【インタビュー】鳥羽一郎、1070曲一挙配信&新曲「昭和のおとこ」発売「聴いてもらえなかった曲、歌えなかった曲にも改めてチャンスを」

2025.09.29 12:30

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◾︎歌のパワーを俺は何度もこの目で見てきました

──そんな鳥羽さんですが、10月1日に新曲「昭和のおとこ」(先行配信中)をリリースします。鳥羽さんらしいド真ん中の演歌という印象です。

鳥羽一郎:そうですね。

──「昭和のおとこ」に関しては、鳥羽さんから何か要望を伝えるなどありましたか?

鳥羽一郎:いえ、僕の場合は作詞・作曲の先生方からいただいた曲を、心を込めて歌わせていただくというスタイルで40何年とやってきました。だから自分から「これがいい」とか「あれがいい」と言ったことがなくて。まあ、多少はありますけど(笑)、ほぼディレクターにお任せしています。僕の場合は、そのほうがいいみたいで。

──今回の楽曲を歌って、いかがでしたか?

鳥羽一郎:なんて言うか、奇をてらっていないところがいいね。王道って言うか。時代がどんなに変わろうとも。昭和のおとこって言うと、頑固で武骨者な、取っつきにくいイメージがあるじゃないですか。それでも昔のままで生きて行く、そんな歌でしょう。

──もう1曲「おふくろ月夜」も収録しています。

鳥羽一郎:とても優しい歌です。生意気なことを言わせていただくと、自分としては本当はこっちのほうがいいなって(笑)。「こっちのほうをたくさん歌いたい」と、スタッフに少し話したんだけど、あくまでもシングルの表題曲は「昭和のおとこ」だからということで。

──「姐(あね)さんかぶりの 手ぬぐいに」というフレーズがあって。いわゆる昭和の“おふくろさん”のイメージですね。

鳥羽一郎:俺のおふくろも、まさしくそういう格好をしていましたよ。割烹着を着て頭に手ぬぐいをかぶった写真が、たくさん残っています。だからこの曲を聴いて、最初に浮かんだのは自分のおふくろのこと。思い出がたくさん浮かんできました。だからこの曲を聴くことが、自分の母親のことを思ったり思い出したりする機会になったらいいなと思います。

──この曲は「母親」ですが、鳥羽さんの楽曲には「兄弟」や「親子」、「親友」など大切な関係性や絆を歌った、普遍的なテーマが多いです。

鳥羽一郎:そうですね。「カサブランカ・グッバイ」みたいな歌は少し違うけど、そういうイメージが固まっていますね。でも普遍的な歌であるからこそ、こうして43年経っても古くならずに歌い続けてこられたのだと思います。それはディレクターの手腕で、作曲家さんに曲を作ってもらうとき、きっと毎回そういうオファーもしているのだと思います。それでおのずと、そういう歌が増えていったのかと。

──ちょっと話は変わりますが、鳥羽さんは普段どんな音楽を聴いているのですか?

鳥羽一郎:うちにでかいジュークボックスがあって。ROCK-OLAというアメリカのメーカーで、昔の映画でも酒場のシーンによく出てくるやつのレプリカ。レコード盤がセットされていたところにCDをセットして、昔のやつと同じように動くんです。100曲セットすることができて、もちろん自分の歌も入れてあるんですけど、結局自分の曲はほとんど聴かないですね。たまに聴いても「下手だな」って思って嫌になって、すぐに曲を変えちゃうんです。それで今よく聴いているのは、ハワイアンの曲で、冬になるとアルゼンチン・タンゴを聴くし、スペインの民謡とかも。あとは、ザ・ビートルズなんかもたまに聴いたりしますよ。北島三郎さんとか演歌のいろんな方の曲もいっぱい入っているから、そういう曲を聴くときもあります。自分の歌は、しいて言えば『時代の歌』シリーズの曲をたまに聴いたりするくらいかな。

──鳥羽さんは昭和のおとこの代表ですけど、配信やサブスクを利用されたことはありますか?

鳥羽一郎:もうね、完全に乗り遅れていますよ(笑)。特にインターネット。でも、映画は観ますよ。ただそれも良し悪しで、夢中になってずっと観ちゃう。次から次へと出てくるから。おかげで寝不足になっちゃって。

──でも全曲配信されることで、鳥羽さんの楽曲を知らなかった若い世代の耳に触れる機会が増えますよね。

鳥羽一郎:そもそも若い人は、俺の曲なんか知らないから、検索をしようがないんじゃない?

──自分が検索しなくても、登録している人が検索していればタイムラインで流れて来たりするんです。

鳥羽一郎:そうなの! 要するに、そういうところでまた新たに火が付くこともあるということなのか。そういう意味で言うなら、ぜひ聴いてほしい曲があって。「マルセイユの雨」(11年)という曲なんだけど、レコーディングしただけでほとんど人前で歌ったことがないの。と言うのも震災があってすぐのリリースで、「港に待たせた船は 夜の8時に出る」といった歌い出しで、津波で船が陸に流されてしまった情景を思い出してしまう人がいるからと、震災の翌週に番組で歌う予定だったんだけど、テレビ局のほうからストップがかかったんです。「兄弟船」もダメで、そのときは海や船がまったく出てこない歌に変更された。でも避難所にお見舞いに行くと、皆さん「そんなこと言わずに『兄弟船』を歌ってよ!」と言ってくれて、その時はちょっと複雑な気持ちだったね。そういうタイミングの悪さで、歌いたくても歌えなかった、みんなに聴いてもらえなかった歌がいっぱいあるんです。

鳥羽一郎:「親子船」(03年)という曲もそう。その時は、東京湾で海難事故があって、レコード会社から歌うのは自粛しようと。そういう曲もこうして配信で聴けるようになったわけだから、ぜひこの機会に聴いてほしいです。「夜霧の運河」という曲が、これがまた素敵な歌なの。もし何かのきっかけでこの曲を聴いて、「いい歌だな」と思ってもらえたら、ぜひいろんな人にオススメしてほしい。そうしたらまた、日の目を見るかもしれない。例えばそういう歌を、「こういうことがあってオヤジが歌えなかった歌なんだけど……」っていうエピソードも込みで、徹二(鳥羽の次男。木村徹二として歌手活動)が歌ってもいいし、誰か歌いたい人がいれば歌っていい。TikTokだっけ?そういうこともできるわけでしょ? もう何十年も前の歌でも、改めていい曲だなと思ったら、どんどん使ってほしいです。

──鳥羽さんの思いとしては、自分が歌うとか歌わないとかに関係なく、楽曲そのものに一度でも日の目が当たってほしい、楽曲が後世に残っていくことが望みであるという。

鳥羽一郎:そういうことです。船村先生が「歌供養」ということをやっていてね。今はカップリング曲と言うけど、昔はA面B面と呼んでいて、作曲している先生にとってはA面もB面もなく書いているわけで、リリースの際にB面やカップリングになって聴いてもらえない、歌ってもらえない曲がたくさんあって、それを供養しようと始めた。作詞家、作曲家、歌手が参列して献花をし、実際にお坊さんを呼んでお経を唱えてもらって。船村先生が亡くなるときまで、32年やっていらしたんです。昔は「針供養」とか大事に使っていた物を供養する習慣があって、それなら歌も供養していいじゃないかと。「兄弟船」のB面の「羅針盤」とか、俺の歌もたくさん供養していただきました(笑)。

──今回の全曲配信というのは、それこそA面、B面、カップリングに関係なく、どの曲も同じ条件で平等に配信されるわけですから、これもある意味で「供養」と言えるかもしれませんね。

鳥羽一郎:確かにそうですね。かたちは変われど、船村先生がやられていたことと、根底にある気持ちは同じです。タイミングの問題などで聴いてもらえなかった曲、歌えなかった曲に、改めてチャンスを与えるという意味では、確かに供養だと言えます。

──そう考えるとインターネットもいいもんですよね?

鳥羽一郎:さっき良し悪しなんて言っちゃったけど、いいもんだね(笑)!

──鳥羽さんはデビュー43年。今後も50周年、60周年に向けても頑張っていただきたいのですが、今後の展望とかありますか?

鳥羽一郎:あと何年歌えるかわからないけど、酒もタバコもやめてからは、ずいぶん喉が良くなったよ。喉の疲れ方が全然違う。10周年の時に自分のベストアルバムを聴いて「下手くそだな」とすごく残念に思ったんだけど、最大の原因は酒とタバコだから、もう一回録り直したいという気持ちがずっとあるんです。ある意味で心残りと言ってもいい。もし展望があるとしたら、それです。あとは気持ちをどれだけ持続させられるか。不思議なもので「まだまだ若いやつには負けない」と思っているうちは大丈夫でも、「もう年だから」と言うようになるとドンドン衰えてしまうんです。うちの弟(山川豊)も肺がんで活動休止してたけど、気持ちまで病気になってしまわないように、無理をさせない程度に歌わせるようにしています。歌を歌っているときは、病気であることを忘れることができる。本当に不思議だけど、そういう歌のパワーを俺は何度もこの目で見てきました。

田端義夫さんの生前、大阪公演を観に行ったんだけど、手土産を持って楽屋へ挨拶に行ったら、帯状疱疹で体中が痛くて寝込んでいたんです。俺も手伝って何とか衣装を着させてステージ袖まで連れて行き、いざギターを背負ってステージに出たら1時間みっちり、まさか誰も帯状疱疹だなんて思わないほどのステージをやり遂げていました。歌っているときは、夢中で痛みを忘れていたそうです。翌日からすぐ入院。それくらいの状態なのに、歌っているときはそれを微塵も感じさせなかった。あれは本当に不思議でした。歌とか音楽には、そういう力があるんです。歌手にとっては、ステージに立って歌い続けることが、一番の健康法なのかもしれないですね。皆さんも配信で、たくさん俺の歌を聴いて歌ってくれたらうれしいです。俺も1日でも長くステージで歌っていられるように頑張りますので!

取材・文◎榑林史章
写真◎三上信

◆鳥羽一郎 各音楽配信サイト:https://lnk.to/tobaichiro

シングル「昭和のおとこ」
2025年10月1日(水)発売
各配信サイト:https://lnk.to/syouwanootoko
品番:CRCN-8788 / 定価:¥1,500(税抜価格 ¥1,364)

【収録曲】
1.昭和のおとこ
作詩:かず翼 / 作曲:徳久広司 / 編曲:南郷達也
2.おふくろ月夜
作詩:さくらちさと / 作曲:徳久広司 / 編曲:南郷達也
3.昭和のおとこ (オリジナル・カラオケ)
4.おふくろ月夜 (オリジナル・カラオケ)

◆鳥羽一郎 オフィシャルサイト

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