【インタビュー】「改造エフェクターコンテスト2025」、BARKS賞受賞の「MyRAT」とは?

2025.11.17 17:00

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今年も堂々開幕された「改造エフェクターコンテスト」はTC楽器が主催している隔年名物イベントだが、回を重ねるたびにその奇天烈さは増す一方であり、全国から楽器大好き変態様を一堂にかき集める珍祭りとして、圧倒的な異彩を放つ奇祭に成長を遂げている。

ギターやベースのサウンドをカスタマイズするために生を受けたエフェクターという楽器は、そのほとんどが電気回路で設計されているため、知識とアイディアによっていろんなカスタマイズが可能となる。世には手作りで正当進化を追求する人も少なくないが、失敗により思わぬ弊害サウンドを産んでしまうハプニングもあることだろう。

ただここは、TC楽器の「改造エフェクターコンテスト」、オリジナルのアイディアであれば何でもありというゆるーいコンテストである。ポイントはとにかく楽しむこと。外見のみの改造も歓迎、専門知識の有無も評価基準にない。それが故に応募作品はカオスだ。第3回目となった「改造エフェクターコンテスト2025」でも、愉快なアイテムから怪しげなブツ、頭をかしげてしまうような逸品まで、全国からたくさんの改造を受けたエフェクターが闇鍋のごとくごった返す状況となった。

そんな中、2025年11月13日に行なわれた結果発表にて、BARKS賞を受賞したのは東京都から応募してくれた藤原健司さんの「MyRAT」という歪み系エフェクターだ。受賞ポイントはただひとつ。遊びゴコロ満載の応募作品が軒を連ねる中で、「遊びゴコロ」ではなく「遊び」そのものをぶち込んでくれたブツは、後にも先にも「MyRAT」だけだったという点だ。ステキじゃないか。それによって本来の機能性が下がろうと実用性を失おうと「それで良し」と邁進する心意気は、タイパやコスパが最大正義とされる現代社会において、謎の輝きを放っているように見えた。

「MyRAT」というエフェクターはどういうものか。制作者の藤原氏による「MyRAT」の説明は以下の通り。

「RATの改造です。初回起動時に2体からキャラを選びます。選んだキャラによって音色が変わります。通常画面ではキャラがてくてく歩きます。3日弾いていないと弱ります。1週間弾いていないと死にます。7日間毎日弾く(電源を入れる)とサングラスを装備できるようになります。サングラスを装備すると音が変わります。(本当は赤色と青色でガッツリ音を変えて、サングラスでもさらに音色の変化をつける予定だったのですが、うまくいっておらずいずれもあまり大きな変化ではないです)」

さて、バカバカしいのか至ってマジメなのか、藤原氏にコンタクトを取り、直接お話を伺った。

   ◆   ◆   ◆

──「改造エフェクターコンテスト」は今回で3回目の開催でしたが、エントリーは初めてですか?

藤原健司:そうなんです。昔から見ていたんですけど、今回ちょっと参加してみようと思って初めて挑戦してみたって感じです。

──藤原さんは「エレキラボ」というサイトも運営されているんですよね?

藤原健司:はい。今年始めたばっかりなんですけど。

──今回のBARKS賞受賞が「エレキラボ」の信頼と品位を落とさなければいいんですけど(笑)。

藤原健司:そんな(笑)。それこそ自分の中で色々変化があって「エレキラボ」を始めたのも今年ですし、楽器に関しても、こういうものを作ったりしたいなとも思っているんです。

──今回の「MyRAT」という作品は、どういうアイディアからスタートしたものなんですか?

藤原健司:最初思いついたのは、美少女ゲームというか「ラブプラス」みたいな、女の子の親密度が上がってくにつれ音がエッチになっていくようなものを考えたんです。

──最高じゃないですか(笑)。

藤原健司:「改造エフェクターコンテスト」がぶっ飛んだコンテストだから、そういうぶっ飛んだアイディアがいいんだろうなと思って考え始めたんですね。ただ、画質的な品質を考えると締め切りまでにはどうしても間に合わないし、ちょっと難しい課題もいろいろあって、もうちょっとローファイな感じでできないかなと考えた時に、たまごっちを思い出したんです。それであれば低解像度でもいけるし、技術的にもコストも低いので、そこで挑戦してみたっていう形です。

──で、ちょうど手元にRATがあった?

藤原健司:そうです。RAT=ネズミだから、可愛いキャラとしてネズミがマッチするなと思って。

──その時点で、ある程度の仕様、アイディアは固まっていたんですか?

藤原健司:もともとRATの質感が好きなんですけど、ただ、もうちょっと歪まないRATが欲しくて。僕はどっちかというとジャズとかそっち系の演奏が好きで、知人のギタリストもそっち系の方が多いんですけど、その人達もすごい低い歪みレベルで使っている方が多いんです。それでちょうど「低歪みのRATを作ってみたいな」と思っていたところだったので、いわゆる普通のRATと低歪みのRATを切り替えられたらいいんじゃないかなっていう。

──実際は、起動時に赤か青かどちらかのネズミを選んで、時間とともに状態が変化するという作りになっていますが、この仕様に落ち着くまでにどんな試行錯誤が?

藤原健司:最終的には7日間電源を入れたらサングラスを装備できるようにする形に落ち着いたんですけど、本当は色々やろうと思っていて、弾いたトータル時間でコントロールしたり、歪み量が多いとネズミが喜ぶみたいなものとか。

──面白い。低歪みのRATが欲しいといいながら、歪みが多いと喜ぶだなんて(笑)。

藤原健司:そうですよね(笑)。弾いている音に対してネズミが何か反応するというものを作りたくて、そういう仕組みも回路としては取り込んでいるんですけど、プログラムを書くのが間に合わなくて。もっと言うと、今回のはほんとに試作なので、もう1段階作って綺麗な作品にしたかったです。音色的にもブラッシュアップしたいし、見た目もいかにもDIYなので、もうちょっと仕上げたかったなっていうところなんです。

──でも私は、足でガンガン踏むようなペダルに、踏んじゃダメなLEDを置いている時点で、最高にシュールでふざけ倒した名作だと思ったんです。だからBARKS賞なんですよ。

藤原健司:そうですね。「遊びベースで楽しく」というのがありますよね。実際、世の中にはものすごいたくさんのエフェクターがあって、どれもそんな大きな違いはないんじゃないかって思うこともあって、だからこそ、愛着が湧くとか使ってて楽しいとか、そういうものを作りたいなっていうのはあるんです。それこそ美少女ゲーム系エフェクターなんて思いっきりふざけてると思うんですけど。

──そのエフェクター、欲しい(笑)。

藤原健司:そうですよね。面白いなと思ってます。

──今回応募された「MyRAT」は、一週間使い続けるとネズミがサングラスをかけてくれますが、その時のサウンドを気に入った場合、もう電源は切るわけには行かない…んですよね?

藤原健司:そうなっちゃいます(笑)。だからちゃんと作ろうとしたら、1回手に入れた音はいつでも呼び出せるようにしとかないといけないですね。

──「MyRAT」の製作を通して、次に描いているアイディアや考えていることはありますか?

藤原健司:やっぱDIY感が強いので、ちゃんと使いたくなるようなデザインにしたいなと思ってます。ゆくゆくは販売もしたいですし、そういう方向で頑張りたいなと思ってます。

藤原健司氏

──まだまだエフェクターもアイディアの余地はいろいろありそうですね。

藤原健司:僕は普通にゲームを作るとかも好きなので、ゲームっぽいものがあったらいいなとは思っています。余談ですけど、スマブラみたいにキャラごとに音が決まってて、その選んだキャラで音が変わるのでも面白いですよね。

──確かに。スマブラにしてもマリオカートにしても、キャラが個性を持っていますからね。クッパとピーチ姫ではサウンドは全く違うでしょう(笑)。

藤原健司:僕もマルチエフェクターは使いますけど、技術が進展して使える音も多すぎて、もう把握しきれなくて。「使いたくなるもの」が欲しいですよね。

──次回の作品のエントリーも期待しております。ありがとうございました。

取材・文◎烏丸哲也(BARKS)

◆ギター・エフェクター・音技術の情報サイト エレキラボ
◆「改造エフェクターコンテスト2025」オフィシャルサイト
◆「改造エフェクターコンテスト2025」結果発表

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