【コラム】突如現れた中毒高度MAX、Ru-aって一体何者?

ジェンダーレスという概念が語られて久しいが、生物学的に女性だからこそ陥ってしまう抗えないバイオリズムと特性があると痛感する瞬間は少なくない。時代は変われども女性として生きていくなかでのしがらみももちろんある。だが女性だからこそ感じられる充実があるのも確かだ。得体の知れない焦燥感に襲われ、感情の正体もわからないまま混沌を抱えながら日々を過ごし、時に拠りどころを求めて彷徨い、時に奮起して新しい未来へと踏み出す。そんな現代の若い女性から支持を集めている、注目の女性アーティストがЯu-a(ルウア)である。
Яu-aのキャリアのスタートは2023年に遡る。それまでは音楽活動への願望を持ちつつも内向的な性格が影響して気後れしていたものの、恋人に振られ感情の抑制が利かなくなったことで、その矛先を音楽に向けたのをきっかけに制作へ没頭し、SoundcloudやTikTokに楽曲投稿をするようになった。
まず彼女が注目を集めた楽曲が「ネオンサイン」である。サビをTikTokに投稿すると再生回数が伸び、反響を受けてフルサイズをSoundcloudにアップするとさらに注目を集め、彼女にとって初のデジタルシングルとして2024年1月にリリースされた。スタイリッシュでありながらもキュートさも持ち合わせたアップテンポのハイパーポップのトラックに、どこか切なさを感じさせるメロディ、それをキャッチーに昇華する軽快な譜割りが中毒性を生み出し、バイラルヒットにつながった。
「ネオンサイン」のリリースからほどなくしてSoundcloudで再生回数を伸ばしていた「お前の彼氏寝取ってやったの。」と「悲劇のヒロインでもいいでしょう?」を同時リリースする。「ネオンサイン」でもアクセントになっていた“自分の心境を率直に書いた歌詞”を前面にフィーチャーし、キャッチーに研ぎ澄ました2曲だ。「自分の友人である元カレの今カノが、激しい束縛をするくせに自分は浮気などで好き勝手して、元カレがつらそうで見てられないから寝取った」という状況とそれゆえの複雑な気持ちをしたためた前者と、つい他人と比較して自己嫌悪に陥ってしまう自分自身を“悲劇のヒロイン”になぞらえ、「そんなあたしでも可愛いでしょ?」と自分を鼓舞して強く生きていきたいという願いが込められた後者。綺麗事で誤魔化さない詞世界は、多くの若い女性の心にフィットした。
瞬く間に頭角を現した彼女は様々なアーティストからオファーがかかり、フィーチャリング楽曲に多数参加する。それと並行して自身のリリースもコンスタントに続けた。「歪んだ愛情」をコンセプトにした『MAD LOVE HARASSMENT』、女性としての人生を思う存分楽しもうというメッセージが込められた『SLY GAL』といったコンセプチュアルなEPもあれば、「シガラミ」や「BITE ME」などでは男性アーティストを客演に招き、男女の駆け引きや心のすれ違いなどをドラマチックに展開する。幼さと達観が入り混じる女性の複雑な心境や恋愛観をリアルに描いた楽曲以外にも、インターネットに渦巻く地獄と受ける恩恵を小気味よく綴った「1nter2et Devil…?」など、現代の問題を投影した楽曲も多い。まさに今聴くべき音楽をリアルタイムで発信している。
そのЯu-aがデジタルシングル「BLACK DOLL」を新たにリリースする。彼女が今作で用いたテーマは“摂食障害”と“身体醜形恐怖症”。容姿を強みにした職業の女性を主人公に、本当の自分への辟易や着飾った自分への嫌悪感や幻滅など、どうしたって満たされない八方ふさがりの状況に置かれた心情が綴られている。
歌詞のテーマはかなりヘヴィでありながらも、トラックにはハイパーポップをベースにR&Bやダンスミュージックを取り入れており、彼女のキャッチーな譜割りのセンスと相まって楽曲の質感としては爽やかで軽やかな仕上がりだ。ただ重苦しい曲に着地させないことが救いや逃げ場になっている。だが同時に、はちきれんばかりの閉塞感を抱えながらも平気な顔をして日々をやり過ごしている主人公を投影しているようにも感じられるところが奥深い。
ピュアでアンニュイなメロディは若者特有の生々しい倦怠感や厭世観を彷彿とさせ、本心を直感的に綴った歌詞とオートチューンのかかったボーカルの掛け算も、本音を心の中に隠し持っているように感じ取れる。ストレートなワードを掛け合わせて奥行きを作り、それを多彩な音で巧みに映し出すことで解釈の余地を広げていると同時に、俯瞰で見ると楽曲そのものが様々な感情と思考で混乱するひとりの多感な少女そのものとして存在している。
Яu-aの音楽は聴き手を鼓舞するのでもなければ、「そのままのあなたでいい」と肯定するわけでもない。《血が滴り落ちる感覚すらかわいいと思いたい》という歌詞をはじめ、切なさ、悲しみ、毒気、ポップネス、キュートネスを誤魔化すことなく克明に描くからこそ、荒ぶる感情のなかで傷だらけになった女子の安寧の場となる。
文◎沖さやこ
DIGITAL SINGLE「BLACK DOLL」
2025年5月14日リリース
https://ru-a.lnk.to/BLACKDOLL

「BLACK DOLL」