【ライブレポート】Official髭男dism、「今日のみんなのパワーをスタジアムに持っていく」

今年5月に初のスタジアムライブを行うOfficial髭男dismが突如解禁したファンクラブライブ<one-man live 2025 -UNOFFICIAL->。
同タイトルを冠した初回は2024年7月にZepp Hanedaにて藤原聡(Vo, Pf)の声帯ポリープ手術からの復帰の肩慣らしとアリーナツアーまでライブが待ちきれないという理由で開催され、2回目となる今回はKT Zepp Yokohamaにて全国デビュー10周年記念として開催された。アニバーサリーかつ大舞台を直前に控えたヒゲダンを、ライブハウスで観られるという貴重な機会である。会場は開演前から熱気があふれていた。
SEに乗せてホーンやパーカッションなど総勢10人のサポートメンバーと、それに続いてメンバー4人がステージに登場する。彼らのワンマンには<Official髭男dism Arena Tour 2024 – Rejoice ->以降サポートコーラスが参加しており、今回からソラナヒトミが加わりコーラス隊は3人となった。より厚みを増したゴージャスなサウンドが、1曲目の「Amazing」から会場をダイナミックに包み込む。

「ペンディング・マシーン」では楢﨑誠(B, Sax)がシンセベースとサックスをプレイしてステージを自由に往来し、藤原もハンドマイクでステージを闊歩しながら求心力を帯びたヴォーカルを響かせ、曲の終盤ではキーボードヴォーカルパフォーマンスも見せる。小笹大輔(G)の背後には多数のアンプが壁のようにそびえ立ち、松浦匡希(Dr)も多彩なプレイスタイルで楽曲のムードを高めた。サポートメンバーも複数の楽器を巧みに操り、その合間に観客へクラップを促したり、さりげなく観客が真似しやすい手振りを織り交ぜる。音楽的側面だけでなく視覚的にも趣向が凝らされたステージングに、観客ものびのびと感情をあらわにした。
「コーヒーとシロップ」を4人のみの硬派な演奏で届けた後、あらためて観客に挨拶をした藤原は「今日のセットリストは結構珍しい」「俺たちの10年間の歩みをきっちりと振り返り、“これからもよろしくね”と言えるライブにしたい」とこの日の意気込みを語る。フルメンバーで鮮やかに「バッドフォーミー」を奏で、バンドとコーラスで披露したロックバラード「ビンテージ」は藤原のファルセットが天高く響き、それに寄り添う小笹のギターの音色が艶やかな奥行きを作った。「Bedroom Talk」は歌詞に綴られたメッセージを丁寧に観客に送るヴォーカルと、包容力のある演奏が感傷的でありながらも甘く、観客もその音にじっくりと酔いしれた。

4人はトークを通して観客とたっぷりコミュニケーションを取り、思い出話にも花を咲かせる。ナチュラルでテンポのいい言葉のラリーにも長きにわたり培ってきたグルーヴが表れていた。その後は「Tell Me Baby」「55」と高揚感のある楽曲を情熱的にたたみ掛け、全員がボーカルを取る「旅は道連れ」はソングライティングを担当した楢﨑が率先して会場を盛り上げる。歌詞のメッセージと同様にたくましい音色が深く響く「HELLO」の後、久方ぶりに披露された「Driver」は、歌詞のとおり“beautiful beautiful sky”を体現する開放感あふれる音像だった。
インディーズ時代の楽曲を多く演奏したこともあり、楢﨑は「若返った感じがする」と笑う。藤原も「10年以上バンドをやっていると、やりたい音楽や出したい音も変わってくるし、リリースが多いと昔の曲がどんどんセットリストからあぶれてくるという問題がある」「でも今日やった昔の曲で出会った人が、この会場や配信のカメラの向こうにいるかもしれない。タイアップでもなんでもないアルバムの曲でも、その曲と誰かの思い出の接点がある。それがなかったことになるのはつまらないから、こういう(ライブで披露する機会が減ってきている楽曲を中心とした)ライブができたらいいなと思った」とこの日をセッティングした思いを語り、観客もそれに歓喜の声援を送った。

ユーモラスなアドリブ力が光った「うらみつらみきわみ」、そのままあざやかにつないだ「犬かキャットか死ぬまで喧嘩しよう!」、観客が左右に腕を振る情景が楽曲の朗らかな空気を際立たせた「日曜日のラブレター」、イントロから盛大にシンガロングとクラップが湧き上がった溌溂としたロックナンバー「Rolling」と本編を駆け抜けると、アンコールでは1曲目に「これ歌える人! 声を聴かせてください!」と呼びかけて昨年12月にデジタルリリースした「50%」を、満を持してライブ初披露した。
スタジアムロックとゴスペルのハイブリッドとも言える壮大なサウンドと、愛情に満ちた強い意志が刻まれた同曲は、ライブの場でさらに真価を発揮する。藤原も全身を躍動させてエモーショナルに歌い上げ、観客も歌でその思いを返した。ヒゲダンは現代を生きる人々を時に鼓舞し、時に呼吸を整えるように優しく包み込む楽曲を作り続けているが、どれも共通して自分自身が泥くさく生きながらなんとか見出した活路を、我々リスナーにシェアするような語り口が特徴的だ。Official髭男dismというパーティーの一員に招き入れてもらえているような感覚があるため、彼らの音楽に対して自分の感情を素直に投影することができる。ヒゲダンのライブのエネルギーは、バンドとファンの心の結束があってこそ膨れ上がることを象徴するワンシーンだった。

藤原は「ライブ初披露で(観客の)この声量はやばい」「みんなの声が大きすぎてイヤモニが外れちゃった」と観客に小粋な賛辞を送った後に、「自分たちがやりたい放題のセットリストだったから……リクエストタイム!」と告げ、観客が聴きたい曲を演奏すると宣言する。観客が思い思いに聴きたい曲をステージに向かって叫ぶとメンバー4人は耳をそばだてる。楢﨑と松浦がそれぞれ1曲聞き取れたとのことで、どちらを披露しようか4人が悩んでいたところ、フロアから「どっちも!」の声が。観客の大歓声に藤原もステージ外のスタッフに「2曲やっても退館時間に間に合うよね?」と呼び掛け、サポートメンバーとの簡単な打ち合わせを経て「2曲リクエストしたってことは、みんなもそれなりのパワーを見せてくれるってことでいいんだね?」と煽ると、楢﨑が聞き取った「Universe」、松浦が聞き取った「Stand By You」の2曲を急遽披露した。
ハッピー感とフレッシュネスあふれる演奏で会場を沸かすと、藤原は「“10年”は、やってきてよかったというには若い気がする」と告げる。その後の4人の会話からもこの先も長くバンドを続けていくというビジョンが当たり前のように存在していることがうかがえた。楢﨑も「ライヴハウスは楽しい」とこの日の充実を語り、それを受けて藤原も「みんなのおかげでスタジアムに立たせてもらえるんだけど、やっぱりライヴハウスにはライヴハウスの良さがあるんだよね」と顔をほころばせ、観客にあらためて感謝を告げた。

最後にメンバーが「名残惜しいけど、続きはここの近くにあるでっかいところ(日産スタジアム)で」「やべえやつやろうぜ!」「今日のみんなのパワーをスタジアムに持っていく」「10年間本当にありがとう、これからもよろしくお願いいたします!」と笑顔で呼び掛け、インディーズデビュー作の1曲目を飾る「SWEET TWEET」でこの日を晴れやかに締めくくった。
最後にステージに残った4人は一言ずつ挨拶をする。松浦はインディーズ時代の楽曲が多いセットリストで「初心を思い出した」と有意義な時間を過ごせた旨を明かし、楢﨑は今後もライブハウスでのライブを継続したいと意欲を語る。小笹は4人のどこか抜けた面も持ち合わせた空気感に触れて「この感じなら長くバンドを続けられそう」と笑みを浮かべ、音楽を気張らずに続けることと、スタジアムでは素晴らしいショーをやりきる気合いを覗かせた。
藤原は今後も<UNOFFICIAL>を不定期で続けていくと話し、あらためて「世に出した曲で手を抜いた曲は1曲もない。これからもそうやって作っていく」「タイアップ曲や再生回数が回った曲も大事な曲だし、なかなか知られていない曲にも君とのドラマがあるから、必ずライブでやるその時まで待っていてください」とすべての楽曲に等しい愛情を注いでいることを力説する。そして「スタジアムではマンキンのセットリストで皆さんをお待ちしておりますので、よろしくお願いします!」と堂々と告げ、ステージを後にした。
これから先も長く続くOfficial髭男dismの歴史においても大きな出来事のひとつとなるであろうスタジアムライブ。その約1ヶ月前にインディーズデビュー10周年を迎え、インディーズ時代によく出演していたライブハウスというカテゴリでは最高キャパシティを誇るZeppという会場で、インディーズ時代の楽曲を現在の彼らの歌と演奏で表現したという事実は、彼らにとって非常に重要な意味を持ったと思う。これまでの歩みが現在の自分を作っていること、観客の愛情があったからこそ現状にたどり着いていることへの感謝と喜びが、音のすべてから鳴り響いていた。
取材・文◎沖さやこ
写真◎TAKAHIRO TAKINAMI”
◾︎セットリストプレイリスト
https://HGDN.lnk.to/live2025_UNOFFICIAL
<OFFICIAL HIGE DANDISM LIVE at STADIUM 2025>
■大阪公演
日付:2025年5月17日(土)
2025年5月18日(日)
会場:大阪・ヤンマースタジアム長居
開場:15:30 / 開演:17:30
■神奈川公演
日付:2025年5月31日(土)
2025年6月1日(日)
会場:神奈川・日産スタジアム
開場:16:00 / 開演:18:00
▼券種/料金
アリーナ指定席:13,200円(税込)
スタンド指定席:12,100円(税込)
指定親子席:大人12,100円(税込)・こども6,050円(税込)
注釈付スタンド指定席:11,000円(税込)
スタジアム特設サイト
https://event.higedan.com/feature/stadium_2025