――今回は3人になって初のアルバムになりますね。
田中和将(以下、田中):うん。でも3人になったというか、サポートを入れた5人のバンドでやっている感じですね。昨年は形を変えたり色々なことをしてたんですけど、今年は非常にすっきりと活動できた1年だったし、そういう感じが良く出たアルバムになったんじゃないかな。
――すっきりというと?
田中:と、言うのも変なんですけどね。それは、ベースの西原誠が休養してる間にプロデューサーの根岸(孝旨)さんに(ベースを)弾いてもらいながらアルバムを制作したりツアーをして、次の新しい作品も根岸さんと作ってたら途中から西原が復帰したり。そんなふうにずっとその時その時がイレギュラーのメンバーで活動してきたんですよ。だから、今年になってそういうところがやっと落ち着いたというか。もちろん得たものもたくさんあったし、その環境が悪かったってわけではないんですけど。
――3人になって初めてのアルバムということで、どうしても注目されざるを得ない状況だと思うんですが。
田中:当事者としては流れの中でやってるから“今年からこうだ!”って仕切り直すつもりはないんです。でもどうしても新生GRAPEVINEっていうか……。
――周りがそういう雰囲気として受け止めちゃう?
田中:僕らの中でそういう意識がないにせよ、今年からいろんなことが変わった意識はやっぱりあるし、周りも変わったからそういう風に見られても当然だとは思います。
――で、今回のアルバムなんですが、すごくヘヴィなロックになってますね。今までにない音も使ってるし、全体的に厚味が増していますし。
田中:うん。極端に言えばホントにガラリと変わった。今回はセルフ・プロデュースなんですけど、メンバーとサポート合わせた5人とエンジニアの宮島さんとで作ったんです。アレンジも遊びの部分があったりして、良い意味での悪ノリが生かされてるんじゃないかと。
――初めてのセルフ・プロデュース作業はどうでした?
田中:根岸さんと3枚くらいアルバムを作ってきたんですけど、今回から離れてみて分かったのは、やはりプロデューサーというのは偉大な存在だなと(笑)。あの時から僕らは好き勝手にやらせてもらってたんですけど、うまいこと舵を取ってくれてたんだなって感じました。
亀井亨(以下、亀井):今まではメンバー以外の方に鍵盤やパーカッションを入れてもらったりしてたんですけど、今回は5人とエンジニアの人だけで音を作ったので、バンドの感じはすごく良く出てると思いますね。特に最初からキーボーディストがいるってことはアレンジ面では大きかった。
――苦労したり、意外だったところはありました?
西川弘剛(以下、西川):思いがけなく面白くなるってことは結構あって、それをいつも期待してるってのはあるよね。
田中:アルバムを作る時、僕らはいつもコンセプトを設けないんですよ。1曲1曲を自由にやりたいなって常々思ってるから、テーマを打ちたててしまうとその制約の中でしかできなくなっちゃうし。だから、例えば雑談の中から出たアイデアをいちいち試したりもしたし。
――役割分担についての変化はありました?
田中:いやー、特には。そもそも役割分担があったのかすらわからないけど。
――というのもですね、今回のアルバムに西川さんの楽曲が入ってないんで、何かあったのかと……。
西川:いやいや別に。まあ、そういう分担でもいいんですけどね(笑)。たまたまそういう時期だっただけで特に理由はないです。
田中:そもそも全員が曲を書くバンドなんですけど、西川くんはコンスタントに曲を持ってきてくれる人で、他の2人はわりとバラつきがあるんですね。で、アルバムにはいつも僕の曲が2曲くらい入ってて今回もそんな感じなんですけど、今回は亀井くんが頑張ってくれてね。
亀井:必死に……泣きながら作って(笑)。
――そんな今回のアルバムのタイトルが『イデアの水槽』ということで。
田中:軽い音楽好きには退かれそうだよね。ちょっと難しかったかなと思ってるんですけど。
――“イデア”という言葉は哲学用語でしたっけ?
田中:そうです。“イデア”は、乱暴に言ってしまえば“モノの本質”みたいな意味 。“そこにそれが存在するのは、そこに存在すると考えるからである”というようなことを言ったプラトンの言葉からなんですけど。要は水槽の中から見るか外側から眺めるか、という感じですかね。“水槽”というキーワードが「SEA」という曲の歌詞のイメージと近くて、そこからひっぱってきたんです。わりと引きこもり的なロック感と俯瞰の対比の感じが水槽という言葉で出せるかなと思ったんですけど。
――じゃあ「SEA」が今回のアルバムの核になってる曲ですか?
田中:もちろん柱となってる曲ではあるんですけど、それだけではないです。
――できあがったアルバムをあらためて聴いてみて、どうですか?
亀井:このアルバムって今までよりは短かめのアルバムなんですけど、わりとぎゅっと濃縮されてるって感じがします。ヘヴィな感じはもちろんありますし、前のアルバム『another sky』と比べるとより攻撃的な面が出たかなと思いますね。
――12月にはライヴが行なわれますね。
田中:前々作の『Circulator』の時にこういったレコ発記念ライヴを行なったんですよね。2月からは全国ツアーもあるので、それとは違う形のものにしようとは思ってます。