【インタビュー】ASIAN KUNG-FU GENARATION、『フジエダ EP』とシングル「スキンズ」発表、そして結成30周年の充実ぶりを語る「今年はツアーもやりながらアルバム制作したい」

2026.03.24 18:00

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■“藤枝のスタジオってこういう感じです
■わかるような4曲になってます

──そうですか。『フジエダ EP』の曲たちはどうなんです?

喜多:でも「スキンズ」とそんな変わらず、同時進行で、ゴッチのデモがメンバーに送られてきたりしてましたね。で、ディレクターにシモリョー(下村亮介 / 元the chef cooks me)を立てて、「スキンズ」と『フジエダ EP』に入ってもらって。だからシモリョーにギターの相談をしたり、一緒にアレンジを考えたりして、それをゴッチに聴いてもらったりしてました。

──それを藤枝のスタジオ“MUSIC inn Fujieda”で録ることは、どんなふうに決まったんですか?

喜多:ゴッチが藤枝にスタジオを造るってなった時ぐらいから、最初にアジカンでレコーディングしようということになって。なので、話はけっこう前からあったよね。

後藤:まあスタジオの経営的にもアジカンが借りてくれると大きいし、宣伝にもなるし。どうしてもテスト期間というのは必要だし、そこを使ってお金を払ってもらえるんだったら、ほんとに大きな助け舟になるので。それは早めにみんなにお願いしてね。建物ができても、オープンまでは家賃が発生してるのに収入がない時期が続いちゃうので。そこでアジカンが借りてくれるとありがたいなと思って。

──なるほど。じゃあどういうEPにしようと思ってました? この4曲をどんなバランスで構成しようと。

後藤:それは、スタジオが“どんな音楽性でも使えるんだ”ということがわかるように、ですね。我々はロックバンドですけど、“いろんな音で録れますよ”っていうのは意識したかもしれない。たとえばドラムのエアー感というか、その部屋でアンビエント(反響)の音をどれぐらい出すか、とかね。そのバランスです。「膝栗毛」と「ペダルボート」ではだいぶ質感が違うわけじゃないですか。このスタジオではギターロックもできれば、アコースティックな曲もできる。「ナンプラー日和」みたいな曲もできれば、「おかえりジョニー」みたいなオーセンティックなものも作れる、とか。

──じゃあサウンド的にちょっとバラけることは、最初のデザインにあったわけですね。

後藤:そうですね。ある種のサウンドサンプルじゃないですけど、“こういう音で録れますよ”という案内でもあるので。だからバラエティに富んでていいんじゃないかと。一色刷りというか、“この音しか録れないんだ”というものではないから。曲に合わせて音回りを作っていく、みたいな。

──実際にやってみて、どうでした? 藤枝でのレコーディングを。

後藤:楽しかったですよ。でも“アジカンって機材多いんだな”と思ったりしましたね。“ちっちゃい蔵だと入んないな、ペダルエフェクターこんな要るのかよ?”みたいなことはちょっと思いました。だからアジカンぐらいの規模のバンドは、少し手狭だって思うかもしれないですね。でも自分たちがインディーで『崩壊アンプリファー』を作った頃のスタイルだったら、もう全然バッチリって感じのサイズ感だとは思う。で、音自体はめちゃくちゃいい。ドラムの音はとにかく良く録れる。これは普通にひとつの選択肢になりうるぐらい、いいと思うんですよ。

──なるほど。そこはドラマーに聞いてみたいところです。

伊地知:ここはインディーバンドにはちょっと贅沢なぐらい、鳴りがいいです。インディーズのバンドのドラムが録れるようなスタジオって、だいたい2種類なんですよ。吸音が全然できてなくて、ものすごく反射する、ワンワンしてるようなスタジオか。もしくは吸音されすぎて全然響かない、部屋の鳴りがまったくないスタジオかの、どっちかしかないんですけど。このスタジオは、木の鳴りがするんですよ。

──木の鳴り?

伊地知:はい。スタジオの反射がしっかりあると、ルームにマイクを立てて鳴りが録れるんですけど、その音がめちゃくちゃいいんですよね。おそらくメジャーのアーティストも使いたいと思うんじゃないかなっていうぐらいすごいですね。これは。

──そうですね、僕もこのEPを聴いていて、ドラムの音が特徴的だなと思ったんですよ。

伊地知:はい。で、この4曲全部、鳴りが違うというか、部屋の鳴りを重視したミックスにしてあります。あと、オンマイクといって、タイコとかシンバル単体の音を重視した音作りにしてるのもあって、4パターンきれいに分かれてるので、ちょっとカタログみたいになってるという。僕はスタジオの人じゃないですけど(笑)、「藤枝のスタジオってこういう感じです」とわかるような4曲になってますね。

──音質に関しては、スタジオの設計の段階から意識するところはあったんですか?

後藤:そうですね。それはイメージしてはあるけど、実際には出来て、鳴らしてみないとわからないのがスタジオで。で、鳴らしてみたら同じ曲でも、アジカンの練習スタジオで録った時と、こっちで録った時とで、明らかにドラムの情報量が違ったんですよ。たぶんそれは跳ね返った音もあるからだと思うんですよね。でもこれがどうしてなのかは、専門家に聞いてみないとわからないです。

──なるほど。それは蔵を改造した場だからっていうのは関係してるのかもしれないんでしょうか。そもそもゴッチは最初から蔵でスタジオを造ろうとしてましたよね。5〜6年ぐらい前から。

後藤:最初に考えていたのは大正時代に建てられたという石の蔵でしたね。で、その建物を買ってから、スタジオの詳細を考えようと思っていたんですけど、それはうまくいかなかった。途方に暮れていたら、江﨑新聞店(藤枝市)の江﨑さんから「うちの土蔵、使ってもいいですよ」と言っていただけて。それで、賃貸で土蔵を借りることになったんです。

──そうか、スタジオの建物自体は買ったわけじゃなくて、借りてるんですね。

後藤:そうです。賃貸だと個人で運営していくイメージが湧かなかったし、でも設備投資はしなきゃいけないので、これはもう地元の共有財産、コモンズみたいにしていかないと残らないなと思ったんです。レガシーにしていくということですね。だからNPOを作ってみんなのスタジオにして、最終的には藤枝の次の世代に渡すような造り方をしないとな、と。それで持続可能な体制を考えたら、地域への貢献が利益、みたいな構造にしていかないとムリだなと思ったんです。

──山田くんと喜多くんはそこのスタジオでやってみて、どうでした?

山田:スタジオに来て音を出してみたら、設計から専門的な知識がある人と共有して、すごく考えて作ってきたなっていうのが伝わってきたというか。さっき言ったように、“自分らのスタジオでプリプロしたドラムの音とここまで違うか”みたいな印象でした。ちゃんといい音で録れる環境だということにビックリしましたね。で、ドラムの音がしっかり録れると、そのあともスムーズになるというか、乗っかっていく音もバランスがとりやすくなるし。今度の4曲はスタジオのサウンドを知るためにも、とてもいい作品になったなと思います。だからミックスを聴いてるのが楽しかったですね。ほんとにいい音だなって思いました。

喜多:藤枝のスタジオには、本レコーディングの前にプリプロでも入らせてもらって。ちょっと機材多めなアジカンかもしれないですけど、ちゃんと4人分のセットが入って、顔を合わせながらプリプロできたのもすごく楽しかったし、ギターもドラムに負けないぐらいいい音で、いろんな表情が録れてると思うので。そのへんも注目してもらえるとうれしいなと思ってます。

──そうですね、ギターの音が印象的な箇所もあります。では、その4曲について話を聞きたいんですが、まず1曲目の「膝栗毛」です。これはカッコいいギターロックになってますね。

喜多:一番最後にできた曲ですね。ゴッチが書いたんですけど、最初、EPトータルでの4曲目は俺が作んなきゃいけない、みたいな空気があって(笑)。

後藤:そうそう、待ってたんですけどね。で、どうも建ちゃんはできないから山ちゃんが作る、みたいな話になってた気がして。その後、「山ちゃんの曲をみんなでやってみたけど、うまく仕上がらなかった」っていう連絡が来て。で、すぐにこれを作りました。

喜多:見かねて、ゴッチが作ってくれて。たぶん、テンポがちょっと速めの曲も入れたいっていう話を聞いてたので。

後藤:そう。「速い曲ないとダメでしょ」とか言って。速い曲がないと、こういうの録りたい人がイメージわかないよね、っていう。

──そうですね、ギターバンドとしてのアジカンの得意技というか、濃いところが凝縮されてるなと思いました。

後藤:勢いが出てればいいんじゃないかな、と。でも“あー!”と思いましたけどね。“これ、タイアップで「疾走感を」って言われた時に書かなきゃいけないやつだ!”って(笑)。

喜多:取っておきたいぐらいだったね(笑)。

後藤:そう! そういうことを全然言われてない時にこそできる、みたいな。“今じゃないんだよな”って。“いっつも言われるやつだ! これ出したらOKだったじゃん”みたいなね(笑)。

──いや、カッコいいと思います(笑)。

後藤:そうですね。ちゃんと日本っぽい節回しという感じだし、ロックだしね。

──しかし「膝栗毛」とは変わったタイトルだなと思ったけど、歌詞の内容を見るとすごく納得しました。

後藤:これは東海道を旅してるようなところでイメージしながらですね。“松葉が積もった土を踏みしめる”とか、それに“越すに越されぬ”は大井川だし。

──『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)ですね。そしてこれはフィジカルであることを唄ってもいますね。膝栗毛には肉体的な意味があるし。

後藤:そうですね。スタジオは築100年の蔵を使ってやってるからね……正確には130年だけど。でも周りがどんどん駐車場になっちゃってるし。藤枝の曲ですね。ほんとに。

──で、次の2曲目以降は、これより前からあった曲たちなんですね。

後藤:先に言っちゃうと、「ペダルボート」はクラウドファンディングのリターンになった曲だったんです。土蔵を改装する前、ネイキッドの土蔵の時に中で唄ったのがクラウドファンディングのリターンで、もうみんな(賛同者)に送られてるんですよ。それをバンドでリアレンジして、アジカンバージョンを作った感じですね。だからクラウドファンディングに参加してる人たちは“あ、こうなるんだ”みたいな過程が楽しめるかな、と。

──なるほど。じゃあ、わりと前に書いていた曲なんですね。

後藤:で、「おかえりジョニー」は、いい曲書かなきゃと思って作った曲。それからスピッツさんの「ナンプラー日和」は、三輪(テツヤ)さん、田村(明浩)さんのおふたりが藤枝の出身なので。

──そうか、そういう背景があるんですね。では順番に聞いていきます。2曲目の「おかえりジョニー」は非常にグッとくる曲に仕上がってますね。

後藤:これは「イン・マイ・ライフ」のイメージです。故郷を唄う、みたいな。

喜多:うん。ビートルズのね。

後藤:そう。で、「こういうサウンドも録れるよ」っていうところで。

──なるほど。で、このコーラスに参加しているのが…

後藤:はい、クラムボンの原田郁子さんですね。これは登場人物がふたり出てくるので“デュエットみたいな感じになるといいな、誰か女性ボーカル入れたいな”と思って。誰がいいかをずっと考えてたんですけど……ふと、“原田さん!”とひらめいた、みたいな。

──すごくいい雰囲気で唄ってますよね。

後藤:そうですね。原田さんのキーもバッチリだったってことですね、これは。

──この歌詞で“所在地は知らない 国籍なんてだるい もう 想いがあれば性別なんてさ”とまで唄ってるのがゴッチらしくて、いいなと思いました。

後藤:そうですね。男女の話なんだけど、ここをどうにか溶かしたいと思ったんです。これ、ジェンダーの歌でもあるんですよね。海に飛び出すのがエリーで。で、このことを岸田(繫)くんにも話したんだけど、くるりの楽曲「ハイウェイ」では“飛び出せジョニー”って唄われてるんですよね。だから飛び出していったのはその青年だったんだけど、俺は“ジョニーはそろそろ帰ってきたほうがいいんじゃないか”みたいな気持ちになって(笑)。だから「ハイウェイ」の続編みたいなことを思いついて、岸田くんに、「そういう歌詞にしてもいい?」みたいな話をしました。で、エリーを出したのは、サザンをこすりにいってるという(笑)。

──ですよね(笑)。サザンへの思いは『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』のインタビューでも話してくれましたね。

後藤:“笑ってもっとベイビー”とか、完全にそうですね(笑)。メロディーは「いとしのエリー」のラインにはハマらなかったけど。

喜多:いろんなオマージュがね(笑)。