のダン&マクフェイデンが繰り広げる“メタル巡礼の旅”のドキュメンタリーのような成り立ちをしていた。が、どこか“メタルと勉強が好きな2人組による卒業制作”みたいな匂いがしていたのも事実だ。
▲スコット・マクフェイデン(左)とサム・ダンの両氏。ちなみに現在はアイアン・メイデンとか、地元カナダの英雄的存在、ラッシュのドキュメンタリーも製作中。 |
実は、両監督は先頃この作品のプロモーションのために来日しており、筆者も取材する機会を得たのだが、その際、「今回いちばん違っているのは、前作では自分たちのなかですでにわかりかけていたことを証明しようとしていたのに対し、今回はメタルのみを共通言語としながら、未知の領域に飛び込んだことなのでは?」と筆者が指摘すると、2人は「そこまで理解してもらえたならば何も説明する必要はないかも」と笑っていた。
ちなみに筆者はその取材時、この映画のスチール写真でサム・ダンがデス・エンジェルのTシャツを着ていたのを確認済みだったため、同バンドのTシャツ着用で出向いたのだが、そのとき彼が着ていたのは、なんとバソリーのTシャツ。彼は「昔は同じクラスはおろか、同じ街にすら自分と同じTシャツを持ってるヤツなんて皆無だった。今、こんなふうに同じ部屋のなかでバソリーとデス・エンジェルのTシャツを着た野郎どもが向かい合ってるというのは、実に興味深いことだと思わないか?」と真顔で語っていた。
実際、この人たちの発言には興味深いものがたくさんあるので、また機会を改めてこの作品の裏話などとともにお届けしようと思うのだが、まずはとにかく『グローバル・メタル』という作品と向き合ってみて欲しい。誤解を恐れずに言えば、メタルに興味のない人でも楽しめるはずの作品だし、メタルを愛する人たちにとっては、いくつものことを確認させられたり、これまで疑問にすら感じずにきたことについて考え始める切っ掛けになり得る場面に遭遇したりすることになるはずだから。
増田勇一
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