何と解散から10年以上の歳月を経て復活したバンドを一目観ようとライヴ・ハウスの老舗、LAはTHE WHISKYに集まった熱心なファンで埋め尽くされた。そして、外は会場を取り巻くファン、ファン、ファン。
このビデオはそんな風景からスタートする。
今宵のスーパーヒーロー・バンド、レーサーXは復活以前の数年間、幻のバンドと呼ばれた。その理由をかつてバンドのリーダーであり、今や日本でもお茶の間レベルの人気ギタリストとなったポール・ギルバートはこう語ってくれていた。
「’86年のデビュー当時、正直、僕らは売れてなかったのさ(笑)。いわゆるLAメタルのトレンド追いみたいに受け止められてね。アルバムはオリジナル2作にライヴ1作をリリースしたけどセールスも今イチだった。しかも、そんな感じだったからステージ活動といってもほとんどままならない状態で数度クラブ・ギグをやった程度で’88年には解散だろう? だから、ほとんど僕らのステージを観たファンはいないんだ。だけど、MR.BIGに加入して、みんなが僕のことを知ってくれるようになってから“ポール、あなたが昔居たレーサーXってどんなバンドだったの?”と尋ねられるようになった。それとレーサーXの熱心なファンからもリユニオンしてライヴを観せて欲しい!と嬉しいリクエストもあったんだ。だから、何時しかレーサーXは幻のバンドと呼ばれるようになったのさ」
 ▲ポール・ギルバート(g)
 ▲ジェフ・マーティン(vo)
 ▲ジョン・アルディレイト(b)
 ▲スコット・トラヴィス(ds)
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そんな幻のバンド、レーサーXは’99年、突然復活する。ラインナップはポール・ギルバート(g)、ジェフ・マーティン(vo)、ジョン・アルディレイト(b)、スコット・トラヴィス(ds)の4人。ここにもう1人のギタリスト、ブルース・ブイエが加われば最強のラインナップとなるのだが、ブルースは腕の関節炎のため不参加なのが残念だ。
それでも4人はアルバム『テクニカル・ディフィカルティーズ』をリリース、健在振りをアピールした。まさに待望の復活だ。それだけにライヴ会場に於けるファンの熱気は半端じゃない。熱心なファンにとっては歴史的イベントと言っても少しも大袈裟じゃないのだ。
この『レーサーX/スノーボール・オブ・ドゥーム~ライヴ・アット・ザ・ウィスキー』はリユニオン以来、初となるレーサーXのステージの模様を収録したライヴ・ビデオだ。
一足先に同タイトルのCD版がリリースされているが、やはり迫力という点ではライヴの方が勝るんじゃないだろうか? それほど長期のブランクを感じさせない、シャープでスリリング、そしてテクニカルなパフォーマンスを観ることが出来る。
収録日は’01年5月25日、1st、2ndの2ステージに別けて行われた模様をオイシイ所摂りで編集、構成したものだ。選曲は初期作品からリユニオン第2弾『スーパーヒーローズ』までのナンバーを網羅、その意味ではライヴ・ベスト的な感覚で楽しめるのが嬉しい。しかも、ポールのハイテク・プレイを目一杯フィーチャーしている点も見逃せない。
ポールは現在、ソロとしても活躍、アルバムをコンスタントにリリースしている。但し、その音楽性はレーサーXとは異なり、よりキャッチーなポップ志向を目指しているため、ギターも若干セーヴ傾向気味だ。そこがコアなマニアにとってはやや不満材料なのも事実。しかし、レーサーXはピュアなアメリカン・メタルのスタイルを追及している分、ギターも大々的にフィーチャーされ、プレイヤーとしてのポール・ギルバートの魅力を満喫出来、言うことなし! おそらく、そんなファンはオープニングの「17thムーン」を観ただけで鳥肌ものだろう。
彼らはプレイヤーとしてのテクニックはもちろん、LAメタル・バンドとしての姿勢も10年前と少しも変わっちゃいない。その証拠が、本ライヴ・ビデオだ。
レーサーXの歴史の始まりは85年までに遡る。
当時はイングヴェイ・マルムスティーンの登場で火がついた速弾きハイテク・ギタリストのブームの真っ只中。そのイングヴェイを見出したのがマイク・ヴァーニーという人物で、有望なギタリストを発掘しては自身がオーナーを勤めるシュラプネル・レーベルを通じ、相次いでレコード・デビューさせていた。むろん、ポール・ギルバートも仕掛け人マイクの目に止まった。マイクはポール売り出しのためにメンバーを募り、それがレーサーXへと発展する。ちなみにバンド名は日本のアニメ「マッハGO GO GO/米題「スピード・レーサー」のサブ・キャラ“レーサーX(覆面レーサー)”から引用したものだ。ポールの速弾きプレイとスピードを引っ掛けたバンド名であることは今更言うまでもないだろう。
当時のラインナップはポール(g)、ジェフ・マーティン(vo)、ジョン・アルディレイト(b)、ハリー・シューザー(ds)。バンドはこのメンバーでデビュー・アルバム『ストリート・リーサル』をレコーディング、’86年にリリースしている。本ライヴ・ビデオでも終盤にタイトル・トラックが収録されているが、アグレッシヴで、それでいて華やかなLAメタル然としたサウンドは実に印象深い。そして、その華を担うのがポール・ギルバートの華麗なギター・プレイだ。彼らはパーティ・ロックン・ロールが主流だった当時のLAメタル・シーンの中でも技巧派として突出した存在だった。しかし、その存在感をアピールするまでには至らず、バンドは試行錯誤を繰り返す。
アルバム・リリース直後、ハリーが脱退、後任としてスコット・トラヴィス、さらにライヴを想定してポールを師匠とするギタリスト、ブルース・ブイエを加入させたのもバンド強化の一環だった。
バンド体制を整えた彼らは87年『セカンド・ヒート』をリリースする。その際、レーサーXの人気が今ひとつ盛り上がりに欠けていただけにマイク・ヴァーニーは自身のレーベルでは無く、メジャー・レーベルからのリリースを目指すも失敗、結局、シュラプネルからのリリースを余儀なくされた。
レーサーXにとって『セカンド・ヒート』は、あらゆる意味で勝負作であった。特にテクニカルな面ではさらなる飛躍を遂げ、サウンド的にも重量感のある内容となっている。ボールとブルースの師弟コンビによる高速ハイテク・ツイン・リードは他のLAメタル勢とは比較にならないほどのハイ・レベルを誇り、多くのギター・マニアの注目を浴びる。ただ、それはあくまでマニア・レベルに留まり、バンドの評価に結び付くまでには至らなかった。
レーサーXに限界を感じたポールは新たな活路を見出そうと考え始めた矢先、1人のべーシストが彼に声を掛けて来た。それがビリー・シーンだ。意気投合したビリーとポールは新バンド結成に動き、それが御存知MR.BIGへと発展する。ただ、88年当時、レーサーXは2年間で3枚のアルバムをリリースするとの契約をマイク・ヴァーニーと交わしていた。そこで苦肉の策としてライヴ・アルバムのアイデアを実行、『ライヴ!エクストリーム・ヴォリューム』が’88年夏にリリースされる。ちなみに「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」の全米ナンバー・ワン・ヒットでMR.BIG人気に湧く92年、その姉妹企画としてレーサーXの『エクストリーム・ヴォリュームII』がリリースとなっている。
また、レーサーX解散後の他のメンバーの動向だが、ヴォーカルのジェフ・マーティンはドラマーに転向、複数のレコーディングにセッション参加した他、ソロで活動するポール・ギルバート・バンドでも“ドラマー”としてラインナップに加わっている。もっとも、インカム・マイクでハイトーン・ヴォイスを披露、エネルギッシュなパフォーマンスをアピールする今回のジェフの姿にシンガーとしての衰えは微塵も無い。さらにドラマーのスコット・トラヴィスは現在、ジューダス・プリーストのオフィシャル・メンバーとして活躍(ということでジューダス・プリーストが本業となる)、先頃リリースされたニューアルバム『デモリッション』でもしっかり彼のプレイを聴くことが出来る。
ジューダス・プリーストと言えば、目下の最新スタジオ・アルバムのタイトル・トラック「スーパーヒーローズ」はもろにジューダスを彷彿とさせるヘヴィ・メタル・チューンだ。特にジェフ・マーティンのヴォーカルはロブ・ハルフォードっぽい。それをポールに伝えると「そうかもね。何しろドラマーが本場者だから。自ずと僕らもジューダス・モードになったのかも知れない」と笑って答えていた。もちろん、本ビデオには2曲目に収録(但し同名のCD版には何故か未収録)されているので是非ともチェックして欲しい。ちなみにべーシストのジョン・アルデレッティの現在の本業は弁護士関連の仕事だという。それだからだろうか、ステージでは常にミル・マスカラスばりのマスクを被り、謎のべーシスト的にやや正体不明を装っている。これも要チェック!
途中、間にバック・ステージの模様を挟むなど、至れりつくせりの本ビデオ。幻のレーサーX時代のファンにとってはまさに待望のリリースと言えるだろう。しかも、来年早々には初の来日公演も決定しているだけに予習材料としても打って付けだ。
ただ、一言、必見!だね。
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