【インタビュー】井上ヨシマサ、作家デビュー40周年記念3部作が完結「まだ全然やりきってない」

◼︎シンプルさは、いろいろな悩みも経て辿り着くべきなのです
──レオパレス21のCMソング「それぞれの夢」は、「それぞれの夢2025」としての新録ですね。この曲、日本中の人が知っていると言っても過言ではないです。30周年アルバム(2015年にリリースした『それぞれの夢~井上ヨシマサ30周年記念アルバム~』)にも収録しましたよね?
井上:はい。この曲を僕がライブとかで歌っているのを聴いてくださった方々の中には、「井上さんは、レオパレス21の歌が好きみたい」って思う人もいるらしいです。僕が作ったのに(笑)。「AKB48の曲とか作っている人ですよ」というような紹介をされる一方で、この曲はあまり浸透していないのかもしれないですよね。
──新しい歌詞が加わりましたね。
井上:大サビを作ったんです。年を食ったからこそ出せる青春バンドサウンドを目指しました。
──「新生活のスタート」という感じがすごくする曲です。
井上:当時母が亡くなり、家族がそれぞれ一人暮らしをする事になったんです。そのタイミングで依頼があり、書かせて頂いた曲がこのCMソング。「それぞれの夢」です。
──ひとり暮らしを始めた若い頃を思い出しながら聴く人もいると思います。
井上:作ってから約20年経って、最近、僕の娘がひとり暮らしを始めたんですよ。前述の通りCMを断っていた時期に何故引き受けたかというと、発注くださった制作会社の方が元々有名なアーティストで、発注の際「ヨシマサに頼むんだから、ちゃんと一曲として作り上げてください」という嬉しい口説き文句を言われたのです。シンプル故に歌詞も少ないのですが、一行一行新生活を始める身近な人へ送った歌詞とメロディです。
──《夢中で がんばる君へ エールを》という歌詞はシンプルですが、伝わる力がとても大きいです。
井上:「辿り着いたのは簡単な言葉じゃん?」ということなのかも。でも、遠回りは必要なんです。常にシンプルな《愛してるよ》とかでいいということでもないですからね。シンプルさは、いろいろな悩みも経て辿り着くべきなのです。
──今作のゲストボーカルに関しては、どういう経緯でのお声がけだったんですか?
井上:ゆきりん(柏木由紀)は、「ユニットを一緒にやりたいなあ」という話もしていたんです。「Unlimited」は今回のアルバムに入れましたけど、来年、ユニットの曲として出してもいいくらいの感じで考えていました。
──歌声が神々しいダンスチューンですね。柏木さんのこういう感じの曲、今までにありましたっけ?
井上:僕が作った曲で最初にゆきりんが歌ったのは、チームBの劇場公演曲「命の使い道」だったんです。あれは「Unlimited」に近いものがあると思います。それがあったので、「ゆきりんには、こういう無機質な感じの裏に隠れる執念みたいな表現上手いな」と思っていました。
──柏木さんの歌に関しては、どのようなことを感じ、伝えましたか?
井上:昔、レコーディングした時に「私は自分の歌い方みたいなのを作らないようにしているんです。あんまりそういうことをやると、他のメンバーとの整合性がとれないような気がして」と言っていて、それがなんか引っかかっていたんですよね。「そろそろ自分だけの歌い方解禁しちゃっても良いんじゃない?」と伝えました。
──彼女と一緒にユニットをやりたいと先ほどおっしゃっていましたが、もし実現したとしたら、どのような活動をイメージしていますか?
井上:ユニットのメンバーとしてだったら、今までのように作曲家の意見だからだとか、或いは歌い手さんが言ってますから、などなど不必要な立場を超えて音楽制作ができる気がしているんですよと。ユニットを一緒にやってみたいというのは、他にも男性、女性それぞれで考えています。そういう気持ちになったのは、このアルバムを作ったからというのもありますね。
──ゲストボーカルに関しては、「In Your Sky (feat.吉岡忍)」もそうですね。
井上:「周年だから曲書いて」と中山美穂さんに言われていて、そのデモを吉岡忍さんに歌ってもらっていたんです。中山美穂さんの声で聴くことが出来ない悲しさを癒す意味と追悼の意を込めて、このフルコーラスを作り歌ってもらったのが「In Your Sky」です。吉岡さんはAKB48との繋がりもすごくある人で、「大声ダイヤモンド」辺りからずっと仮歌を歌ってくれています。
──AKB48のメンバーにとって、歌のお手本になっているシンガーということですね。
井上:メンバーの女の子たちにとって仮歌はとても大事なんです。それを聴いて真似したりして歌いますからね。遡ると、吉岡さんがグループ活動をしていた時に秋元さん(秋元康)が歌詞を書いているんですよね。吉岡さんは秋元さんに「覚えてますか?」と電話をしたそうです。「AKB48のデモの仮歌を歌ってるの、実は私なんですよ」と言って、「おおっ! そうなの?」って。コーラスのハモを吉岡さんに歌ってもらって、それが本チャンに残っている曲もいっぱいあるんです。

──今作のAKB48関連の曲といえば、先ほども話が出た「僕の居場所」ですね。コーラスが村山彩希さん。
井上:この曲をXに投稿した時には僕が歌っていて、「いい曲を作ってくれてありがとうございます」みたいなコメントを頂いていたので、あの楽曲はそこでお役目ご苦労さんでした!ということで、その後作品として出す予定はなかったのです。私はよくSNS投稿用に曲を作ったりしてますが仕事とは思ってないのです。その時々に起きる様々な出来事に即反応して気持ちをみんなと共有したいのです! 普段の仕事だと曲ができた後、アーティストやメーカーとのやり取り、直しや歌入れスケジュール出し、ジャケット撮り、MV制作などなど皆様に届ける頃には「何の話だっけ」なんて事になる。そういう意味では投稿曲は仕事にならない分、昨日の痛みを共有できるんですよね。劇場リニューアルのニュースを受けてすぐに作った曲、みんなに愛された劇場、その中でも一際劇場を愛した村山さんに何かしらの形で参加してもらたいなあ」と思ったんですよね。
──オファーをしたのは、村山さんがAKB48を卒業してからですか?
井上:そうです。卒業したばかりの時だったし、「どういうオファーがいいのかな?」と。それで、スタジオミュージシャンを招くような感じで、コーラスとしてゆいりーに歌ってもらうことにしました。オファーしたら、「行きます! 行きます!」と快諾してくれました。
──歌詞もヨシマサさんが書いたんですね。
井上:はい。Xで投稿する際、知り合いから映像を送ってもらって、更にゆきりんとゆいりーにも思い出の写真を送ってもらっていたんです。夏まゆみ先生が、「ステージの高さはわずか数センチ。でも、その数センチのステージに立てるか立てないかで、人生は夢を叶える側と夢を叶えられない側に分かれる」とメンバーに言った時のこととか、ゆきりんに話してもらったりもして。
──メンバーのみなさんのAKB48劇場に対する想いを想像できる曲です。
井上:先生たちが教えてくれたことと、それを真摯に受け止めたメンバーへの歌が「僕の居場所」なんですよね。だから「そのまんまやん!」という歌詞です。でも、この曲の歌詞は「そのまんまやん!」でいいんですよ。
──ヨシマサさんはAKB48がブレイクするかなり前から楽曲提供をしていましたよね。キングレコードに移籍して最初のシングル「大声ダイヤモンド」で、グループ全体に勢いがついた印象があります。
井上:僕がAKB48を書き始めた頃、個人的にアップテンポが好きでは無かった。「軽蔑していた愛情」など所謂MIXを打てる曲は書いてません、というか書かなかった。アップテンポに抵抗があったんですけど、劇場曲を沢山書いて、その都度現場で公演を観るうちにAKB48に提供する曲が変わっていったんです。アップテンポの曲も増えていきました。ただ「大声ダイヤモンド」までは小さな抵抗を続けておりました(笑)。「MIXを打てるようにして」と秋元さんに言われて、「僕、そういう曲は苦手なんで他の人に頼んでください」と言いつつも、「がんばりまーす!」と空返事したり(笑)。でも、そういう連絡をもらった後、僕はひとりで考え込むんです。言われたことをやってみて、「これ、どうだろう?」と作っていきました。
──思い出深い制作だったんですね。
井上:そうですね。そういえば……僕、AKB48が日本青年館でやったコンベンションライブ、所謂業界関係者に観てもらう事を目的としたお披露目ライブを観に行ったことがあるんです。僕は中学校の時にデビューしたバンドで青年館でコンベンションライブをやったんですけど、お客さんは1列だけ。あとは所属していたビクターが招待した50、60人とかでした。そういう青年館に関係者よりもAKB48のファンの方が圧倒的にたくさん来ているのを見て、「あれ? この人たち、ブレイクするかもしれない」と思いました。でも、もうちょっとでブレイクできるのに!という状態が続いたんです。「俺が曲のテンポを上げないからだ」と思ったりもして(笑)。
──そして「大声ダイヤモンド」で、ついにテンポアップ?
井上:はい(笑)。AKB48が移籍することになって、もうすぐでキングレコードに決まるかもしれないという時でした。秋元さんは「イントロを直してくれ。このままじゃメジャーで出せない」と言っていて、すごく頑張っていたんですよ。何度も直してリリースに至りましたから、僕もすごく頑張った曲ですね。「僕の居場所」の歌詞を他人事みたいに書いていますけど、自分事でもあるんです。それまでもいろいろな方々の曲を書いていましたけど、一緒に登っていったような感覚が一番強いグループです。
──AKB48劇場が改修工事の期間に入ったのが昨年の9月1日。「僕の居場所」をXに投稿したのは、そのタイミングでしたよね?
井上:そうでした。ずっとスケジュールが入っていて改築できなかったAKB48劇場が終わっちゃうんだなという寂しさがありましたね。改修してから観に行ったらきれいになっていましたけど、まだ無名でみんなで試行錯誤を繰り返した頃、決して洗練された美しい劇場では無かったが、あの頃の頑張る気持ちは荒削りだけど本当に美しかった──そんな意味もこの曲には込めています。
──ゲストが参加している曲に関しては、プロゴルファーの臼井麗香さん、菅沼菜々さんが掛け声で参加している「上がってなんぼ」も要注目です。これは、どういう経緯だったんでしょうか?
井上:臼井さんに曲を頼まれたんです。女子プロトーナメントを観に行ったことがあって、その時に「私、今日この人に初めてついたんだけど、アイドルのオーディションを受けたことがあるんだって」と知人に紹介されたキャディさんに言われて。僕はAKB48の曲とかを作っている人として紹介されて、臼井さんは「知ってます!」と。後日、練習場で偶然会って、その時に改めてお話をしました。「ファンミーティングとかをやっているんですけど、曲を書いてください」という話になったんですが、最初に書いた曲はボツに(笑)。やはり第一線で勝負している人間に妥協という言葉はないんですね(笑)。それでもう1曲書いたらOKになりました(臼井麗香&菅沼菜々によるアイドルユニットchell’7のオリジナル曲「史上最恋」)。レコーディングには臼井さんと菅沼さんが一緒に来て、歌入れをしました。「上がってなんぼ」に入っている「ファー」は、その時に録ったんです。プロゴルファーに「ファー」って言わせるのは屈辱じゃないですか? だから言ってもらうのはやめようかなと思ったんですけど、プロデューサーが「『ファー』って言っていただいていいですか?」と(笑)。
──なるほど(笑)。
井上:「それはちょっと……」と僕が言ったら、彼女たちは「しょっちゅう言ってるから、いいですよ」と(笑)。「この『ファー』を使う時は、2人の楽曲も宣伝するようにするよ」と言ったので、このお話も載せておいてください。
──はい(笑)。
井上:この前、<かわさきジャズ>で「上がってなんぼ」も歌ったんですけど、僕のライブの前が安部潤さんで、フュージョンのすごくかっこいい曲をやっていたんです。「フィラデルフィアに行った時、雨が降っていて」と、曲を作った時のエピソードも話していました。その後に出た僕は「ゴルフが好きで、『うまくいかねえなあ』っていうのでできた曲でーす!」って言ったので、ギャップがすごかったです(笑)。「ノンアルコールで乾杯」も歌いましたからね。「禁酒して酒を飲めない時があって、ノンアルコールを飲んだら美味しくて作った曲です」っていう話もしました。

──ユーモアがあるのもヨシマサさんの魅力だと思います。「融合」も、かなりはじけている曲じゃないですか。
井上:これは振り付けもあって、ライブで1回やったことがあります。「融合」は、その時のライブタイトルでもありました(2023年7月17日にShibuya TAKE OFF7で開催された<ヨシマサ生誕2023~融合>)。「人とロボットとか、いろんなものと融け合いながら喧嘩しないで行きましょう!」という後世に残るメッセージを込めています(笑)。当時はAIのこととかまでは考えていなかったですけど、今だからこそ!
──多様性、ダイバーシティを訴えるメッセージ?
井上:そうそう(笑)。
──《焼きそば食べたら融合 ご飯と体が融合 結局食事は融合》とか歌っていますが……。
井上:バカでしょ?(笑)
──(笑)。今回のアルバムについて改めて感じることはありますか?
井上:「もういいや」って言えないんだなと思いました。僕、来年、定年の年齢ですけど、やりたいことがすぐにいろいろ生まれてきちゃう悲しい性というか。だから音楽を選んだというのもあるんですけどね。音楽は一生できるから選んだんです。さっき言ったユニットの構想もそうですけど、「まだ全然やりきってないんだな」と思いました。うきうきしていますよ。集大成のつもりだった今回のアルバムも通過点なんですよね。これからも毎回新しいことができたらいいなと思っています。
取材・文◎田中 大
写真◎淵上裕太
『Y-POP』
リリース日:2025年12月3日(水)
【定価】¥3,300(税抜価格 ¥3,000)
【品番】KICS-4237
予約:https://king-records.lnk.to/YPOP
収録楽曲
1. Lonely Umbrella (作詞:佐藤舞花 作曲・編曲:井上ヨシマサ)
2. それぞれの夢2025 (作詞・作曲・編曲:井上ヨシマサ)
3. In Your Sky (feat.吉岡忍) (作詞・作曲・編曲:井上ヨシマサ)
4. ノンアルコールで乾杯 (作詞:川咲そら 作曲・編曲:井上ヨシマサ)
5. 上がってなんぼ (作詞:川咲そら・井上ヨシマサ 作曲・編曲:井上ヨシマサ)
6. 融合 (作詞・作曲・編曲:井上ヨシマサ)
7. Unlimited (feat.柏木由紀) (作詞:佐藤舞花 作曲・編曲:井上ヨシマサ)
8. BANZAI (作詞・作曲・編曲:井上ヨシマサ)
9. リハーサルタイム (作詞:川咲そら 作曲・編曲:井上ヨシマサ)
10. 僕の居場所 (作詞・作曲・編曲:井上ヨシマサ) コーラス:村山彩希
<井上ヨシマサ40周年アルバム 第3弾発売記念ライブ「ヨシマサがやって来る Y Y Y」>
2025年12月14日(日)
Club Mixa(池袋)[Mixalive TOKYO_B2F]
Open15:00/Start16:00
チケット:全席自由8000円(税込)配信あり(後日詳細発表)
*整理番号順 *当日券500円増し *未就学児入場不可
チケット販売開始:2025年10月31日(金)19時〜
(受付URL)
https://www.confetti-web.com/@/inoueyoshimasa48
電話受付:050-3092-0051 (平日10:00~17:00受付)







