【インタビュー】ACIDMAN、4年ぶり13thアルバム『光学』に凛然たる覚悟「本当に好きだと思うものを徹底的に」

■世界は美しくなってきていることを伝えるには
■とてもいいタイミングだという気はしています
──「輝けるもの」を作った時に、「ああいうある意味パンキッシュというか、衝動がストレートに出た曲は、もうやらないかもしれない」と大木さんはおっしゃっていましたが、ひょっとしたらアルバムには1曲ぐらい入るのかなと思っていたら、やっぱり入っていなくて。でも、その衝動というのが今回、ちょっと別の形で現れたのかなという気もしていて。たとえば、「蛍光」という曲なんですけど。
大木:おっしゃる通り、このアルバムの中でたぶん一番衝動的に作った楽曲ですね。
──激情エモなんて言ってみたい曲ですね。
大木:“パニック”って僕は呼んでます。電脳がシステムエラーを起こしたかのような、もうわけのわからない世界に入りこんじゃったみたいな曲をどうしてもやりたいってなっちゃって。目の前にボイスメモを置いて、ギターを弾いてたらそういう曲になってしまったっていう。作りながら、そこに飛び込んじゃったみたいな感覚がありました。
──もちろん、この曲もバンドで演奏しているんですよね?
大木:ドラムだけちょっとエフェクトを加えていますけど、3人だけの演奏です。
──ドラムはブラストビートと言ってもいい。
大木:ずっと同じフレーズなんだけど、「申し訳ない、でも、この曲にはこのドラムしかないんだ」って頼んでやってもらいました。見事に叩いてくれましたね。

──12月7日と20日に全曲披露ライブが予定されていますが、全曲披露と掲げているからには、もちろん「蛍光」もやるんですよね?
大木:やります。
──ドラムの浦山(一悟)さんはもちろん、ベースの佐藤(雅俊)さんも大木さんもみんな腕をつるんじゃないですか(笑)?
大木:何かそういう大会と言うか、そういう曲芸のような感じになったらいいですね。ドラムは特に大変だと思うので、とにかくがんばってほしい(笑)。
──さっき「バンドサウンドにテーマはなかったんですか」と聞いたのは、その「蛍光」をはじめ、今回のアルバムは紋切り型の言葉遣いで申し訳ないんですけど、シューゲイザー的な轟音をけっこういろいろな曲で使っているという印象があったからなんです。
大木:確かに。
──そこがある意味メロウだった前作とはまた違う衝動の発露にも思えたのですが。
大木:「青い風」とか「龍」とか、あとは「あらゆるもの」とか。ああいう轟音のアウトロが昔から大好きで。だけど、やりすぎると、飽きられちゃうなと思って、控えることがあるんですけど、今回は控えなかったってことですね。やりたいようにやりたかったんです。轟音にまみれながらずっと繰り返しループしていると、ライブでもそうなんですけど、トリップ感があって、すごく気持ちいいんです。
──控えるのをやめて、やりたいようにやろうと思ったきっかけがあったんですか?
大木:特にきっかけっていうのはなかったけど、いつも自問自答しているんです。いろいろな人に聴いてもらいたい。それこそ世界中の人に聴いてもらいたいと思いながら、“だからと言って、自分がやりたくないことで売れたら、逆にそれは地獄だ。自分を誤解されたまま、世に広まってしまうのは辛い。そんなことは絶対したくない。ということは、やりたいこと、好きな音で勝負するしかない”……ということを昔から自問自答しているんですけど、今回はその覚悟が明確にあったと言ったらいいのかな。もうやるしかないっていうか、好きなものをやることが僕らの仕事だから、それをやらないのは逆に聴いてくれる人に失礼だなと思うんです。だから、自分が本当に好きだと思うものを徹底的にやる。変に、“ここでこんなことをしたら、誰も聴かないだろうからやめよう”ってやってしまうと、小手先の音楽になってつまらなくなっちゃうって感じでした。
──そういうところが今回、聴きどころになっていると思うのですが、「龍」のアンビエントなサウンドとか、「青い風」のちょっとマスロックっぽい展開とか、前作よりもオルタナティヴな感性がより出ているという印象もありました。
大木:シガー・ロスというバンドが大好きで。シガー・ロスが好きだから、そういう曲をやったわけではなくて、そういう曲が好きだから、シガー・ロスが好きなんですけど、彼らのライブを見ると羨ましくてたまらないんです。きっかけで言ったら、それもあるかもしれないですね。
──その一方では、ゴスペルにアプローチした「feel every love」のようなピースフルな曲もあって。
大木:この曲も9年前だったんです、作ったのは。
──9年前⁉
大木:ええ。最初にこの曲を作った時のボイスメモの日付を見たら、9年前でした。自分で弾いたピアノと打ち込んだドラムをループさせて、ギターを弾きながら歌ったんですけど、そのデモがめちゃくちゃ良くて。いつか発表したいけど、バンドサウンドではないし、打ち込みだし、基本的にはピアノの感じだからギターも後ろで鳴っているだけだし、R&Bの要素もあるし。で、サビはゴスペルにしたいと思っていて、どうしたらいいんだろう?ってずっと悩んでいて、ソロでやるならありだなって思いながら、結局、9年間やらなかった。ということは、この曲は一生、日の目を見ないなと思ったんですけど、それはやっぱりイヤだったから、ACIDMANでやってみようって。それで最初の打ち込みの雰囲気からロックとまで行かないけど、ベースとドラムの出番をちゃんと作って、形にしてみたら、意外とできるなって、今回入れることができました。
──三浦大知さんやBTSに楽曲を提供しているプロデューサー/ソングライター/コンポーザー/アレンジャーのUTAさんがアレンジャーとして参加されています。
大木:そうそう。ゴスペルのクワイアの方に指示するっていっても、僕は譜面が書けないからどうしよう、ってなったとき、うちのディレクターが「ゴスペルのアレンジが得意な人がいるよ」って紹介してくれたんです。ゴスペルのクワイアのハーモニーって実はすごいんですよ。めちゃくちゃ難しいことをやっているんですけど、UTAさんにお願いしたら、ものすごくこだわってアレンジしてくれて。クワイアの方たちのレコーディングもめちゃくちゃ素晴らしくて、もうこれは本当にひとりでも多くの人に聴いてもらうべき楽曲だと思ったし、日本人だけじゃなくて、世界中の人に口ずさんでもらって、世界を平和にするための曲だなって。本当にそう思える素晴らしい曲になったと思うし、素晴らしい音が録れましたね。
──メッセージ的にもタイムリーで。
大木:それはたまたまではあるんですけど。この曲を出そうと思った3年前とか4年前とかは、まだ今ほど世界情勢は不安定ではなかったと思うんです。ただ、ここで間違えてはいけないのは、戦争が起きるかもってみんな思い始めているけど、その集団心理が戦争を起こさせると僕は思っていて。だから、僕らは戦争なんてもう起きないって思わなきゃいけない。実のところ、第1次世界大戦とか第2次世界大戦の頃から比べると、戦争の数って桁が違うくらい少なくなっている。だけど、日々、報道を通して、戦争のことを見たり、想像したりすると、もしかしたらってよけいな心配をしてしまう。それが戦争を呼び起こす可能性があるんです。
──なるほど。
大木:だから、もっと冷静に、戦争は少なくなってきている、あとちょっとで世界中で戦争が終わるかもしれないんだって考えなきゃいけない。そこで不安要素やネガティヴな報道に負けてしまうと、危ないことが起きるという危機感はちょっとあって。なので、冷静に、戦争が終わってきている、世界は美しくなってきているんだということを伝えるには、とてもいいタイミングだという気はしています。
──戦争が起こるかもしれないって不安が戦争を起こさせるという考えは目から鱗でした。
大木:人間ってみんなそうじゃないですか。誰かが銃を持ったら、怖いから自分も持ちたいってなってしまう。そうやって、どんどん過激になっていってしまうだけだから、まずは銃を手放す勇気を持つということが大事なんです。そのためには愛をもっと感じること。

──そういう思いが「feel every love」には込められている、と。
大木:今まで出会ってきた人の中で、悪だなと思った人は、僕、ひとりもいないんです。悪い人だなとか、イヤな奴だなと思う人もいたりするけど、たとえば昔の戦隊ヒーローもので見たような悪とか、歴史で学んできた、もう狂っているとしか思えないような人とかに出会ったことはないし。
──確かに。
大木:同じ人間として生まれてきた以上、そんな人はいないんです、きっと。どこかの誰かが想像して、勝手に悪にして、恐れて、攻撃しているだけのような気がします。目を覚まして、もっと冷静にっていうのが世界平和の第一歩。「feel every love」が愛をもっと伝えて、愛を信じて、世界中がひとつになるための一歩と言うか、一滴の力になればなと思います。







