【インタビュー】超学生、ネットカルチャーをテーマにした初のセルフプロデュース曲完成「インターネットは最悪だけど最高」

◾︎インターネットってそういう現実世界ではなかなかお目にかかれない専門家の集まり
──「アイラブインターネット」はトラックができた後に歌詞とメロディを乗せていったのでしょうか?
超学生:トラックと整合性の取れるボーカルと歌詞を後からあてていきました。歌詞に関しては、「自分が思ってないことは書けない」とおっしゃるボカロPの方々が多いなと前々から感じていたんですよね。ワードサラダみたいに見える、複雑で抽象的に聞こえる歌詞も、その人のバックボーンを知ると正直な心境を綴っているんだなと思うことが結構あって。だから超学生も思っていることを正直に書いていきました。僕のことを全然知らない人が読んだら支離滅裂かもしれないけど、それはそれで面白いかなって。
──そんな超学生さんが初楽曲の歌詞のテーマとして選んだのは“インターネット”です。
超学生:やっぱり僕はTwitter……今はXですけど、大好きなんですよね。みんな無意識的に、自分じゃない立場から物を言っている気がするんです。たぶんめちゃくちゃ批判的なことをネットにつぶやいている人も、実際に目の前に批判対象が現れたら同じことは言えないだろうなと思うし、あとみんな専門家だなとも思うんです。無意識的に誰かから褒められたこと、求められていること、過去に成果を上げられた物事を発信しているんですよね。
──言われてみると確かに、名言だなと思う投稿を見掛けて、その人のページに行ってみると、心が軽くなる言葉ばかり発信しているアカウントであることがよくあります。
超学生:褒めてくれる人は褒めることに日々研鑽を重ねている専門家だし、痛烈な批判をしてくる人は毎日いろんな物事に対して批判をするというトレーニングをたくさんしている人なんですよね。インターネットってそういう現実世界ではなかなかお目にかかれない専門家の集まりだから、そこも面白いなと。

──面白がり方がひねくれすぎている(笑)。
超学生:インターネットで13年活動してると、正しい方法ではインターネットを歩めないですねえ……(笑)。みんなインターネット上では、自分がいちばん輝ける、受け手に喜んでもらえる手札を使ってるんですよね。それは僕も同じなんです。自分自身に「こんなキメた表情の自撮り上げるってイタイっすね~!」と思うこと全然あるし、でもみんな自撮りを上げたら喜んでくれるし、「イタい自撮り投稿するなよ」と批判が来ても「わかる。イタいよね」と思うし。だから批判してくるのはファンじゃなくて、ターゲット層ではない人じゃないかなって。
──極端な例えですが、ホラー映画の制作会社に「グロくて怖すぎるからクリーンでハッピーな作品にしろ」とクレームを入れるのに近いことが起こりがちかもしれません。
超学生:好き嫌いは人それぞれなので嫌悪感を持つのは自由だし、独り言とか鍵アカならどんなにひどいことを書いてもいいけど、本人に直接リプライを飛ばすのは違うなと思うんですよね。アンチコメントを見るたびに「これがこの人の独り言だったら良かったのに」と毎回思ってます。でもそういうのも含めて“インターネット”や“匿名文化”だとも思うんです。最悪だけど最高というか、終わってる部分も含めて最高だなって──それはもちろん法に触れることや人権を無視した行為を肯定しているわけではなくて。
──はい。もちろんです。
超学生:「好きです」とか「かっこいい」とかも、匿名だからこそ言える褒め言葉だとも思うんですよね。だから「アイラブインターネット」は「いろいろあるけど、やっぱりインターネットいいよね」っていうことを歌っている曲なんです。でもそうじゃない受け取り方をしていただいても全然よくて。この曲にみんなの“インターネット観”を映してくれるといいなと思っています。
──そうですね。聴き手が自分の都合のいいように解釈できる歌詞だなと感じました。
超学生:たとえば小学校で習う宮沢賢治の『やまなし』の「クラムボンはカプカプ笑ったよ」も、どんな意味なのかいろんな考察があるけれど、僕はあれを意味がない文章を使った芸術だと思ってるんです。もしかしたら崇高な意味を込めて書いたのかもしれないけれど、「物語には必ず意味が必要だ」とうっすら思い始める時期に学校で教わったので「表現には意味がなくてもいい」というのを初めて知ったような感覚があるんですよね。
──『やまなし』も真意を伝えることよりも、受け手の心が動くことを優先した表現かもしれないですね。
超学生:作詞もそうだと思っていて。実体験に基づいてなくてもいいし、何の意味もないカタカナを並べるだけでも、自分の思ったことも素直に書くだけでも詞になりますよね。多くの人は意味がある歌詞が好きだけどそれこそが正義というわけではないし、意味がないことを書くことで生まれる意味もある。そういう自由度の高さやいろんな工夫ができるところが作詞は面白いですね。今回は伝わりにくい書き方をしたけれど、引き続き改善もしつつ作詞は続けていきたいです。
──この歌詞ならYouTubeのMVのコメント欄でファンの方が考察してくれるかも?
超学生:ついにつくんですか! 超学生のコメント欄にも考察が……! 仲のいい人だとKanariaさんにそういうコメントが多くて、それを読んでると風圧の高い考察が結構あるんですよ。ボカロリスナーの想像力も、まさにインターネットだと思います。
──ちなみに曲作りにおいて「ソングライター超学生は、歌い手超学生にこういう歌を歌わせたい」のような発想はあったのでしょうか?
超学生:曲を完成させることに集中していたので全然なかったです(笑)。歌入れに関してはある程度フィーリングでやりつつ、インターネットというテーマで主人公が超学生だったらこんな感じかなと微調整したり、そこにみんなが求めてるニュアンスも織り交ぜました。あと今回は自分で曲を作っているぶん、歌には他の方の視点を入れられるといいかなと思って、別の方にボーカルディレクションに入っていただいたんです。勉強にもなったし、でもやっぱり僕はこっちの歌い方がいいなと思う部分も出てきて、そこで今まで無自覚だった自分の通したい我もわかって面白かったです。
──超学生さんのこれまでの歩みや人間性、趣味嗜好などが色濃く反映された楽曲だと感じます。初めてご自分で作詞作曲をした楽曲がそういうものになったのは、クリエイターとしてもすごく意味があるのではないでしょうか。
超学生:だとしたらうれしいですね。今までも作ろうとしては止まって、作ろうとしては止まって……を繰り返していたので、今回本当に完成してよかったです。これまで待っていただけたおかげでこんな素敵なMVとジャケットもつけていただけたし、その間でできた関係値もあって完成したので、このタイミングに完成させられて結果的には良かったと思っています。
──制作巣ごもり期を抜けて、8月末からは超学生さん初の全国ホールツアー<音欲の秋>が開催されます。今回はMCもするし曲数も増えて、これまで超学生さんが開催していた学校をモチーフにした摩訶不思議公演とは異なる内容になるそうですね。
超学生:みんながやっていることをやってもしょうがないなと思ってああいう変なライブをしていたし、今もまだまだあの学校シリーズをやりたい気持ちはあるんですけど、この1年本当にいろんな方のライブを観に行かせてもらった経験は大きいです。学校シリーズをやっていた頃の僕は、ライブを観た経験すらも全然なかったんですよね。だからこそライブという媒体を使って大喜利みたいなことをしていたんですけど。

──いろんなアーティストのライブに行って、スタンダードなライブへの欲も出てきたということでしょうか。
超学生:もともとほとんどライブ欲がなかったけれど、影響を受けやすいタイプなのでいろんなライブを観るうちに純粋に「実際にみんなの前で歌いたいな」「みんなせっかく僕に会いに来てくれてるんだから一緒に歌いたいな」「喋ってコミュニケーションを取りたいな」という気持ちが芽生えてきたんですよね。MCでファンの人とやり取りしているのを観ながら、確かにリスナーさんと実際にあんなふうにしゃべれる機会なんてないし、僕もああいうのやってみたいなって。
──壁から手だけを出した無言握手会をやっていた人とは思えない発言です。
超学生:もちろんそういうのも引き続き続けていきたいです(笑)。でもたまには生身の人間の超学生として、お客さんと一緒に歌うライブができるといいかなと思いました。僕の場合は歌うという行為も、声で音を作っている感覚に近いので、僕の音をそのまま聴いてもらえる場所にしたいですし、あとは「聴きたい」ではなく「聴かずにはいられない」みたいな歌が唄えるといいなと思っていて。
──公式コメントでおっしゃっていた“本能に訴えかける歌”ですね。
超学生:いきなりそこに達するのはなかなか難しいとは思うんです。でもこのライブをきっかけに「また超学生のライブに行きたいな」と思ってもらえるようになりたいというのが、今回のツアーの大きなテーマのひとつですね。やっぱりまたこの人のライブに行きたいと思うのって、耳が求めるような感覚があると思うんです。それは技術だけでは成し得ないバックボーンも影響する気がしていて。そういういろいろを込めて<音欲の秋>というタイトルをつけました。
──超学生さんがまた行きたいなと強く感じたライブ、たとえばどなたでしたか?
超学生:直近だとTeleさんの横浜アリーナですね(※取材日は4月下旬)。観終わった後に「早くもう1回見たいな」と思いました。ご本人が作りたい世界が明確にあって「これがやりたくてどうしようもないんです」というスタンスに見えて。めちゃめちゃ大仕掛けな演出だけど、本人の頭の中をちゃんとそのまま出したような嘘がないライブだなと思いました。もともとバンドマンだから立ち振る舞いもパワフルでライブにも慣れてらっしゃるし、あとはシンプルに歌も演奏もプロフェッショナルでした。あとはナナヲアカリさんですね。
──Teleとはまたタイプが違うアーティストさんですね。
超学生:ナナヲアカリさんはファンの方とめちゃくちゃ仲がいいですよね。ファンのみんなが持つ『ナナヲアカリ』というパブリックイメージを惜しみなく差し出してくださっているような印象があって、もちろん歌唱力もすごく高くて、ライブの経験も豊富で。ソロシンガーでありながらもアイドルのような側面も持ち合わせた、とても充実感のあるライブを観ることができました。
──さすが分析家。いろいろ吸収してますね。
超学生:毎回単純に楽しんでいるだけでもあるんですけどね(笑)。
──ツアー前には<LuckyFes’25>の出演もありますし、初の野外フェスでまた新しい発見や出会いもあるのではないかと思います。
超学生:初めての夏フェスなので緊張しますけど、普段のワンマンでもあっという間だなと感じるので、きっと体感すぐ終わっちゃうと思うんです。僕はみんなにフェスを教えてもらうような気持ちで、僕のすべてを正直にぶつけたいなって。ランニングも夜中にしているので、陽の光の下で何かをするなんてサッカー部のとき以来ですね……。
──この取材の時点ではタイムテーブルはわからないですが、せっかくなので炎天下で歌う超学生を拝みたい気持ちはありますね。
超学生:僕汗っかきなんですよ。仮面をつけたインターネットからやってきた歌い手が、お昼にこんにちは!って汗だくで歌ってるの、シュールでいいですね(笑)。いろんな人が集まる場だと思うので、もしかしたら「曲も作らずに歌ってるだけの人」と思う人もいるかもしれないけれど、僕に興味がない人であっても、もしかしたらその人の好きなアーティストが僕に楽曲提供をしてくれているかもしれないし、そういう人にも聴きごたえがあるなと感じていただけたらうれしいですね。「ああ、ここがインターネットか」みたいな感じで観に来ていただけたら(笑)。
──2025年の超学生は初めての経験がたくさんですね。
超学生:今年の目標は「たくさん失敗しよう」なんです。「失敗や挫折をしたことがない人は新しいことに挑戦したことがない」という格言があるじゃないですか。うまいこと言いすぎてて悔しいからどこかに粗がないか探したんですけど(笑)、確かにそうだよなあって。僕はどんなことも1発目から器用にできちゃうタイプではないので、今年はいっぱい失敗するつもりでやっていきます。自信を持ってお届けするのはもちろんなんですが、フェスやホールツアーは大初心者もいいところなので、このライブ期間を通してちょっとずつ超学生が良くなっていくところを観察していただきたいですね。
──CeVIO AIの可不もお買いになってましたし、Instagramのストーリーズによると“クソデカ音楽ブーム”も来ているとのことですから、今年は音楽的挑戦をし続ける超学生さんが見られることを楽しみにしています。
超学生:なんと、インスタのストーリーまでチェックいただいて。

──ストーリーはアルゴリズムのおかげもあってチェックしやすいんです。Twitter(X)はどんどん流れちゃうので。
超学生:おまけに僕、ツイート消しますもんね。でも今後もツイートはどんどん消していきたいです。消すためにツイートしてます(笑)。
──ここにきてまたかなりインターネットな話題が(笑)。確かに超学生さんがいいことをつぶやいてると思ったら、3時間後くらいにそのつぶやきが消えていることがよくあります。
超学生:僕が誰かのことをつぶやいて、ご本人が引用してくれても消したりしてますね……。インスタのストーリーは24時間残っちゃうのがしんどいんです。でも24時間で自動的に消えるストーリーを自分で消すのは、なんかちょっと違うじゃないですか。Twitterはみんな消えると思ってないから、消してて楽しいんです。
──(笑)。インターネットの楽しみ方が上級者すぎます。
超学生:皆さんにももっと消す楽しみを感じてほしいですね。Twitterは今後もどんどん消していきたいし、YouTubeの動画は全部できる限り消したくない(笑)。残していきます!
取材・文◎沖さやこ
写真◎尾藤能暢
「アイラブインターネット」
歌:超学生
作詞・作曲・編曲:超学生
配信日:2025年5月7日(水)
配信URL: https://lnk.to/iloveinternet
MV:https://www.youtube.com/embed/ILvbrEtUw7A
Illustration:獅冬ろう
Movie:イクミ
<超学生 全国ホールワンマンツアー2025〜音欲の秋〜>
8/31(日)福岡・福岡国際会議場メインホール 開場 16:45 / 開演 17:30
9/15(月祝)愛知・岡谷鋼機名古屋公会堂 大ホール 開場16:45 / 開演 17:30
9/20(土)宮城・トークネットホール仙台大ホール 開場16:45 / 開演 17:30
9/23(火祝)東京・J:COMホール八王子 開場16:45 / 開演 17:30
10/5(日)大阪・NHK大阪ホール 開場16:45 / 開演 17:30
・料金・券種:先行販売限定特典付指定席:¥8,800(税込)
指定席:¥7,700(税込)
【チケット受付URL】
https://chogakusei.com/news/detail/RDUUKp6Eyev38oGtMaLB
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