【インタビュー】J、3年3ヶ月ぶり13thアルバム『BLAZING NOTES』に日々の記録「燃え上がる瞬間で全てを埋め尽くす」

■音の隙間を鳴らしていくようにグルーヴする
■それを表現できるバンドでありたい
──そして、誕生の経緯をぜひお訊きしたかったのが、ミディアムナンバーの「Field of Roses」です。いつ頃、どのようなイメージからつくり始められたんでしょうか?
J:アルバムの曲をつくり始めた中盤ぐらい(2024年に入ってから)かな。もともと自分の中にある要素として、音楽を始めた最初の頃なんですけど、フォーキーなロックを聴いていた時代があったんですよ。アコースティックギター1本で全部弾けちゃうような曲というか。ロックミュージックの基本というか、昔のロックバンドってみんなそうだった気がするんですけどね。’70年代のそういったフレイバーを持つバンドが好みで。ギター1本で最後まで行けるようなピュアな曲を、今だったらさらにカッコ良くつくれるかな、なんて思って。コード進行とメロディー、あとリズム。その三要素の良さだけで進んでいく曲をつくりたいなと思ったところからスタートしました。曲の構成も自然に身を委ねて出てきたものを採用しているし、不思議な曲ですね。スッと舞い降りてきたような感覚がある曲です。
──歩く速度を思わせる穏やかなテンポで、それもまた新鮮でした。
J:イメージしていたのは、スタンダードな大人なロック。でもどこまでもカッコいいもの。もう俺は当然大人ですし(笑)、しっかりと地に足の着いた、隙間の多い曲でも、その隙間をしっかりと鳴らしていけるようにグルーヴしていけるスキルはみんな持っているはずだし。それを表現できるカッコいいバンドでありたいな、という想いはあったので、そこの部分では一つの挑戦ではありました。でも、やればやるほど“おぉ、いいね”という瞬間がすぐ生まれてきましたね。
──歌詞では“懐かしい”と連呼しています。そのようなメンタリティーが露わになった歌詞もJさんには珍しいと感じました。
J:みんな生きて、今この時代に立っているわけですけど、ふと考えた時に、“それって今までの全てとの繋がりなんだな”と改めて思ったんですね。誰の心の中にも、歌詞で歌っているような大切にしている物や場所、時間、思い出というか、そういったものって存在してるよねっていう。その部分をもう一度見つめ直したとしたら、今立っている場所から見える景色さえも違って見えるんじゃないかな、ということを歌にしてみたかったんです。あとは、アルバムの中で深呼吸できるような曲にしたかったというのもあるし。聴いている全ての人の想いを重ねられるような曲にしたかったんです。

──“傷付いたまま 立ち尽くしてた”昨日という過去に“Good Bye”と歌いながらも、消し去って無かったことにするのではなく、今に繋がる大事な瞬間と位置付ける捉え方は、Jさんの死生観ともリンクしていると感じます。別れはあったとしても、それまでに築いてきた関係や時間は消えない、といつもおっしゃいますよね。
J:そうなんですよね。昔からそんな考え方で、今に至っちゃってる。今の時代、それぞれの速度でみんなが同じ時間を過ごしている中で、当然みんなにも過去はあって、消したい過去もあれば美しい過去もあれば、いろんな時間が存在していて。その全てが意味のある大切なことのような気がして。でも……消したい時間もあるよね(笑)。
──それはもちろん、誰しもありますよね(笑)。
J:決別することも重要だし、その全てに当てはまるような風景であったらいいな、とは思いながら書いていきましたね。音楽的に言えば、古いとか新しいとかなく、ずっと響き続ける、鳴り続ける曲をつくりたいな、と思って向き合った曲です。
──ライヴで初めて体感した瞬間、歌詞がすっと心に沁み入ってきました。
J:本当ですか? 良かったです。何度も聴いて、聴く場所やタイミングを変えてもいろんな風景が見えてくる曲だと思うので、早くアルバムをリリースしてみんなに聴いてもらいたいです。
──ところで、薔薇というモチーフはどこから出て来たのですか?
J:俺に特に薔薇のイメージないですもんね(笑)。だけど、原体験というか、ガキの頃にそんな場所があったんです。いろんなことイメージ出来るような。懐かしいなと思いながら使わせてもらったんですけど。
──Jさんの原風景の中に、薔薇の咲く場所があるというのはロマンティックですね。かと思えば、「BITE ME」は、対極にあるような荒々しい歌詞で、やんちゃな面もまたJさんらしいです。
J:久しぶりにヤンチャに書いた歌詞ですね。曲自体も、みんなが“クソッ!”と思っているような対象に重ねてもらったら、ストレス発散になるんじゃないかと思ってます。
──「Runway」は気持ちの良い疾走感のある曲で。
J:ゴッチン(溝口和紀 / G)のメロディー感が活きている曲ですよね。masaの曲もそうだけど、俺にはない要素を持っているので、毎回勉強になるなって。とてもパワフルで、“こういうふうにプレイすると、こういうふうにパワーが伝わるんだ”というところを毎回楽しませてもらっています。こういうケミストリーが生まれてくるのは、バンドとして存在できている証拠なのかなと思いますね。

──先ほど、「スタンダードな大人なロック」という話がありましたが、それが顕著に音に現れているのが「Walk On」だと思いました。音の隙間もグルーヴにしていくような。
J:実は制作にすごく時間が掛かった曲です。おっしゃるとおり、すかすかじゃないですか、音数も(笑)。俺たちは本当に「大人なロック」をカッコ良く鳴らせるんだろうかというところから始まった曲なので。
──これまでの制作とは異なる部分も多かったわけですね。
J:埋めていく作業じゃなくて、広がりを求めるというか。“この音数で成り立ってるんだろうか?”とか“これくらいの隙間でいいのかな?”っていう手探りの部分があったんですよ。マスオくんの素晴らしいドラムで全ての不安が解消されましたね。
──たしかに、’70〜’80年代ロックのルーズさも感じました。テンポ感も、音の隙間を聴かせるアレンジも、今の日本で、この音を鳴らせるバンドは少ないだろうなと。
J:良かったです。報われました(笑)。こういう曲こそ、演れば演るほど“あ、そういうことだったんだ”っていう新たな気づきもあって。僕らは世代的にそういう音楽も聴いて育ちましたから、こういう曲も提示しておかないと若者たちにヤラレてしまうので(笑)。
──ロックなサウンドメイクも素晴らしいです。
J:エンジニアの小西(康司)さんは、日本の歴代のトップミュージシャンの作品を手掛けてきている方なので、知識も経験も豊富で、いろいろな場面でヘルプしていただきましたし。やっぱりこの曲で言うと、音を間引いていったときの世界観という意味では彼の存在が大きい。あとマスタリングはずっと海外の方にお願いしているんですけど、“Jはこういう音が好きだよな”っていうのを分かってくれているから、コミュニケーションもスムーズなんです。
──音の方向性は指定するんでしょうか。
J:彼らには“こういう音にしたい”とか、あまり指示はしない…というか、過去の経験から、こちらから細かく指示するとダメなんですよ。あまり良い音にならない。「最後のほうのノリが好きなんですよ」くらいアバウトなほうが素晴らしい音になるんです。海外のミュージシャンとバンドをやるとそういうアバウトさに、本当に学びがありますよ(笑)。ロックは理屈じゃないんですよ、やっぱり。そこに計り知れない、理解出来ない、圧倒的なパワーがあるんです。







