【ライブレポート】Sable Hills主催のメタルフェス<FRONTLINE FESTIVAL 2025>「メタルが輝く瞬間が日本にもっとあったら」

三度目の正直と言うべきだろう。Sable Hills主催のメタルフェス<FRONTLINE FESTIVAL 2025>が今年3回目を迎え、川崎クラブチッタにて初のソールドアウトを果たした。
毎回メタルを軸にバラエティに富むメンツで認知されてきた同フェスだが、今年も強力なラインナップが勢揃い。“ここ日本にメタルカルチャーを根付かせるんだ!”という主催者・Sable Hillsの情熱が全バンドに伝わり、それに応える出演バンドの気迫が観客に伝染した結果だろう。筆者も過去2回参戦したが、間違いなく過去最高の盛り上がりを記録したと言っても過言ではなかった。
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◼︎View From The Soyuz

開演12時、「朝イチから遠慮するなよ!」と檄を飛ばし、トップバッターを務めたのはView From The Soyuzである。「Tence Atmosphere」から獰猛なデス声を放ち、ミドルテンポで重厚に攻める。SLAYER風の邪悪なギターが追い打ちをかけ、会場前方では早くもサークルモッシュが勃発。


「At The Cape…」を挟み、「Blackened Sun」では大阪のビートダウンハードコアバンド・UNHOLY11のGKT(Vo)が飛び入り参加。すると、2ステップで踊り出す観客も増えていった。「昼間からパンパンでテンション上がります! 一つの肉塊になって!」と叫び、「Black Roses」でフロアを激しく掻き回す。ライブ後半、楽器トラブルで一時中断する場面もあったが、戦闘力マシマシのハードコアで観客の意識を吹き飛ばした。


写真◎Kazuki Takahashi
セットリスト
01.Tense Atmosphere
02.At The Cape…
03.Blackened Sun (feat. GKT from UNHOLY11)
04.Black Roses
05.Frozen Black
06.Ättestupa
◼︎HIKAGE

「FRONTLINE始めようか? ジャンプ!ジャンプ!」と煽ると、二番手はHIKAGEが登場。1曲目「F.P.P」から観客は飛び跳ね、ウォー!ウォー!の合唱パートでシンガロングを促す。


「メタルの祭典だけど、4D代表(*Earthists.、HIKAGE、PROMPTS、Sable Hillsの4組が顔を揃え、新たなムーヴメントを起こすべく集結した『4TH DIMENSION』の略)として」と言い放ち、「YAIBA」へ。キャッチーなコーラスを配した曲調でライブ初見の人をも巻き込んでいった。


次の「shadow」ではハードロック、グランジを通過したダイナミックな演奏を叩きつけ、直情気味のハードコア「傷」に繋ぎ、振れ幅のある楽曲で観客を手玉に取っていく。「わりとポップ寄り」と告げて「Happy」に入ると、観客が手を左右に振るピースフルな光景を作り、ラストは「SiCK」でビシッと締め括った。何でもアリのミクスチャー路線を走りながら、キャッチーな歌/メロディで惹きつける手腕はさすがの一言だ。
写真◎oct osawa
セットリスト
01.F.P.P
02.Before Sunrise
03.YAIBA
04.shadow
05.傷
06.Happy
07.SiCK
◼︎MIRRORS

ひらすらヘヴィに沈み込む演奏で強烈なインパクトをもたらしたのはMIRRORSである。彼らは東京で活動するデスコアバンドで、ミドルテンポの曲を軸に聴く者の中毒性を誘う。気づけばフロアど真ん中で暴れ回る猛者もいて、活気付くばかりだ。


ツインギター編成でドゥームばりの重低音で迫る音像も刺激性に富んでいる。今年出た新曲「Ominous Discomfort」、「Merciless Cold」もセットリストに織り込み、スロー〜ファストと緩急を付けた曲展開も良かった。ライブ全体を通して、暗黒デスコア/ドゥームサウンドで観客を蟻地獄に引きずり込むアプローチは強烈無比。今回のラインナップの中でも異色の存在感を発揮していた。


写真◎Leo Kosaka
セットリスト
01.Malevolence
02.Megalomania
03.Ominous Discomfort
04.Idolatry
05.Merciless Cold
06.Hypocrisy
◼︎DEVILOOF

DEVILOOFは1曲目「拷訊惨獄」からウォールオブデスを作り上げ、ブレイクダウンパートでは観客を騒乱状態に導く。「飛んで来い!」と叫び、次の「Newspeak」では凄まじいサークルモッシュが生まれていた。


「女いるか? 黄色の声援が聞きてぇ」という煽りを入れ、「個人的に川崎は初めてです。スペインのフェスではすごくでかいサークルピットができた。行けるでしょ、川崎?」と呼びかけ、「Natural Born Killer」をプレイ。メロデス風味のギターが牙を剥き、スリリングな高揚感を刺激する。


また、曲中に「ジャンプ!」と煽り続け、観客を片時も休ませない。続いて、和の妖しさを突きつける「因習」もとんでもない盛り上がりを記録。「今日で僕、川崎大好きになりました」と桂祐(Vo)を感想を漏らすほど、会場を活気づけた。
写真◎Leo Kosaka
セットリスト
01.拷訊惨獄
02.Newspeak
03.Natural Born Killer
04.因習
05.False Self
06.Ruin
◼︎花冷え。

本フェスの折り返し地点、5組目に出たのは今日唯一のガールズバンド、花冷え。だ。新世代のラウド/ミクスチャーシーンを牽引し、海外フェス/ツアーも精力的に回る彼女たち。派手な衣装に身を包み、メンバー4人がクラップで場を温めた後、疾走感溢れる「TOUSOU」でスタート。ウォールオブデスやヘドバンなど初っ端からフロアを掻き回す。


2曲目「GAMBLER」を演奏後、「Sable Hillsありがとうございます。感謝とリスペクトを込めて、メタルもりもりで!」と告げ、次は「メタ盛るフォーゼ」を披露。ユキナ(Vo)とマツリ(G, Vo)のツインボーカルのコンビネーションもさることながら、サビの破壊力も抜群でクラウドサーフは止まらない。


それから「Spicy Queen」、「我甘党」と畳みかけ、アンセム曲「お先に失礼します。」を投下。最後は天を仰ぐように怒号シャウトを決めるユキナの姿に見惚れてしまう。以前と比べものにならないほど、ライブスキルを高めた剛腕パフォーマンスに悶絶するばかりであった。
写真◎YUYA KOIZUMI
セットリスト
01.TOUSOU
02.GAMBLER
03.メタ盛るフォーゼ
04.Spicy Queen
05.我甘党
06.お先に失礼します。
◼︎Oceans Ate Alaska

そして、本フェスに欠かせない海外バンド枠の1組目はOceans Ate Alaskaだ。イギリス出身の彼らは昨年にジョエル・ヘイウッド(Vo)が加入し、2018年に初来日しているものの、現体制では初のステージとなった。


機材トラブルがあり、出演時間が遅れたものの、「Metamorph」でライブ開始。テクニカルなメタルコアでファンの心を奪い、「Paradigm」では起伏溢れるサウンドで魅了。


「Endless Hollow」に入ると、ジェント系のヘヴィなリズムで体を揺さぶってくる。注目のジョエルのボーカルに関してはスクリーム/クリーンと1曲の中で瞬時に声色を使い分け、まだまだ大きな伸びしろがあるように感じた。マッチョなビジュアルもフロントマンに相応しい貫禄を備えている。翌日の単独公演も観に行ったが、大盛況だったことを付記しておく。
写真◎Leo Kosaka
セットリスト
01.Metamorph
02.Paradigm
03.Endless Hollow
04.Covert
05.Hansha
06.New Dawn
07.Nova
08.Onsra
◼︎Knosis

海外勢に挟まれる形となったKnosisは「GENKNOSIS」から異形のヘヴィミュージックで会場を制圧。展開がユニークな「神門」に繋ぐと、「星砕」では「回れー!」と号令をかけ、巨大なサークルピットが広がる。とにかく、フィジカルを揺さぶるパワフルな音像がたまらない。



また、既存のジャンルを突き抜けたオリジナリティも刮目すべき点だろう。RYO(Vo)はフロア最前で観客と顔を突き合わせてシャウトしたりと、フロントマンとしてのアジテーターぶりも文句ナシ。オレに付いて来い!と言わんばかりの破格のカリスマ性でフロアを蹂躙する。「残り2曲!」と言った後、「腐敗」では花冷え。のユキナ(Vo)をゲストに迎え、両者のシャウト合戦で観客を狂喜乱舞させた。

写真◎Takashi Konuma
セットリスト
1.GENKNOSIS
2.神門
3.星砕
4.奈落
5.忌鬼
7.毒沼
8.腐敗
9.厄災
◼︎Darkest Hour

海外バンド2組目でトリ前を飾ったのはDarkest Hourだ。Sable Hillsの音楽にも影響を与えたバンドであり、彼らがトリ前を務めるのは必然と言えるだろう。いきなり「With a Thousand Words To Say but one」を見舞い、ファンを昇天。


間髪入れずに「The Sadist Nation」でさらに攻撃力を高め、盤石のステージングを魅せつける。メロデス、メタルコア、ハードコアの要素を散りばめ、アグレッシヴの中に叙情メロディが降り注ぐ曲調に興奮せずにはいられない。


「ビッグ・サークルピット!」と叫び、「Convalescene」に移ると、高速サークルピットがフロアに出来上がる。続いて「Rapture In Exile」、「A Paradox With Flies」、「Demon(s)」と個性際立つ楽曲を放ち、会場はDarkest Hour色に完全に染められていった。最終曲「Tranquil」では見知らぬ客同士が肩を組んでヘドバンする光景も見られた。さらに曲のアウトロは楽器陣だけ残り、激情と哀愁入り混じるインストパートで締める流れもかっこ良かった。
写真◎Leo Kosaka
セットリスト
01.With a Thousand Words To Say but one
02.The Sadist Nation
03.Convalescence
04.Rapture In Exile
05.A Paradox With Flies
06.Demon(s)
07.Sound The Surrender
08.Goddess Of War
09.Tranquil
◼︎Sable Hills

19時4分、遂にトリのSable Hillsの出番がやって来た。Takuya(Vo)、Rict(G)、Wataru(G, Vo)、UEDA(B)のメンバー4人がお立ち台に立ち、ステージからスモークが噴き出すと、1曲目は「Battle Cry」で戦闘開始。ド頭から気迫十分で、本フェスにかける思いがヒシヒシと伝わってきた。特にTakuyaはフロントマンたる気概に満ち溢れ、彼が扇風機ヘドバンするだけで場が沸騰する有様だ。
次の「Crisis」ではこの日一番でかいサークルモッシュを作り、「全員、拳を上げろ!」と扇動して会場を一つに束ねた。それから「飛んで来い!」と煽ると、「No Turning Back」へ。Wataruのクリーンボーカルが先陣を切り、キャッチーなメロディで観客を掌握する。


「気づけば、今年FRONTLINE FESTIVALも第3回目です。みんなのおかげで無事に集客も増えて、今日はソールドアウトと言っていいんですかね? 当日券にて無事3回目にしてクラブチッタ、ソールドしました!」とTakuya。そして、この日のために新曲を作ったと述べ、「Godforsaken」をプレイ。DARKEST HOURのジョン・ヘイリー(Vo)を迎えた曲をここで初共演。Sable Hillsの中では正統派と言える直球のメタルコアだが、Takuyaとジョンのスクリームが混ざり合うと、鬼に金棒状態と化す。新たな名曲誕生に会場は沸き上がる。「A New Chapter」、「Anthem」と演奏後、後半に向けて少し長めのMCを挟む。


「メタルが輝く瞬間が日本にもっとあったらいいなと思い…俺らはこれからもFRONTLINE FESTIVALを続けるので遊びに来てください。初めたときは俺たちがメタルフェスを作り上げられるのか、すごく不安になったけど…Sable Hillsを通してメタルの素晴らしさ、メタルの大切さを伝えてきたつもりです。メタルじゃ絶対に無理だといろんな人に言われたけど、俺はメタルしかやれないからこのまま行くしかない。自分の好きなものを続けて、自分の好きなメタルカルチャーをFRONTLINE FESTIVALで作り上げて、たくさんの人に共感してもらえています。今年はラウドパーク2025にも立つことができたりして、ロックフェスにメタルバンドとして呼んでもたえたりとか…自分はメタルが好きという気持ちを大切にして続けていれば夢は叶います!」とTakuyaは熱く語ってくれた。

後半は「The Eve」、「Odyssey」を経て、「Tokyo」を披露。ギターヒーロー・Rictの哀愁フレーズを合図に屈強なメタルコアを放出。和を感じさせる間奏もライブで一段と際立ち、クラウドサーフは止まる気配はない。残り1曲となり、Sable Hillsはまもなく結成10周年を迎えることになり、2026年1月8日・渋谷Spotify O-WESTにて10周年ワンマンライブを行うことを発表。その告知後に、初期曲「The Chosen One」を最後に解き放ち、大団円を結んだ。これにて約8時間に及ぶフェスは無事に閉幕。
写真◎Leo Kosaka
セットリスト
1.Battle Cry
2.Crisis
3.No Turning Back
4.Godforsaken
5.A New Chapter
6.Anthem
7.The Eve
8.Odyssey
9.Tokyo
10.The Chosen One
日本では珍しい骨太なメタルコアでメキメキと頭角を現し、自身主催のフェスも大成功に収めたSable Hills。メタルの未来を担う彼らが着実に階段を上り、ソールドアウトという一つの結果を残した功績はとてつもなく大きい。
そして何よりもSable Hills自身が他を寄せ付けないオーラを持ち、威風堂々たるステージングを見せくれたことも大きな収穫である。メタルカルチャーを背負い、ここ日本で開拓し続ける彼らの姿勢に改めてリスペクトを送りたい。今年、さらに2026年も、Sable Hillsは大暴れしてくれることだろう。そう確信できるエポックメイキングな一夜であった。
取材・文◎荒金良介






