武蔵野音楽大学、日本大学芸術学部、武蔵大学と3つの大学が位置するなど、学生たちが行き交うエネルギッシュな街が江古田だ。アートに造詣の深い学生が集まる土地柄ゆえユニークな店舗が少なくないことに加え、住宅街としては閑静で住み心地が良いという両面を併せ持つ。

西武池袋線の江古田駅は、池袋駅から3駅、約7分ほどの好立地。都心部へのアクセスが良いほか、同沿線の埼玉方面には所沢をはじめ、人気バンドやアイドルの大規模なコンサートが行われるメットライフドームがある西武球場前駅(西武狭山線)、豊島園(西武豊島線)、秩父(西武秩父線)など、ショッピングやレジャー施設が充実。また、江古田周辺は都営大江戸線の新江古田駅、東京メトロ有楽町線の小竹向原駅、西武有楽町線の新桜台駅に囲まれており、住む場所によって最寄り駅の選択肢が広いことも特徴となっている。

「音楽と住まい 第五回 江古田編」では、『のだめカンタービレ』の舞台としても知られる武蔵野音楽大学をはじめ、クラシックやジャズ、昔ながらのライブハウス等がひしめく、江古田ならではの特徴的な音楽文化に焦点を当ててお届けしたい。

江古田 案内マップ

3大学合同学園祭プロジェクト──江古田カレッジトライアングル

江古田駅の周辺には大学が多い。江古田駅北口を出て徒歩1分の日本大学芸術学部をはじめ、武蔵野音楽大学や武蔵大学江古田キャンパスも駅から徒歩4〜6分程度、ゆえに3つの大学の距離も近い。

2013年からは3大学合同学園祭プロジェクト「江古田カレッジトライアングル」が開催されており、このプロジェクトでは毎年、練馬産の野菜を使った飲食物の販売や、3大学を巡る企画などを実施。地域活性化に一役買っている。

『のだめカンタービレ』の舞台──武蔵野音楽大学

国内屈指の音楽大学のひとつ「武蔵野音楽大学」の江古田キャンパスは、前述したとおり江古田駅北口から徒歩4分ほど。ベートーヴェンホール、ブラームスホール、モーツァルトホールといった名称のコンサートホールも有する校舎は、住宅街に溶け込みつつも威風堂々とした佇まい。

1949年の創立以来、“音楽芸術の研鑽”と“人間形成”を一貫した教育方針に掲げ、多くの音楽家を輩出し続けている。また、二ノ宮知子の漫画作品『のだめカンタービレ』主人公・野田恵 (通称・のだめ)が通う桃ヶ丘音大 (ピアノ科)のモデルになった学校としても有名だ。漫画からドラマ、実写映画、アニメ化と、大ヒットした同作品をきっかけに、クラシック音楽の楽しさを知り、音楽家を志して武蔵野音楽大学を目指す若者も多い。

駅から近い個性派スタジオ──ダスティミラー / スタジオ マザーハウス

たくさんの楽器機材を持って遠い練習スタジオに移動することは時として気が重い。その点、江古田には駅から近い練習スタジオも多数あってミュージシャンに優しい。駅北口から小竹通りを歩いて1分の音楽スタジオ「ダスティミラー」は、練習のみならずプロツールス最新バージョンを使用したレコーディングも可能だ。

CDやDVD、ステッカーの制作、流通のサポートといったバンドマン向けのサービスから、声優さん向けの“サンプルボイス”がリーズナブルに制作できたりと、様々な目的に応えてくれる。また、お隣にはアニソンイベントなどが行われている個性的な提携ライブハウス「クラブドロシー」もあり。スタジオ「ダスティミラー」と提携しており、ライブ出演する人はスタジオを会員料金で利用出来る。

同じく小竹通り沿い、駅から徒歩2分の「スタジオ マザーハウス 江古田店」は、ポップなロゴと明るいロビーが目印のリハーサルスタジオ。

14帖のバンド練習用から、4帖の個人練習向けまで、用途に合わせた5つのスタジオが用意されている。4帖のCスタジオにはYAMAHAのアップライトピアノU1Hが常設されているのもポイントが高い (※利用はオプション)。オフィシャルサイトを見ると、車で訪れるユーザーのためにスタジオ周辺有料駐車場も掲載されており、痒いところに手が届く親切なサービス精神が感じられる。

ライブハウスで即興セッションも──BUDDY / 江古田マーキー

江古田駅南口を出て右手すぐにあるのが「LIVE HOUSE BUDDY」だ。

収容人数は椅子設置時130名、スタンディング時250名となっており、ステージは奥行き4.2m、幅5mと広々。オープン以来、ジャズのライブが多いが、もちろんジャズ以外のジャンルもOK。スケジュールには元JUDY AND MARYのメンバーとして知られる五十嵐公太(Dr)を中心とした＜五十嵐公太 presents 公太とトシの誕生会～江古田の恋の物語…続編～＞なるイベント告知(2/15開催)もあった。即興セッションも募集しているので、腕に自信ありのプレイヤーは参加してみては？

「江古田マーキー」は駅南口から徒歩3分、千川通り沿いのビル地下2階にあるライブハウス。

1978年創業で、過去の出演者には内田裕也、遠藤賢司、遠藤ミチロウなど今は亡きロックレジェンドやブルースの女王・淡谷のり子まで、大御所が名を連ねる老舗だ。どこかアングラな雰囲気もあり、古き良き音楽文化に触れることができるだろう。取材時の最新スケジュールでは「サヨナラ」の大ヒットで紅白歌合戦にも出場した女性シンガーソングライターGAOのライブが予定(2/15開催)されていた。

この他、1980年から営業を続ける粋なジャズバー「Jazz Bar そるとぴーなっつ」は、大人の音楽とお酒を愛する人が集まる店。毎週金曜日と土曜日に＜そるとでジャズ・ライヴ＞と称したステージが行われている。

レコードショップは思わぬ出会いの宝庫──COCONUTS DISK EKODA

千川通りを歩いていると、観葉植物に囲まれた南国ムード漂うお店「COCONUTS DISK EKODA」が現れる。

フラリと吸い込まれるように入ってしまう魅力的なCDおよびレコードショップだ。アナログレコードの棚を中心に、CDやカセット等が並んだ店内にはこだわりのオーディオシステムもあり、試聴可能となっている。大道路沿いの店なのでわかりやすく、マニアックなレコードショップにありがちな入りづらい雰囲気もない。なんとなく店に入ってジャケを見て試聴してそのままレジへ……音楽との幸せな出逢いの場でもある。

ハイクオリティな演奏を支える技術──北里楽器店

音大生にとって楽器ほど大切なものはない。駅北口から徒歩5分、閑静な住宅街に位置する「北里楽器店」のバイオリン工房「フェルマータ」には、バイオリン、ビオラ、チェロなどの楽器本体ほか、肩当て、弦、松油などの消耗品なども豊富に揃っており、音大生やプロ／アマ演奏家たちの楽器の調整や修理、販売など、アーティストをサポートしてくれる。また、レンタルスタジオ「フェルマータ」には約30名まで演奏可能でピアノ発表会もできる大スタジオから、カルテットでの演奏に最適な小規模スタジオまで用意されている。

駅北口線路沿いで弦楽器専門店を営んでいるのが、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの製作、修理、販売を行う「村川ヴァイオリン工房」だ。

店主の村川タクト氏はESPミュージカルアカデミー (現・ESPエンタテインメント) バイオリン製作科を卒業後、複数の弦楽器専門店や工房でバイオリンの修理、製作の技術を学び、帰国後に同店をオープン。製作した楽器は国内外の演奏家に愛用され、数々の賞にも輝くなど、クオリティの高い演奏を支える技術を江古田から発信し続けている。

プライベート・コンサートホール”付き防音マンション──プレイ江古田

近年、江古田には防音設備が施されたマンションが増えており、音楽家を目指す学生にとっては嬉しい限り。最近では、江古田駅徒歩3分の新築マンション「プレイ江古田」が注目を集めている。

この物件、地下1階地上5階建て全37戸の全室防音ルーム付きマンションで、地下1階には2つの居住者専用 “プライベート・コンサートホール”付き。教会をイメージしたプライベートホール“C”には、スタインウェイ＆サンズのグランドピアノB-211、ジャズをイメージしたプライベートホール“J”にはドラムセットやギター＆ベースアンプ、マイクスタンド、PAシステム、さらにベヒシュタインのアップライトピアノが完備されている。しかも、“ホールC”は1時間900円、“ホールJ”は1時間800円という低価格で使用可能。街のレンタルスタジオを借りる手間と時間を考えたら、相当お得だ。朝から晩まで音楽にどっぷりと浸りたい学生や社会人にはあまりにも嬉しい物件だろう。

おしゃれなパン屋さんから有名な生姜焼きまで──江古田グルメ紹介

江古田といえば、真っ先に名前が上がる飲食店が生姜焼きの専門店「笑姜や」だろう。

一口に“生姜焼き”といってもその味付け種類が豊富で特徴的。メニューには特製醤油ダレ、味噌ダレ、塩ダレ、おろしポン酢、ピリ辛ごまダレ、カレー風味の6種類の生姜焼きが用意されているため、1週間毎日通い続ける常連さんもいるらしい。生姜が効いた柔らかな豚肉はごはんが進み、テーブルに常備されたマヨネーズを付けても旨い。最後は壺に入った無料の白菜の浅漬けでごはんを平らげると、後味さっぱりなのでおすすめ。

住宅街に佇む古民家風の店「パーラー江古田」は、江古田エリアのパン好きなら知らないものはいない人気店。

ハード系のパンやサンドイッチに定評があり、店頭販売だけでなくイートインもあり。週末には遠方から訪れる人もいるそうなので、行列覚悟を。また、江古田駅からは10分ほどの姉妹店「まちのパーラー」もチェックしたい。こちらは2013年に放送された『孤独のグルメSeason3』の第9話“練馬区小竹向原のローストポークサンドイッチとサルシッチャ”のロケ地として登場している聖地でもある。

駅北口から武蔵野音楽大学へと伸びる音大通りには、ひと際個性的な飲食店が並んでいる。ピアニストとシャンソン歌手のご夫婦が経営している「砂時計」は、武蔵野音楽大学生の学食的な存在。

店内にはグランドピアノがあり、運が良ければ生演奏を聴けることも。名物“ローマの休日”(鶏肉入りトマトソースチーズドリア)が人気メニューで、男性向けは“グレゴリー”、女性向けは“オードリー”と、映画の配役をモチーフにしているところが、開店当初のモダンな雰囲気を感じさせる。

また、「キッチン男の晩ごはん女の昼ごはん」と「ひまわり食堂」はエスニックな看板が独特の存在感を放つ飲食店で、「ひまわり食堂」はテレビ番組『モヤモヤさまぁ～ず2』で紹介されたことのあるインド料理店。カレーとナンがメインだが番組で紹介された謎メニュー“満州トロトロ坦々油そば”にチャレンジしてみてはいかがだろう。

キッチン男の晩ごはん女の昼ごはん

ひまわり食堂

さらには、“ドラキュラ殺し” “ナウシカ” “ナウシカ”などユニークなメニューが目白押しのパスタ店「まほうつかいのでし 江古田店」といった一筋縄ではいかないインパクトを放つグルメスポットも。これら個性的なお店が立ち並ぶ中、ロックファンにおすすめなのが「東京696酒場」(トウキョウロックンロールサカバ)だ。入口付近の矢沢永吉コンサートツアーの金テープを目印に、趣向を凝らした300円～400円台を中心のメニューはコスパが良く、ラーメンなどガッツリ食べたい人にも対応してくれる。

まほうつかいのでし 江古田店

東京696酒場

昔懐かしの風情──レトロな喫茶店

駅周辺では、昔懐かしい雰囲気の喫茶店がいくつも営業している。「林檎」「モカ」「ピッコロ」など、あまりの居心地のよさに、店内でのんびりティータイムしているうちにうたたねしてしまうくらい。どの店も周囲が静かなこともあり、コーヒーを飲みながら読書をしたり楽譜に目を通したり、集中したいときには打って付けだ。

林檎

モカ

聖地巡礼スポット──アニメ『四月は君の嘘』

駅北口の「浅間神社」は、音楽をめぐる青春ラブストーリー・アニメ『四月は君の嘘』の12話、“お祭りのシーン”に登場している。都内には珍しく駅の目の前に位置する神社であり、この取材時には境内に入らずともお辞儀をしてから通り過ぎるおじいちゃんやおばあちゃんの姿を何度も目撃した。地元の方々からも厚く信仰される「浅間神社」、訪れた際には足を運んでみてはいかがだろう。

なぜマンションにこんなもの!?──蒸気機関車

「旧日本陸軍 鉄道聯隊E18型蒸気機関車」は知る人ぞ知る江古田の名物スポットだ。

駅南口から徒歩5分ほどのマンション前、“なんでこんなところに蒸気機関車が!?”と、あらかじめその存在を知らなければ思わず声を上げてしまう異空間。実はマンション1階には、鉄道模型月刊誌『とれいん』を発行する出版社「株式会社エリエイ」が所在しており、蒸気機関車は同社の所有物。鉄道好きのみならず、珍百景的なスポットとして観に行くのも楽しい。

シャッターアートに感じる自由と夜のアドベンチャー──江古田コンパ

江古田の商店街には、シャッターにポップなアートが描かれていることが多いなど、自由な精神とユーモアとアートを感じさせる。夜の江古田を訪れた際には、ひと際異彩を放つ老舗カクテルバー「江古田コンパ」はいかがだろう。お店の佇まいはもとより、メニュー看板や装飾に、古き良き“夜の街”を感じさせてくれる。