【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vol.148「矢野まき、Billboard Liveでプレミアムな時を紡ぐ」

10月17日に神奈川・ビルボードライブ横浜で開催された『矢野まき Premium Live 2025 “Billboard Liveで歌うね”』。矢野まきが初めてBillboard Liveのステージに立つと発表されたときから、とても楽しみにしていました。会場の慣例通り2ステージが実施されたうちの1st stageを鑑賞しましたが、期待どおりの素晴らしい演奏で、あっという間に終わってしまったというのが第一の感想です。また1部と2部とでは異なるセットリストだったので、どちらも観た人は特別な矢野まきワールドを堪能できたことでしょう。

1st stageの幕開けは「大人と子供」。シックな黒のパンツスーツをまとった矢野とピアニストの浦清英が登場し、優しいピアノによって静寂は解かれ、しっとりと歌い上げてからニコッと見せた笑顔が場内を一気にリラックスムードへと変えました。「君の為に出来る事」を届けてから、「初めてのビルボードでのライブです。平日にもかかわらず来てくれてありがとう。タイトルに“Premium”とつけさせていただきました。『矢野まきといえば』というライブをお届けしたいと思います」と挨拶をしてメンバーを紹介。ギタリストであり夫の松岡モトキも登場して、3人編成でのライブがゆるやかにスタートしました。


「私の真ん中」「太陽」と、あたたかな歌声と3人のハーモニーを響かせた後に披露されたのは「夢を見ていた金魚」。2000年にリリースされた4thシングルのタイトル曲であり、アルバム『そばのかす』に収録されているゴリゴリのバンドサウンドが轟くナンバーを、ピアノとアコースティック・ギターのみながらアダルトな雰囲気を纏ったロック・ヴァージョンへと大胆にアレンジ。エッジの効いたギターがリズムを刻み、矢野の迫力ある歌声が覆うなかをピアノの音粒が泳ぎ回る金魚のようにうねる圧巻のパフォーマンス!これまで聴いた中でも最高にぶっ飛んだアレンジと仕上がりに、たいそう痺れました。



歌詞に出てきた“お祭り”についてのトークを挟んだ後にはカヴァーも届けられ、「この曲を最初に歌ったのは20年以上前のイベントで、自分と重なる部分が多くて大切にしてきた」というオフコースの「言葉にできない」もまたこの日のハイライトでした。本家の小田さん以外に歌える人が何人もいるとは到底思えないこの難曲を、艶やかなピアノ伴奏にのせて今にも泣き出しそうな情感溢れる歌で表現。続いて、壮大にして力強く、伸びやかに「タイムカプセルの丘」を届けると、類い稀なその歌力に涙ぐむ人もいて、観客からは惜しみない拍手が送られました。


ラストは、それまでの空気を一変させる軽やかなギターのリフで始まった「ただの私」。明るい世界が開かれた舞台ではギターとピアノの息がぴたりと合い、ブルースハーブも加わって、たった3人とは思えない音の厚みと深みのある演奏で盛り上げて本編が終了しました。そしてアンコールでは季節を感じさせる童謡「赤とんぼ」が披露され、神々しい歌声を支えるようにギターのアルペジオとピアノがドラマティックに彩り、いつもにはない新たな余韻を残して締めくくられました。

矢野まきの音世界とBillboard Live特有の雰囲気。この2つの相性はとても良く、居心地・聴き心地が共によい音空間でした。それを物語るような素敵な場面にも遭遇したので綴っておきましょう。
この日、隣のテーブルにはドレスアップした女性2人組が、おしゃべりを楽しみながら開演を待っていました。ライブが始まると長年のファンなのでしょう、新旧問わず、すべての楽曲で音に合わせて体を揺らしていた彼女たち。グラスが空くと互いにワインを注ぎ、MCに笑い、涙歌になるとハンカチで涙をぬぐい、グラスを傾けクイッと一口流し込んでからまた涙を拭ってステージを見つめる。そのひとときを音楽と友と共に嗜む姿は傍から見ていて魅力的でしたし、アーティストもファンも年を重ねてこそのライブの楽しみ方があるということを気づかせてくれたのでした。

次回はこの日のメンバーにチェロが加わるライブ<矢野まき Live “愛のしかた”>が12月26日に銀座王子ホールで開催されるとのこと。2025年の締めくくりに、素敵な時間を過ごしましょう。
文◎早乙女‘dorami’ゆうこ
写真◎青木こず恵
《SETLIST》
●1st stage
1.大人と子供
2.君の為に出来る事
3.私の真ん中
4.太陽
5.夢を見ていた金魚
6.言葉にできない(オフコース)カヴァー
7.タイムカプセルの丘
8.ただの私
En.赤とんぼ(童謡)
●2nd stage
1.君の為に出来る事
2.青空に浮かぶは白い月
3.ボクの空
4.私の真ん中
5.大きな翼
6.ひさしぶりだね、(川村結花)カヴァー
7.大人と子供
8.ただの私
En.星に願いを(映画「ピノキオ」)カヴァー
<矢野まき Live “愛のしかた”>
12月26日(金) 銀座 王子ホール
OPEN 18:15 / START 19:00
全席指定7,700円(税込)
お問合せソーゴー東京 03-3405-9999
矢野まきオフィシャルサイトhttp://yano-maki.com/







