【インタビュー】Westone製カスタムIEMに直撃「ドライバーは5つ、それ以上は意味がない」

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2012年10月27日、スタジアムプレイス青山ではフジヤエービック主催<秋のヘッドホン祭2012>の初日が開催、多くのオーディオファン、ヘッドホンファンが会場に詰め掛けていた。新プロダクトから老舗ブランドまでヘッドホンの最新事情が世界から結集する一大イベントだが、BARKSは米コロラドからやってきたWestone(ウエストン)のアジアパシフィック・セールスマネージャーにアタック、ハンク・ネザートン氏にWestoneのカスタムイヤホンに関するインタビューを直撃することに成功した。

◆Westone製カスタムIEM画像

▲Westone社ハンク・ネザートン氏(アジアパシフィック・セールスマネージャー)に話を聞いた。穏やかで物腰の柔らかいジェントルマンだ。
▲<秋のヘッドホン祭2012>のWestoneブース。カスタムIEMもずらりと展示され、充実したフェイスプレートのアートワークが華やかだ。
Westoneが制作するイヤホンは、全てバランスド・アーマチュアを用いた高い遮音性を有するカナル型である。インイヤーやオーバーイヤーのヘッドホンなどその他の関連プロダクトは一切存在せず、あくまでもすべてカナル型イヤホンにとどまっている。それは、聴覚保護とヒアリングケア分野の先駆者としての自負と自覚に根差したものだ。

あくまで耳の健康へのサポートを根幹におきながら、素晴らしいサウンドを安心して使えるように高い品質を持って提供しようとする彼らの姿勢は、結果、多くのWestoneファンを生み出し時代を牽引してきたという揺るがぬ歴史を作り上げてきた。

多くのブランドが立ち上がっては消えていく過当競争が激しいヘッドホン市場において、ヒアリングケア分野の第一人者としてのアドバンテージは絶大だ。

──Westoneは音楽ファンから絶大な信頼を得ているオーディオ・ブランドである以前に、聴覚保護とヘルスケアの第一人者でもある点が、一般オーディオブランドとは一線を画していますね。

ハンク・ネザートン(アジアパシフィック・セールスマネージャー):我々には2つの大きな特徴があります。ひとつは人間工学的なプロダクトに長けていること。1959年からヒヤリング用製品を作っており、カスタムIEMの制作は1980年代後半からスタートしています。既に53年もの歴史があり、現時点で1500万台もの製品を制作していますから、そこにはエルゴノミックなノウハウを多く保有しています。そしてもうひとつの特徴は、ウエストンのサウンドシグネチャーです。温かくスムーズな音で聞いていて疲れません。非常にニュートラルであると定評をいただいており、いろんなカスタムが存在する中でも、もっとも疲労のないサウンドがWestoneの提供するものです。

▲Westone ES1 Single driver IEMs \49,800(税込)。
▲Westone ES2 Dual driver IEMs \89,800(税込)。
▲Westone ES3 Three-way, triple driver IEMs \118,000(税込)。
▲Westone ES3X Balanced three-way, triple driver IEMs \128,000(税込)。
▲Westone ES5 Five balanced amature drivers \138,000(税込)
▲Westone AC1 Single-driver IEM (clear, full acrylic only) \49,800(税込)
▲Westone AC2 Dual-driver IEM (clear, full acrylic only) \64,800(税込)
──ES1~ES5のラインアップがそろうエリートシリーズは、カナル部分がシリコン製(フレックスカナル)である点が、最大の特徴ですよね。

ハンク・ネザートン:そうですね。フレックスカナルは、ご存知のように体温で温まるとシリコン部分が柔らかくなり完全な密着と密閉性が確保されます。これによって疲れることなく最高のフィット感と遮音性がもたらされるのです。特にステージ上で歌ったり、飛んだり跳ねたりするアーティストにとって、どんな状況でもその快適な密閉度がキープされないと、カスタムITMとしては理想ではないですね。口をあけてもその状態がキープされるのは重要なことです。何より、付けていて快適ですから。

──その通りですね。でもそんな素晴らしいフレックスカナルを、他ブランドが採用しないのはなぜでしょう。

ハンク・ネザートン:…わかりません(笑)。ただ、作るのは非常に難しくコストがかかるのは事実です。Westoneにとっては非常に多くのカスタムを作ってきた長い歴史があるので、もう今では作り慣れているわけですが、新たなメーカーではコスト面でも技術面でも大変かもしれないですね。我々のカスタムIEMは今でもひとつずつ手で作っているので、このような処理ができますが、UVキュア(紫外線硬化)で作っているメーカーが多いので、アクリルとシリコンのハイブリッドはなかなか難しいかもしれません。手間暇もかかるけど、我々は徹底していきたいですね。

──逆に、フレックスカナルのデメリットはありますか?

ハンク・ネザートン:耳垢やワックスの経年変化によって、シリコン部分が黄色っぽく変色することがあります。あとはやはり高価になってしまうことでしょうね。ですから、そこまで予算がない人、手が届かない人のために、ACシリーズを用意しました。ACシリーズは全部アクリルだし、カラーバリエーションもなくデザインも入れられず“WESTONE”と書かれているだけですが、お買い求めやすいモデルです。

──ACシリーズは、いわゆるオーディエンス向けと考えればよいですか?

ハンク・ネザートン:そうとも限りません。もともとACシリーズが生まれたきっかけは、教会で音楽をやっている人々の要望に応えようとしたものなんです。毎週教会で演奏したり歌を歌うんですが、皆使いまわしでモニターイヤホンを使っていたんですね。本当はきちんとしたモニターが欲しいのだけど、購入するにはあまりに高すぎる。ファッショナブルじゃなくていいから、手の届きやすい値段で自分の耳にきっちりと合うクオリティの高いものカスタムが欲しいというニーズがあったんです。そこに応えたモデルがACシリーズ誕生のきっかけです。

──なるほど。ACという名前の由来は何ですか?

ハンク・ネザートン:アクリル…(笑)、フルのAcrylですから。でももちろんリッチでウォームなWestoneサウンドは健在です。そして快適さですね。それがWESTONのカスタム作りです。

──AC2は2ドライバーモデルですが、同じ2ドライバーのES2のサウンドとは違いはあるのでしょうか。

ハンク・ネザートン:両者のサウンドの違いは微細だと思います。ただ、ES2はドライバーごとに2本の音導管がありますが、AC2はシェルの中でひとつにまとまっています。両者の使用ドライバーは同じですが、実はクロスオーバー・ネットワークの設計やフィルターも若干違います。

──なるほど、ドライバーが同じでもネットワークが違えば音は大きく変わりますよね。Westone3とUM3Xも同じドライバーなのに、サウンドは全く違いますよね。

ハンク・ネザートン:いや、Westone3とUM3Xはドライバーは違いますよ。UMシリーズはステージ上で使うミュージシャンのために作られているので、低音の出方が強くなっています。一方、Westoneはコンシューマ向けなので、メインの音がクリアに聞こえるように作られています。ドライバーも違いますね。

──WestoneのカスタムIEMを初めての人にお薦めするとしたら、どのモデルが最適でしょう。

▲Westone ESシリーズのシェルカラーバリエーション。フェイスプレートにアートワークを仕込めばバリエーションは無限大だ。
ハンク・ネザートン:何がいいかと言われれば、私はES5をお薦めします。最も素晴らしいサウンドですから。でも基本的にどれも音はいいです。どんなドライバーをどれだけ入れてもマキシマイズ/最適化されていないといけませんが、Westoneが目指すのはそこです。ドライバーは多い方がサウンドに有利ですが、予算次第というところもあります。ES5ほどお金をかけられないというのであれば、普通に音楽を聴くにはES3Xもお薦めです。あとは、そもそも使用用途次第だと思います。ステージ上でプレイするドラマーやベーシストでしたらES2のほうがかえっていいでしょう。ES3は、ミッドレンジを充実させているのでステージ上でのシンガーとギタリストにお勧めです。一般ユーザーリスニングには適していません。そしてES1は入門編ですね。最初のカスタムの一歩に最適です。カラーやデザインも入れられるので、AC1やAC2よりカスタムの楽しみを味わうにはいいのではないでしょうか。

──日本ではカスタムIEM人気は急速に広がっていますが、ドライバーの数が多いものやフラッグシップモデルに人気が集まる傾向があります。ドライバーの数とサウンドに関してWestoneはどう考えますか?

ハンク・ネザートン:実は、我々もES5を開発する際に、様々な試行錯誤をしました。その時にドライバーが6個のもの、8個のもの…と多ドライバーを実際に作りたくさん試しました。分かったことは、人間の耳の構造上5つ以上の音を識別するのが非常に難しいということです。結局は5つ以上のドライバーを搭載しても聞こえる音は5つまでの場合と違いは出てきません。技術的にはドライバーは増やせますが、上限を5つにして無駄な価格上昇を抑えたほうがいいですよね。ドライバが多くでも聞こえないのであれば、価格が高くなるだけで意味がないと思います。

──興味深いお話です。であれば、なおのこと“Westone5”の登場が待ち遠しいですね。

ハンク・ネザートン:Westone5ですか…いずれは出るかもしれませんが、でもユニバーサルモデルのシェルの中に5つのドライバーを入れるのは非常に困難です。ES5はカスタムIEMですからドライバーが入りますが、Westone3やWestone4でさえ女性には大きすぎるところがあります。Westone5は出ないとは言いませんが、解決しないといけないことがたくさんあります。

──最近では、ダイナミックドライバーを用いたカスタムIEMやハイブリッド(ダイナミック+バランスド・アーマチュア)も多く登場してきています。Westoneでダイナミック・ドライバーを開発する予定はありますか?

ハンク・ネザートン:これもサイズの問題がありますね。現時点では、バランスド・アーマチュアと比べると大きさ面やサウンドクオリティの面で我々が作るイヤホンには未だ合わないと判断しています。将来的には可能性はあるかもしれませんが、現時点ではバランスド・アーマチュアで作り続けていきたいですね。皆さんからの意見や要望も聞かせてください。それらの声を開発に活かしたいと思っています。人それぞれテイストや好みが違うので一概には言えませんが、多くの人はバランスが取れて綺麗で温かいサウンドを好まれます。そういう人にはWestoneがベストです。均整、バランスが取れているので、アンプを使う人にもお薦めなんですよ。

話は1時間にわたって繰り広げられたが、多ドライバモデルは5つまでという衝撃的な発言も飛び出してきた。もちろんこれは他社の6ドライバーや8ドライバーモデルを否定しているものではない。いわば、8つのドライバーで鳴らされたサウンドは、設計次第で5つのドライバーで再現できることを示唆しているものと考えられる。ドライバー数は多い方がサウンドは美しくクオリティには有利であると明言していたハンク・ネザートン氏だけに、「いたずらに多い必要はない」と、過当なスペック競争に警笛を鳴らす言葉にも聞こえてくる。

歴史に裏付けされたWestoneのサウンドには、老舗ならではの安定感といつまでも聴き続けられる安心感がある。私はES5を高く評価するWestoneファンのひとりだが、近いうちにAC2のサウンドについてもレビュー記事にて紹介したいと思っている。

取材・文:BARKS編集長 烏丸


●Westone ES5
Five balanced amature drivers \138,000(税込)
●Westone ES3X
Balanced three-way, triple driver IEMs \128,000(税込)
●Westone ES3
Three-way, triple driver IEMs \118,000(税込)
●Westone ES2
Dual driver IEMs \89,800(税込)
●Westone ES1
Single driver IEMs \49,800(税込)
●Westone AC2
Dual-driver IEM (clear, full acrylic only) \64,800(税込)
●Westone AC1
Single-driver IEM (clear, full acrylic only) \49,800(税込)

・Custom Art Level1(Westone ハウスデザイン(35種類)\12,800(税込)
・Custom Art Level2(オリジナルデザイン)\15,000(税込)
・Custom Art ES Exsotic Level3 エキゾチックマテリアルデザイン(12種類)\17,500(税込)
・Custom Art (イニシャルonly)\1,000(税込)
・Custom Art - リフレクション (10種類)\17,500(税込)
・custom Art - カーボンファイバーデザイン(1種類)\20,000(税込)

◆WestoneカスタムIEMオフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル
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