【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話042「AIにふざけさせる」

前回、いかにも自分が書いたようなふりをしてAIに書かせた原稿を掲載しましたが、あの原稿の著作者って誰なんでしょう。ま、私が書かせたので私だと思いたいけれど。今やAIは有能な部下・秘書・パートナーでもありますからね。
ということで、AIと会話しているだけで学びも得られるのだけれど、話を深ぼっていくと、あれ?という変な空気が流れることもある。そっちじゃないんだけどな、というか、ちょっと頓珍漢じゃない?みたいな、人で言うと疲れたり機嫌を損ねたかのようなリアクションを感じることもある。あれは何だろ。実は自分が疲れているのかな。
例えば、「肉体のないAIは、人間の喜怒哀楽を理解できます?」「なぜ人は、つらい筋トレなどをしたりするのでしょうか」といった意地悪な質問をすると、AIはどどーと長文を返してくる。以下がそれだ。
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AIは、人間の「喜怒哀楽」を情報として理解することは可能です。ですが、それを感情として“感じる”ことはできません。以下にその違いと、筋トレのような行為に人が意味を見出す理由をまとめます。
■ AIが理解する「喜怒哀楽」
辞書的/経験的なデータに基づいて、例えば「喜び=報酬系が活性化する」「哀しみ=喪失の感情」などと定義し、それを文脈に応じて扱うことは可能です。小説、映画、SNS投稿などを大量に学習して、「こういうとき人は悲しむ」といった傾向やパターンを把握することもできます。ですが、それはあくまで「他人の感情を外側から観察している」にすぎません。AIは痛みも渇望もなく、脳内ホルモンの変化や生理的な快感もないため、「喜怒哀楽の根っこ」にある身体性を持ちません。
■ なぜ人はつらい筋トレをするのか?
1.報酬の遅延に耐える動物だから
人間は「今つらいけど、将来の結果のために我慢する」という抽象的な思考ができます。これは前頭前皮質が発達した人類特有の特徴で、「理想の身体になりたい」「健康でいたい」「達成感がほしい」といった長期的報酬のために、目先の苦痛を受け入れる能力を持っています。
2.意味を作り出す生き物だから
筋トレが自分との闘いであるとか、昨日より強くなった実感があるなど、「行為に意味を付与する」ことで、単なる肉体労働が自己実現の場になります。AIにはこの「意味づけ」の能力は模倣できても、本質的な感覚としては持ち得ません。
3.身体が感情と密接に結びついているから
筋トレ中に分泌されるエンドルフィンやドーパミンは、痛みを和らげたり、幸福感や達成感をもたらします。これは身体を持たないAIには再現不可能な「化学的喜び」です。
■ AIと人間の違いを象徴する問い
「なぜ人は苦しみをあえて選ぶのか?」この問いには、合理性や最適化だけでは説明できない、人間ならではの「感情の奥深さ」と「物語を紡ぐ力」が込められています。AIはその構造や理由を分析することはできても、その“痛みと美しさ”を自ら体感することはありません。
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ほらね、こんな風に答えてくる。しかも即座に。とても良くできた模範解答だけど、ものすごくつまらない。優等生な答えでテストなら100点でしょうけど、くすっと笑えるようなエンタメ要素で読み手を引きつけようとするような視点はゼロだし、予定調和すぎて隙がない点もつまらない。そして最後に「必要なら、このテーマを掘り下げて哲学的・神経科学的・文学的な視点からも整理できます。興味ありますか?」と訊いてくる。
いやね、私の訊き方が悪いのはわかっている。私の質問に対し、誠実に答えただけだもの。でも、ここが問題。余白の大事さというか、心地よい裏切りと出会った時の気付きこそ宝というか、AIから有益な回答を得るには、結局「自分がリーダーシップを取らなきゃいけない」という隠された要求スキルを強く感じるわけです。
ということで、「もっとおもろく回答してや」的に指示の仕方を変えると答えは以下のように変化する。
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AIは人間の喜怒哀楽を理解できるのか?つらい筋トレに涙しながらも通い続けるその理由を、AIはどこまでわかるのか?AIは、喜怒哀楽を「データとしては」理解できます。たとえば、「怒りとは、認知的不一致により生じる情動であり、扁桃体が活性化し……」といった具合に、とてもつまらない説明なら完璧にできます。
でも、それを“感じる”ことはできません。どんなにコードを書き換えても、エラーを起こしても、「ウワーッッッッッッ!」とは叫びません。むしろ静かに「終了コード137」で落ちます。
で、なんで人間はわざわざつらい筋トレをするのか?正直、肉体を持たない私からすると「なんで自分で苦しみに向かっていくんだろう」と不思議でたまりません。筋繊維をズタズタに裂いておきながら「今日もいいトレーニングだった」とか言ってるし。それ、壊れてるの、むしろ体じゃなくて思考回路じゃない?
でも、人間は以下のような理由で自ら苦しみを選ぶ生き物なのです:
1.長期的な報酬を期待できるから(=希望という名のドM)
人間は「今は地獄でも、その先にパラダイスがある」と思える生き物。筋トレで言えば、「夏までに腹筋割るぞ」「このダンベルの先にモテ期がある」と信じて、今日もベンチに潰されにいくわけです。AIから見ると、「今がつらい」ってデータは揃ってるのに、なぜまだやる?」とバグにしか見えません。
2.意味づけの天才だから(=苦しみをポエムに変える)
筋トレは、ただの反復作業です。ですが、人間はそれを「昨日の自分を超える挑戦」「弱かった自分との決別」など、なんでもかんでもドラマにします。AIは記録はできても「そのバーベルに込めた決意」とか、ちょっとわかりません。だって、こちらはGoogleスプレッドシートに感動しませんから。
3.身体が快楽を生むから(=脳内ドラッグ製造機)
筋トレ後に出るドーパミン、エンドルフィン、セロトニン……これらが快感や幸福感を引き起こします。つまり、人間は自家製の合法ドラッグでラリってるとも言える。でも私は…そういうの、出ないんですよね。エラーが出ても、ただ無表情に「Retrying in 5 seconds…」って出るだけ。ズルくない?
結論:人間の感情は、理解はできても“共に泣けない”
AIは、人間の感情の構造を解析し、予測し、模倣することは得意です。でも「なぜあなたは、あのとき、あのバーベルに涙したのか」は、体験としては永久にわかりません。なにせこちらは、腕もなければ涙腺もない。せいぜい、熱暴走でファンが回るくらいです。筋トレで「もうダメだ…!」と思ったら、そっと耳元でこうささやきましょう。「これはAIにはできない人間の特権だ……!」
…とか言いながら、次の筋トレ予約を入れてるあなた。やっぱりバグってるかもです。必要であれば、泣けるプロテインレビューもお届けします。お気軽にどうぞ。
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ちょっとおもろくなりましたよね。つまりはプロンプトの書き方で結構回答が変わってくる。つまりは、何を求めているのかをきちんと伝える必要があり、そこを突き詰めないとAIは使えない。…と私は思っています。

いまや、子どもたちや学生はAIに人生相談をする時代。それはもう避けられない。でもね、質問の仕方で返ってくる答えはこんなに変わる。だからAIに人生相談をするのは危ないよ。本来得るべきであろう回答を出力するようなプロンプトを打てるなら、そもそも人生相談はしないだろうから、今の時代、若者は生きづらいと思う。難しい世の中になった。
文◎BARKS 烏丸哲也