【インタビュー】fuzzy knot、2ndフルアルバムに魂の共鳴と以心伝心「大事なことは悲しみが教えてくれる」

2025.05.01 11:00

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■フェードアウトが非常に多いんです
■いい意味でしこりを残したいという想い

──6曲目の「パステル」はどこか懐かしさもあるメロディーで、サビは疾走感もあるポップな曲ですね。

Shinji:この曲が一番、自分が好き勝手につくっているかもしれないです。世の中の風潮とかを全く気にせず、別に求められてもいないけど、“好き勝手につくれ”と言われたら、つくる曲のランキング1位かもしれない。

──Shinjiさんにとっての原点みたいな曲ですか?

Shinji:そうですね。もっと今っぽくしようと思ったら、たぶん全く違うアレンジになるだろうし、そもそもメロディーラインもこんな感じじゃないとも思う。別にギターがガンガン目立っているわけでもなくて、“自分がもともと音楽を好きになったきっかけの、心を持って行かれた曲ってこういう感じだよね”という曲です。個人的に僕、切ない曲が好きなんですよ。アレンジは軽快かもしれないですけど、なんかじわじわくるというか。ライブでは、お客さんがすごく楽しそうにしてるんだけど、ちょっと泣いてる…そんな風景がこの曲で見られるのが僕の願いです。


▲田澤孝介(Vo)

──田澤さんはこの曲に対してどうアプローチしていこうと思われましたか?

田澤:今まさに、すごいワードが出たなと。「パステル」に限らず、今回こういうポピュラリティー溢れる曲が多いんですけど、“そこに僕はどう言葉を載せていけばいいのか”と考えた時、一番気を付けたのは“曲に媚びない”ってことだったんです。曲の顔色をうかがい過ぎないというかね。言葉をそちらに寄せて書き過ぎると、経験上、後で歌いにくくなってしまうことが分かっているので。だから、どれぐらいの割合でポピュラリティー成分を入れ込むか……とか言うと、ポピュラリティー成分を自由自在に操れる男みたいに聞こえますけど(笑)。

──ポップ過ぎる歌詞はちょっと違う、と思われたんですね?

田澤:さっきShinjiが言ったように、時代がどうあれ自分のやりたいものをやるんだと思うし。なのでどの曲も、ポップには行き切っていない歌詞だと思うんです。その点は自分としては気を付けました。それが良かったのか悪かったのかは分からないですけど、“これが僕らの作品です”と胸を張るにはそうするしかなかった。今までになく、それを強く意識して。だから今回、作詞が辛かったんです。

──確か2024年10月下旬ぐらいに取材でお会いした時に、「作詞で苦しんでいる」みたいなことをおっしゃっていた記憶があります。「パステル」は内容的にもあの時期の心情なのかなと。

田澤:歌詞はまとめて書くので、その頃に「パステル」も書いていたと思います。もう全く進まなくて。「パステル」の話から逸れてすみません。

──いえいえ、作詞全体の話をしていただいてるってことですよね。

田澤:冒頭で、「自分が何をつくったかあまり消化し切れてない、総括し切れてない」とお話ししたのは、“これで良かったかな?”という問いにまだ答えが返ってきてないからで。自分的には“これで良かった”と、もちろん思っているんですけど。“曲調のわりに歌詞がポップじゃないな”という印象を持たれることがきっと多いんだろうなっていうのは、自己分析としてありますね。


▲Shinji (G)

──立ち止まって“あれはあれで良かったんだろうか?”と振り返り、“でも、進んでいくんだ”みたいなトーンの歌詞が多いなとは思います。Shinjiさんがおっしゃったように、曲自体も笑いながら泣いてるような、喜びと悲しみが混在する天気雨のようなトーンなので、結果的に詞曲がピッタリ合っているんじゃないですか?

田澤:だから今、Shinjiのその話を聞いて良かった。“合ってたんだな”と思いますね。

──“1曲仕上がった、OK”みたいな作業ではなく、1曲1曲に真摯に向き合うからこそ、今のリアルな感情や思考が歌詞に載るんでしょうね。

田澤:きっとそうで、俺もShinjiも“これでいっか”という線引きが下手なんです。

──アーティストとして、それは素晴らしいことですよね。商業的じゃないというか。

田澤:どうなんですかね。でも、それをアーティスティックと呼んでくれるなら、そんなにうれしいことはないです。好きなものをつくるほんまの意味でのアートと、“でもお金をいただいてるんだよ”というプロ意識。そこの釣り合いは取るんですけど、やっぱり成分としてどこかに残しておきたいんです。

──「パステル」というタイトルは一見かわいらしいですけど、どんな意味を込めたんですか?

田澤:パステルカラーで描かれた絵とかアート作品のイメージというよりは、パステルそのものを指しているんです。顔料を必要最小限のノリで固めたのがパステルで、そのつくられ方にシンパシーを感じたんですね。

──チョークみたいな棒状のシンプルな画材ですよね。

田澤:“結局どんな出来事も、自分の人生や世界を彩るよね”っていう。“良く出来た画材じゃなくても、それによって描かれているのが自分の人生”というふうに歌詞を書きたかった。自分の想い出は自分にしか分からないものだし、そのページを彩る色は自分にしか見えないじゃないですか。画力は鍛えれば上達するかもしれないけど、色はそういうシンプルなものでいいんじゃない?っていう。綺麗なだけじゃ嘘だろって。タイトルはめっちゃ迷ったし、シンプルに、サビに出てくる「Glory Days」にしても良かったんですけど。こういうお話をする機会をいただけているからこそ成立するタイトルだなとも感じます。

──7曲目の「ノスタルジック・ラプソディ」もホーンセクションが鳴り響く、メジャーキーの朗らかな曲調ですね。

Shinji:四つ打ち系のノリがある曲調で、こういったポップスなジャンルで、ブラスバンド的な曲が1曲ほしいなと思っていて、そこからつくり始めましたね。かつ、テンポもけっこう緩やかで。それと、今回のアルバムはフェードアウトの終わり方が非常に多いんですよ。

──たしかに多いなと思いましたが、それは意図的なものだったんですね。

Shinji:そう。全曲つくり終わった時点で、実は、フェードアウトではない終わり方も全部ちゃんと考えていたんです。そのヴァージョンを採用してもよかったんですけど。“いいのに消えていってしまう”というのを、このアルバムでは表現したかったので。“この先もっと聴きたい。どうなっちゃうの?”みたいな。fuzzy knotはわりと完結する終わり方の曲がこれまで多かったので、いい意味でしこりを残したいという想いが強かったですね。

田澤 :僕はこの曲からは最初、ワイワイした印象を受け取ったんですけど、いくらShinjiがどの方向に舵を切っても、絶対に滲み出る悲しい部分や哀愁があって。

──そして、そこがすごく魅力的だと思います。

田澤:だから歌詞も“今”じゃないなと。ワイワイやっていた“あの頃”を思い出している感じだなと思ったんです。毎晩集まって遊んでいたあの頃の仲間と、今集まって同じことをしてもなんか違って、あの頃みたいには全然楽しくならない。だから、あの頃のあの時間って実はめちゃくちゃ尊かったんやと。けど、じゃあ今この瞬間もそうだよね、という歌です。

──今という瞬間は二度と再現されない、と知る大人だからこそ書ける歌詞ですね。それもやはり、Shinjiさんの紡ぎ出した曲の音の中に、切なさや喪失感が内包されているからではないかと思うんですけど。

田澤:本当にそうで、曲に導かれているとしか思えない。Shinjiの曲には、入っていかない言葉がどうしてもあるんですよ。

──「入っていかない」というのは、曲にフィットしないというニュアンスですか?

田澤:“こういう言い回しをしたいな”と思って当てはめてみても曲と溶け合わなくて、“ちはぐだな。この言葉じゃないな”と感じることがわりと多いんです。それは決して制限ではなくて、曲に呼ばれているような感覚で。僕の魂と、Shinjiの魂の共鳴する部分っていうのはそこなんですよね。もちろん、それは僕の感覚なので、最終的に僕が埋め込んだ言葉に対して“全然曲とマッチしてない”と思う方もいらっしゃるかと思いますが。

──Shinjiさんの曲を聴いて、違和感のない言葉を当てはめる作業を繰り返しながら、着地点が定まっていくんですね。それは自ずと切なさを含んだものになると。

田澤:やっぱそういう血が流れているのではないでしょうか。

──「そういう血が流れてるんじゃないか?」という問い掛けに対して、Shinjiさんはどうでしょうか?

Shinji:う~ん、どうなんですかね。僕が切ない男ってことですよね?

田澤:あはは!

Shinji:たしかに自分自身が元気印でもないし、どちらかというと暗いのかな。僕は明るい曲よりも、ちょっと切ないほうが好きなんですね。例えばZARDの「負けないで」は応援ソングですけど、なんか切なくないですか。キン肉マンの主題歌「キン肉マン Go Fight!」もずっと明るいのに一小節だけめちゃくちゃマイナーで。僕はそういうものが好きだし、その辺の切なさに惹かれなかったら、もしかしたら音楽じゃない道に進んでいたかもしれない。それぐらい惹かれて、憧れてきたというのが誰よりも強いかもしれないです。

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