【ライブレポート】マザリ、五大都市単独巡礼完遂<禁呪〜別ノ生キ物ニ変ワルマデ〜>

マザリ<五大都市単独巡礼『禁呪〜別ノ生キ物ニ変ワルマデ〜』>が7月22日、新宿ReNYでファイナルを迎えた。
不穏なSEがけたたましく鳴り響き、幕が開く。後方には「禁呪」の文字が飾られ、シャーマニズムのシンボル、コウモリとトナカイの骨が吊るされているステージ。中央には新衣装を纏った臨戦体制の6人が構えていた。禍々しいサウンドをバックに、死ヰメロアンチが呪文のようにメロディを発すると、その声をかき消すように蛇喰ホムラの邪悪なシャウトが轟いた。

ツアータイトルと同じ「禁呪」と題された新曲の初披露でライブはスタートする。土着的な和のいななきが響き、怒涛のようにヘヴィなサウンドとブラストビートが猛り狂う曲だ。どこか明るい響きのするサビのメロディも印象的。激しさのなかに侘び寂びの情緒が見え隠れする。そのままアッパーなデジタルビートに乗せて「お慕い申し上げます」へ。米粉パンが暗い響きを持った声色を振るわせれば、メロがあっけらかんとした声で返す。髄狂アクは冷淡な表情で、朽壊レムは狂気の眼光で襲ってくる。凶暴性と猟奇性を重ねながら間髪入れずに「愛×食欲」に傾れこんだ。真鬼マナセがニヒルにフロアの熱を掴んでいく。

メンバーの心臓ウリンが急逝したのは今年2月、前ツアー<白装束ト藁人形>最中のことだった。しかしマザリは止まることなく、彼女の声と衣装とともにツアーを“7人”で完走した。そして6月。本ツアー中に今度は“6人”でのパフォーマンスに移行することを発表した。この先も7人であることに変わりはないが、グループがより大きくなっていくために、より多くの人へ知ってもらうための決断だった。奇数から偶数へのフォーメーション変化、そして歌パートの変化によって、6人それぞれの個性がこれまで以上に際立つようになった。尤も、各々の成長が大きいことは言うまでもあるまい。

それぞれ自己紹介を挟み、「まだまだやれるよな!」とマナセが叫ぶ。ヘヴィネスなバンドサウンドと共に禍々しい恐怖の旋律がじわりじわりと聴き手を侵食する「御呪い」。細やかな表情を持つ歌声で魅せるパン、粘っこく執拗な呪いをメロディに乗せるレム……。「御呪い」はマザリ始動に先駆けての最初期曲ゆえに、音源とライブの差がよくわかる。ライブで聴く同曲は6人それぞれのボーカルの色が不気味なほどに際立っている。

そしてホムラの「クラップ!!」というシャウトに導かれ、フロアからのクラップがマザリの恨み節を誘う「一緒に死ぬ序でに愛して欲しい」だ。泣きの歌メロディと咽ぶようなギターソロが絡み、ブレイクダウンではフロアと一体化するヘッドバンキングが起こる。マザリの真骨頂というべきダークネスな世界が会場を覆った。

陽気と妖気が錯綜する「遺骸奇譚座」。悪戯なメロの動きと精悍なマナセの佇まいのコントラスト。6人の曲芸師のごとき滑稽な動きが奇奇怪怪な陰影を色濃くすると、不穏が暴走する「こっくりさん」へ突入。オケであるにも関わらず激昂するビートがオーディエンスを襲う。これは紛れもなく6人が繰り出しているグルーヴによるものだ。音源よりもBPMすら早く感じる鬼気迫る緊迫感。息を吐くようにシャウトするホムラ。グロウルやシャウトなど、スクリームするアイドルも珍しくはないが、喉にディストーションを掛けるようなフライスクリームをここまで巧みに操れる者など、そうは居ない。そのエッジ感も獣のような声量もアイドルシーンのみならず、日本屈指の女性スクリーマーと言っても過言ではないだろう。そんなホムラによるクリーンからスクリームに変貌する絶望への歌い出しで始まる「丑の刻参り」。「私たちと一緒に盛大に呪い混ざり合って行こうかぁぁー!」とさらに吠える。6人の五寸釘が虚空を貫いた。

ザクザクとした怒涛のメタルコアサウンドと6人の陰惨な咆哮が猛り狂う「人形-ヒトガタ-」は、ダンサブルなビートに引き継がれ「メンタルリストカット」へ。負の感情のエネルギーをありったけ叩きつけるような6人のエネルギーがフロアを襲い、会場を揺らした。
本編ラストは「混ざり」。これまでのダークで陰鬱な世界から救うように、優しい歌声が清らかなメロディをなぞりながら昇華していった。
鳴り止まぬアンコールのなか、ステージ前方にスクリーンが下ろされた。
アナログEAS(緊急警報放送)風の動画で、深夜公演ツアーと1周年のバンドセットライブが告知されると、どよめきと歓声が起こった。怪談師を迎えた深夜スタートのライブなど、マザリ以外できるものではないし、バンドセットライブは誰もが待ち望んだもの。メタリックでヘヴィなギター&ベースはもちろんのこと、ドラムも生にこだわってきた音源がライブで生演奏されるのだから、期待しかない。
再びステージに登場したメンバーは1人ずつ挨拶する。
「私はステージ上に立つと言葉が出てこないタイプなんですけど……」とアク。たくさんの人が来てくれた初めてのツアー、それよりもたくさんの人が来てくれたこと、最初からずっと居てくれている人、最近知ってくれた人、「たくさんの顔が見れて幸せです」とフロアの1人ひとりを見つめていくように語った。ホムラはマザリ初の五大都市ツアーということで、初めてワンマンを行った福岡や北海道でもあたたかく迎えてくれて嬉しかったといい、今日も「他の県から来てくれている人もいて、本当にありがとうございます」と礼を述べた。そしてツアータイトル『別ノ生キ物ニ変ワルマデ』にかけて「私はキツネみたいになりました」と自分のメイクを指して会場を和ませた。
「会場が発表された時に埋まるかなと不安だったんですけど、反省しました」とメロ。「マザリは深夜ツアーと1周年が待ってるし、その先も何かあるはずなんでぜひ一緒についてきてくれたらなと思います!」と、この先の展望を含めて簡潔に述べた。マナセはこれまで自分の歌やパフォーマンスに自信がなくて、ツアーが終わっても出しきれてない気持ちがあったという。「これまでは悔しくてしょんぼりすることがあったんですけど、今日のツアーファイナルは、すごいやってよかったなって。悔しくてではなく、嬉しくて泣きそう」感無量なその気持ちを吐露した。「前回の三大都市ツアーに続いて、2か所も増えて五大都市も回させてもらって、とても嬉しいです」とレム。「三大都市でもいい景色を見せてもらったんですけど、今回の五大都市でもいい景色を続けて見せてもらえて。深夜のワンマンと1周年の節目、みんなと築き上げていきたい。これからもよろしくお願いします」と声を強めた。

最後はパン。
「今回は五大都市廻らせてもらえて、北海道と地元の福岡に行かせてもらったんですけど、ファイナルは正直どうなるかと思ってたんです。めっちゃめっちゃ緊張したんですけど、ステージに出た瞬間に、こんなにも大勢の人がマザリのことを好きでいてくれているんだと思ってめちゃくちゃ嬉しかったです。ありがとうございました! マザリって、万人受けじゃないっていうか、好き嫌いが分かれると思うんですよ。でもこんなにたくさんの人がマザリを愛してくれて。マザリのいいところって、バンギャさん、バンドが好きな人がいたり、アイドルが好きな人がいたり、いろんな人が好きでいてくれていることが魅力だなと思うんで、もっともっとたくさんの人を幸せにできるように、この“マザリ”っていうもので幸せにできるように、この6人、7人で頑張っていきたいと思うんで、どうぞよろしくお願いいたします!」

そう語ると大きくあたたかい拍手と歓声に包まれた。
アンコールで届けられた「遺書」。そこにはデビュー当初とは比べものにならないほどの成長を遂げ、進化した“別ノ生キ物”になった、強靭な6人の姿があった。
「さぁさぁ、これで本当にラストだ! オマエら、本気出せよぉぉぉぉー!」
ホムラの邪悪な叫びにいざなわれながら、「逢魔時に染まる私の自傷癖」で満身創痍。<禁呪〜別ノ生キ物ニ変ワルマデ〜>のファイナルは幕を閉じた。人間の奥底にある負の感情、誰しもが抱えた陰に籠る気持ちを吐き出してくれる彼女たち。まさに多様化する現代だからこそ生まれた新しいアイドル、それがマザリなのだ。
取材・文◎冬将軍
写真◎ミヤタショウタ
セットリスト
- 禁呪
- お慕い申し上げます。
- 愛×食欲
- 御呪い
- 一緒に死ぬ序でに愛して欲しい
- 遺骸奇譚座
- こっくりさん
- 丑の刻参り
- 人形-ヒトガタ-
- メンタルリストカット
- 混ざり
アンコール
- 遺書
- 逢魔時に染まる私の自傷癖
<東名阪深夜ツアー『ひとりかくれんぼ』>
全公演 開場:25:00 開演:26:00
九月六日(土)の深夜
第壱夜 -名古屋-
会場 : 大須X-HALL
九月十二日(金)の深夜
第弐夜 -大阪-
会場 : 梅田BANGOO
九月二十七日(土)の深夜
第参夜 -東京-
会場 : 下北沢シャングリラ
<マザリ一周年単独公演『 呪詛-生演奏- 』>
二○二五年 十月十一日(土)
会場 : Electric Lady Land
開場 : 17:00 開演 : 18:00
[販売ページ]
https://t-dv.com/mazari_2025


