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タグス化計画として、“メリー・ジョイ・レコーディングス”は、’98年1月に『TAGS OF THE TIMES』を、続いて’99年1月に『同 VERSION 2.0』をリリースした。
しかしこの計画は、元を辿ればそれ以前にリリースされた『TRUE UNDERGROUND HIP HOP VOLUME1、2』に端を発している。その頃からアンダーグラウンド・ヒップ・ホップが時間の流れと同じベクトルで進化していく事実を捉え、それを時代の足跡…いやもっと単純にいえば“記録”として刻んでいこうという気運が芽生えていた。それが<タグス計画>である。
この計画が表現している中で、音はもちろんのことながら“リリック”に対して多大な配慮がなされている。ほとんどの曲が英語なので、1曲ごとに対英訳と日本語訳がついている(かなりわかりやすくまとめられている)。
なぜならば、それを理解することにより、言葉と音楽の結合→表現→時代→メリー・ジョイ・レコーディングスが表現したいヒップ・ホップ…そういった流れと本質の姿がそこから浮かび上がってくるからだ。
そもそも音楽の楽しみ方や感じ方は千差万別。まして英語の歌詞となれば“楽曲を音から楽しむ”=“リリックも音として聴く”という楽しみ方がある。しかしリリックを理解することによって、リスナーは、いろいろな違った側面を発見し、自分と照らし合わせたり考え直したり、その時代の“現実”として言葉、音、文化全ての様々な形を具象化していくこととなる。
“現実とアーティストの強い想いをそのまま表現したこの記録”
このメリー・ジョイのスタンスこそが、ヒップ・ホップの真髄に迫ることと、そのものなのだと思う。
新しい世紀を越えて届いた『TAGS OF THE TIMES VERSION 3.0』。
とにかく初めに音を聴いてみた。
全体的にドープな曲が多いのだが、トラックで使われている切ないメロディ・ラインをビートが煽り、ライムと複雑に絡んで心に入り込んでくる。全体の一音、一音がとても繊細で深みを感じるのはもちろん、たくさんの驚きが感じられる新しい音。
進化している。
それはまさにアンダーグラウンド・ヒップ・ホップという枠をはるかに越えている。ただ、敢えて説明するならば、彼らがこだわる“アンダーグラウンド”は、常に前進することであり、そしてメインストリーム文化では気付き得ない、そこにこそ介在するもの突き詰めて捉えた結果なのである。
当作品、ライムを読み音と絡みあわせて聴くと、その楽曲からは“今”が強烈に浮かび上がってくる。
その中での叫び、現実を見つめ、重要な伝達手段である言葉を最大限に吐き出し、音というもっと心の奥底の表現を変革しつづけ、表現するアーティスト達。
全体を通して“今”というテーマを持ったあるひとつの共通したストーリーが見て取れる。もちろんそれぞれの各アーティストのパフォーマンスは違うし、自分がやられたトラックやライムもあるが、それについて私情をはさむのはこの場では差し控えよう。
『TAGS OF THE TIMES』をどう感じ、どのように震え、触れる琴線がどこにあるのかは、ひとりひとりのオーディエンスに委ねられているのだから。
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