ステージの左右にはそれぞれ10台の巨大アンプが配置されていたが、そこから流れるギターの轟音のなんと鋭いこと!
普通アリーナ会場だとスピーカーで大幅に音が膨張してしまうものだが、小さなクラブでの臨場感そのままにギターの音がナイフのように刺さってくる。
そして名リズム・ギタリスト、アンガスの兄マルコムを中心とするベース、ドラムの3人のリズム部隊が放つ1ミリのズレもない完璧な必殺リフ。
観客席中央まで伸びる花道を右往左往し、その得意のダミ声とダフ屋のようなうさん臭い出で立ちで客を煽り捲るヴォーカルのブライアン・ジョンソン、そしてそして、終始ひざを折り曲げ左足を実に器用に上げ下げしながら大きなステージを狭しと全力疾走で賭けまくるアンガス。
その駆け回る姿に、ブルージーで苦みばしったクールなギターソロに、右手をあげて観衆を煽る姿に、曲の終わりに決まってジャンプして両足で丁寧に着地する姿に、観客は完全に釘付けとなった。
そして楽曲は久しぶりの来日とあって代表曲のオン・パレード。「サンダー・ストラック」「ヘル・エイント・バッド・プレイス・トゥ・ビー」「シン・シティ」…。
そして気がつくと会場の真後ろには目が光り火を噴く巨大アンガス銅像が出現。小道具・大道具の登場も頻繁になり「バッド・ボーイ・ブギー」では、ここ20年以上定番のアンガス恒例のストリップ・ショーが展開され(ズボンを降ろすと同時に日の丸が降りるというバカ丸出し)、「地獄の鐘の音」では名物、2トン半の巨大釣りが登場、「ザ・ジャック」では会場を巻き込む大合唱。
「ハイウェイ・トゥ・ヘル」では最後に一大炎が上がり、「ホール・ロッタ・ロージー」では風船による巨大ロージー人形が、そして「レット・ゼア・ビー・ロック」で、花道の先端の小ステージがリフトアップされアンガスがそこでのたうち回りながらソロを披露。ラストの「地獄の招待状」では6台の大砲が次々と発射。最後は紙吹雪の嵐で幕を閉じた。
このように、観客の心を一切そらす事のないエンターテインメントの要素がふんだんに盛り込まれているのだが、それが全く不快になることがない。
それは彼らの持っている、そこいらのパンクバンドを蹴散らすほどの圧倒的なスピード感や、そこいらのヒップホッパーよりよっぽどファンキーでグルーヴィーなリズムをこの大会場で堂々と披露出来ているからだ。
音楽で完璧な一流が、見せるところでも隙のない一流ぶり。
これまでストーンズもエアロのライヴも観て来たが、聴覚に視覚に肉体的にこれほどまでに完璧なショウを体験したのは生まれてはじめてだ。そりゃあ、アメリカだけで6,300万枚以上売るのも、これを拝めなかった日本でAC/DCが評価されなかったのも当然である。
そして興奮のあまり2日目の横浜アリーナにもかけつけたが、2日とも全く同じ選曲・曲順・同じ出し物・同じギャグ・同じMC、そして最新作「スティッフ・アッパー・リップ」のツアーにかかわらず新曲披露はわずか1曲だったが、飽きるどころか逆に電流にうたれたごときの中毒症状をも覚えてしまった。
相手にあえてその手の内をみせておきながら、それでも完璧に相手をノックアウトする。これぞプロ中のプロの芸人のなせるワザにほかならない。
あまりにも素晴らし過ぎる。もう賞賛以外の言葉が出てこない…。
この19年の不在はあまりにも重い。
しかし、今からでも遅くはない。AC/DCの旧譜やビデオを買って「ロックンロールの何たるか」を学ぼう。そして数年後にあるかもしれない「奇蹟の再来日」の日に備えようではないか!