【インタビュー】HYDE、多重人格を宿した『JEKYLL』が描く表現者の本質「かなりクレイジーです」

2026.05.13 12:00

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■「幸せに死んでね」って……
まぁ日本語でも言わないよね(笑)

──諦めといえば、3月31日のライヴでの「THE ABYSS」が忘れられません。奈落の底から光を求めて這い上がろうとするような、強さを感じさせる表現も以前の公演ではありましたが、今回は諦念から祈りへ向かっていく印象を受けたのです。ご自身はどのような意識で表現なさっていましたか?

HYDE:どうだろう。歌を歌っている時、なるべくその主人公になろうとしていて。ツアー後半は特に、“なるべく楽しもう、曲に入り込もう”という意識が強かったし。それこそ「THE ABYSS」とかは入り込んでハマりやすい曲なんです。その映像が浮かびやすいというか。だからああいう表現になったんだと思いますね。

──楽しもうというのは、“表現することを味わおう”というような感覚ですか?

HYDE:そうですね。要はフィギュアスケートで曲に入り込んで演技するみたいな、そういうのに近いですね。

──ツアー前半に比べて、「後半は特に」そうなったというのは、テクニック面での進化が土台となり、より純粋に表現を楽しめるようになったということですかね?

HYDE:もちろん、上手に歌おうというのは、どこかにあるんですけど、それはアルバムでやっていることなんですよ。ライヴというのは、やっぱりそれを超えるという意味で、もっと感情的であっていいし、自分自身がその曲の中に入り込んだものを表現する場であっていいんだろうなと。特にツアー後半は、そういう気持ちで出来ていたからですかね。

──「THE ABYSS」で深い絶望を表現したことによって、「LAST SONG」の聴こえ方が前回のツアーとは相対的に変わった印象を受けました。

HYDE:なるほどね。

──それは意図的ではなかったですか?

HYDE:それぞれの曲を多重人格のように切り替えないと、前曲に引っ張られちゃうからね。ここでは絶望だけど、次の曲ではまた違うみたいなことです。でも、“曲ごとにとことん感情移入する。それがライヴであって、それでいいのかな”という気持ちでやっていました。

──“ジキルとハイド”の二重人格どころか、多重人格をアルバムでもライヴでもHYDEさんは表現なさっているんですね。

HYDE:特にこの『JEKYLL』というアルバムやツアーはかなりクレイジーですね。本当に何人もキャラがいるというか。

──「SO DREAMY」はキュートでロマンティックな世界観ですし、「FINAL PIECE」も幸福感に満ちています。人格の切り替えって、ステージでは瞬時に出来るものなのですか?

HYDE:そうしないと、お客さんも引きずられちゃうからね。たしかに「THE ABYSS」で入り込んじゃうと、そこからの切り替えは難しいので、僕自身も“気持ちを持っていかないと。切り替えないと”って意識にはなりますけど。

──JEKYLLオーケストラの皆さんの演奏も素晴らしかったですが、ツアー中、メンバーの皆さんに対してHYDEさんから何かリクエストはされていたのですか?

HYDE:イメージと違うところがあれば言いますけど、ほぼないですね。基本的には全部バンマスのhicoに任せているので、僕は気持ち良く歌うだけです。

──ライヴもアルバムも、もっとクラシカルなアレンジになるのかなと予測していましたが、ジャズだったり、R&Bやゴスペル感もあったりと多種多様でした。

HYDE:そうですね。

──曲ごとのアレンジの方向性も、hicoさんとやり取りをして決められたのでしょうか?

HYDE:基本的にはhicoがまとめてくれました。僕からは、ヴォーカリストのニュアンスだったり、経験上、「ファンはこういうところを聴いてるよね」というところだったり、hicoには分からないかもなという部分を軽く言うぐらいです。

──アルバムレコーディングは、けっこう長い期間にわたっていましたよね?

HYDE:“リリースはまだまだ先じゃん”と思いながらやっていると、あっという間に時間って過ぎますね(笑)。去年秋口に“余裕じゃん。みんなはなんでそんな慌ててるの?”と思っていたら、びっくりするぐらい時間が経つのが早かった(笑)。最後は追い込まれて今年1月までやってたかな。

──ギリギリまで作業されていたのですね。1曲目が「DIE HAPPILY」というのもHYDEさんらしいな、とうれしくなりました。

HYDE:この曲は、自分の中で理想的な大人っぽい曲で。“一発目に持ってきたいな”と思っていました。冒頭からの3曲でしっかりと印象付けて、あとはいろいろ遊んでいいかなと。まずは自己紹介みたいな、名刺のような感じで表現しています。

──“DIE”と“HAPPILY”、通常なら結びつかない言葉だと思うんですが、すっと閃いたのでしょうか?

HYDE:そうそう、その辺はAliも困っていたのか、「これは普通の歌詞として使わないよね」という感じで迷っていて。それで別の優しい言い方を提案してきたんだけど、僕は「いや、違うんだよ。そうじゃなくて」と。「幸せに死んでね」って……まぁ日本語でも言わないよね(笑)。

──この2つの単語の組み合わせは、HYDEさんの詩的センスの真骨頂だと思います。2曲目「SSS -HYDE Ver.-」はTOMORROW X TOGHETERへ、3曲目「MAISIE -HYDE Ver.-」はCö shu Nieへの提供曲。後々セルフカバーすることを想定なさっているケースも多いそうですね?

HYDE:人に楽曲を提供するときは“自分でも歌えるかな?”って考えます。歌えないものもあるかもしれないけど。

──2曲とも、HYDEさんが歌われるとやはりHYDEさんの世界観になりますね。どのようなイメージで歌を録られたのでしょうか?

HYDE:「SSS」はもともと『JEKYLL』用に作っていた曲で、それを誰かに歌ってほしいと思った時にTOMORROW X TOGHETERが歌ってくれることになって。その時に、僕から「こういう曲で、こういうふうに歌って」とアドバイスをしていて。仮歌も用意しましたし、もちろん方向性は見えていたんです。なので今回は、“自分が歌ったらこうなるな”というのをそのまま当てはめた感じです。「MAISIE」は逆に、Cö shu Nieのアレンジが施されていたので、僕の曲というよりも、本当に“カバーした”という感じです。

──英語の滑らかな発音も含めて、HYDEさんの磨き上げられた美しい歌唱が際立つアルバムだと思います。『JEKYLL』という作品のレコーディングを通して、ご自身がヴォーカリストとしてさらに進化したという手応えはありますか?

HYDE:そうですね。未だに英語にトライしているところがあって。それもいい方向に作用して、やればやるほど分かってきているなとは思います。

──発音の部分ですね。

HYDE:良くも悪くも僕には当たり前な作業になってます。もともと『ROENTGEN』も英語の曲が好きで作った部分は大きかったので、四半世紀やってることになりますね。歌自体も、自分を見つめながら歌うことが多くなりました。前は歌えなくなったらそれは“体調のせいかな”と思っていたのが、今は“歌い方が悪いんだな”と思うようになった。その場合は上手く喉を切り替えたりして対処できるようになってきたので、そういう部分で進化してるんじゃないかなと思います。

──到達点ではなくまだ進化の途上で、これからさらにというお気持ちですか?

HYDE:進化するべきことはたぶんいっぱいあるんですけど、キリがないので出来る範囲で取り入れつつも、それを自分でこなせるかどうかというところだと思うんです。自分なりに美しく歌えればいいので。

──2026年にソロデビュー25周年を迎えられ、ツアーでは“始まりの大切な曲”として「EVERGREEN」を披露されました。実際、歌いながらどのようなフィーリングでしたか? 

HYDE:僕が思っている以上にあの曲を好きでいてくれる人が多くて。僕の知り合いがお葬式で掛けてくれたりするんですけど。

──それはちょっと切ないですね……。

HYDE:もう延々と「EVERGREEN」が流れている場所があったりする(笑)。でも、それぐらい“皆さんに愛されてよかったね”という気持ちがこの曲にはあります。歌ってるといろいろと思い出しますね。

──例えばどんな場面ですか? 2001年のソロデビュー当時のことを思い出されたりするんでしょうか?

HYDE:この曲が好きで、亡くなった人を思い出したりします。この曲を好きなファンの人もやっぱり多いみたいで、「EVERGREEN」の話はよく手紙に書かれていますよ。25年以上僕のファンだという人もいらっしゃるので、そういう人からすると、最初のシングルなのでやっぱり印象的でしょうね。