【インタビュー】vistlip、攻めモードのシングル「BET」にクリエーターの信念「今、バンドとしての成長を感じています」

■一度壊して作り直すという制作過程の流れが
■破壊と再生を表す“ウロボロス”にぴったり
──“ウロボロス”は、自らの尾を噛んで円形になっている蛇のモチーフですよね。そのキーワードが先にあったんですか。
智:今年1月頃に、ヘビ年だから「今年のテーマ、ウロボロスじゃね?」と言っていて(笑)。2曲目が完成したあとに、合いそうだなと思ってタイトルに持ってきました。「OUROBOROS」は、ヘビの脱皮に絡めて、“生まれ変わりたい、生まれ変わらなきゃいけないんだ”という気持ちを書いた曲です。
──いろんな要素が出てくる面白いアレンジですよね。瑠伊さん作曲ですが、どういうふうに作っていったんですか?
瑠伊:最初は完成形とはまったく違って、完全に打ち込みっぽく作っていたんですよ。エレクトロとシンセベース、ループ素材などを使ったヒップホップのビート感がある曲で、そこにメロディも乗せたんですけど、「このオケは全然vistlipじゃないな」と思って。一回全部を取り払って、今度はそのメロディの雰囲気に合うようにバンドサウンドを作っていきました。作りながらブラスの音が頭に流れてきたから追加したり、ひらめきでどんどん構築していった感じです。言ってしまえば偶然の産物なんですけど、一度壊して作り直すという流れが、「OUROBOROS」の破壊と再生というテーマにもぴったりだなと思って。
──「BET」のシンプルさとは真逆に盛り盛りのアレンジですよね。
瑠伊:僕が入れ込みたいと思っていたのはグランジっぽい要素ですね。
──それはギターリフに顕著ですね。休符を巧みに使ったベースアプローチや、16ビートのワウギターからはブラックミュージックやファンク的なノリも感じました。
瑠伊:自分の中にあるグランジっぽさ、レトロなロック感を盛り込んでいったらファンクっぽくなったのかな。そこにオシャレなジャズの雰囲気も入れたり、アイデアを全部足していったらこうなりました。ベースも、「BET」で押さえた分、こっちで弾きまくったところはあります。うねりを意識して、色気を表現してみました。
──この曲に関して、智さんからのリクエストはあったんですか?
智:いや、リクエストで作ってもらうのは、基本的にTohyaだけなんですよね。
瑠伊:そう。僕はたぶん、リクエストを受けると頭がこり固まっちゃってできなくなってしまうので、自由にやらせてもらっています(笑)。「OUROBOROS」のオケができた時、なんか嬉しくなって智に送りつけましたもん。
智:そうそう、送りつけられた(笑)。vistlipのセンスを見せつけられる曲だなと思って、僕も気に入っています。レコーディングも気分がノッてましたし、ライヴでの手応えもすごくあります。
──間奏とアウトロでギターソロを弾きまくっているのはYuhさん?
瑠伊:そうですね。特にフレーズや音色の指定はせず、好きに弾いてもらいました。ゲネプロでも本番レコーディングでもライヴでも、全部違うソロを弾いているらしいです。「その時の気分で変えてる」と言っていて、ロックだなと思いました。
智:へえ、そうなんだ。
Tohya:前にYuhが、「もともと通ってきた音楽が近くてセンスが似ているから、瑠伊の曲のコード進行は得意だ」って言ってました。それって僕からするとクレーム案件ではあるんですけど(笑)。「僕の曲でもそのセンス出してくれよ!」って、このインタビューを通してクレームを出しておきます。
瑠伊:直で言えよ(笑)。
Tohya:(笑)。


──『THESEUS』のインタビューでも、瑠伊さんの曲は「弾いていてテンションが上がる」と言っていましたね(笑)。
Tohya:あと、シンセ周りのアレンジャーさんも瑠伊の曲のアレンジだけトラック数が倍ぐらいあって、絶対ノッてるんですよ! 「オーダーされていないけど、こんな音も入れてみました」ということがやたら多い。
智:ああ、ノせられちゃうんだろうね。
瑠伊:そうかも。「ここはもう少しこうしてほしい」みたいにざっくり伝えたら、ドンピシャで返ってくるから、通じ合えている気もします。
智:ズルいねえ。
Tohya:ズルいよね! もともと僕の友達なんですよ? NTR(寝取られ)です! サウンドNTRです(笑)。
瑠伊:あははは!
Tohya:だから、僕ももっと人をのせられる曲を作らなきゃなって、反省させられた曲でした。
智:でもね、そのわりにはみんなリード曲に「BET」を選ぶんですよ。不思議なもので。
瑠伊:キャッチーさで言ったら、やっぱり「BET」がダントツだと思った。シンプルにいい曲だから、リード曲となったら一択でしたね、僕的には。
Tohya:「OUROBOROS」は特に瑠伊らしさの集合体というか、やっぱり僕にはできないことをやっているんだよね。ただのロックでもないし、ジャンルで括れない不思議な曲だから。オシャレでカッコいいんだけど、ひと言では表現しきれないところが、「BET」との対比になっていていいですよね。同じバンドメンバーでここまで違う音楽が生まれるのは面白いし、でも、智が歌うとなぜかまとまる。vistlipらしさがまた再確認できるようなバランスになったんじゃないかなと思います。
──コンポーザーがたくさんいるからこそのバランスですよね。
智:うん、面白いですね。
──そして、lipper盤には、3曲目に「アメフラシ」という曲が入るということで。こちらはTohyaさん作曲の、まさにvistlipらしい疾走感と爽やかな曲ですね。
Tohya:これは「BET」とは違って、僕の趣味に近いというか、Tohyaを押し付けすぎた楽曲だと思っていて(笑)。というのも、僕は曲を作る時、ピアノのワンフレーズとか何かきっかけになる音から作っていくんですよ。今回は新しい作曲ソフトを使ったこともあって、“この音いいな” “好きな音だな”というところから広げていった結果……全部手グセになっちゃった。
──なるほど。
Tohya:曲構成も全部Tohyaです。ライヴで披露した段階では「カッコよかった」と言ってもらえてよかったけど、音源で聴いたら「そういうことね」ってなりそう。
智:落ち着いて聴くとわかっちゃうという(笑)。いい曲だから選ばれたんだと思いますけど、この間ネットの記事で、DREAMS COME TRUEの中村正人さんが「自分の過去の曲に似ないように頑張ってる」という話をしているのを読んだばかりなので……。
Tohya:(笑)。
智:真逆すぎるだろ!って思ってました。
Tohya:いやいや、それはほら、歴が違うから。俺も20周年を超えた次くらいからは、気をつけ始める可能性はある(笑)。まだまだ長いバンド人生だから。
瑠伊:そういうことなんだ(笑)。

──ちなみに「アメフラシ」も、「BET」「OUROBOROS」と世界観的につながっているんですか?
智:いや、これは全く繋がっていないです。2曲だけのvister盤があって、全員が「アメフラシ」を聴くわけじゃないなら、そこに関連性は持たせたくないというこだわりです。だから、「BET」と「OUROBOROS」で世界観は完結させて。「アメフラシ」は、僕が雨男なのをモチーフに、“雨男だけど、君を救えるよ”という気持ちを込めました。いつも雨には困らされているんですけど、雨のいいところを見つけようっていうテーマですね。うまく形にできたので、ライヴでもどんどんやっていきたいと思っています。







