アルバム『エレファント』の世界的な大ヒットにより、今やザ・ストロークスと並んで「ニュー・ロック・レヴォルーションの旗手」と目される姉弟2人組ロック・バンド、ザ・ホワイト・ストライプス。昨夏にもフジロックで来日を果たした彼らではあるが、今回が実質初となる待望のジャパン・ツアーである。彼らをはじめ、ストロークスやヤー・ヤー・ヤーズ、B.R.M.C.やハイブスといったバンドについてよく言われることは大体いつも次の通り。「彼らの昔ながらの荒削りなロックンロールが、形骸化したニュー・メタルやポップ・パンクからロックを奪還した」。実際、こんな風な言葉を僕はよく目にしている。そして、それがゆえに「こんなのただのレトロ・ロックなのでは?」と、いぶかしがる声も多くあるのもまた事実。だが、ことストロークスとホワイト・ストライプスに関して言えば、果たしてこれがあてはまるのかは大いに疑問なところである。ストロークスのリズムの様式は、人力ではありながらも明らかに昨今のエレクトロニカのような触感がある。そして、このホワイト・ストライプスに関して言えば、次の通りである。そして、「レトロ」なんて言葉は二度と吐けなくなると思う……。 彼らと同郷、デトロイトが生んだ名ガレージ・バンド、かのイギー・ポップが率いたストゥージズの曲が延々とBGで40分ほど流れた後、赤いシャツに白いパンツのメグと、黒いTシャツを着たジャックが、おもむろにステージに登場。それぞれドラム台とマイク・スタンドの前に位置すると、BGの流れそのままにストゥージズの名曲「I Wanna Be YourDog」でライヴをスタートさせたが、これがのっけから鳥肌ものだった! ジャック・ホワイトの赤い変型ボディのギターからつま弾かれるその音といったら! とてつもなく大きく場が振動するほどひずんだ音だというのに、ハウリングやフィードバックなどは一切なく、パリッと固いままどこまでもスーッと伸びて行く。そしてその上を、ジャックのスムースでスピーディな手の動きによるスライド・ギターが、狂気とも美とも言える壮絶な音絵巻を展開する…。長年ロックのライヴを見て来たが、こんなにエレガントに洗練された轟音というものには、僕は出会ったことがない。 (C)TEPPEI いや、ジャックの天才っぷりはそれだけではない。その壮絶なテンションによる爆発的なリフとソロがひと段落着けば、今度はエレアコを弾いて見るのだが、このエレアコのスライド・ギターでのソロがどう聴いても普通のエレキの音! いや、しかも驚くのはギターだけではない。歌わせても、あれだけ激しくギターと格闘しているというのに、息ひとつ切らさずに高い声で切々とソウルフルに歌い上げるは、曲をちゃんと聞かせるために逐一ギターのヴォリュームを調節するは。そしてソングライターとしては、ブルースとカントリーが土台にしっかりとある、懐の深い芳醇な曲は書くは……。ギタリストとして、シンガーとして、ソングライターとして、ここまで高いレベルとテンションで三拍子揃った天才は、過去のロック史をひもといてもせいぜいジミヘンとカート・コバーンぐらいしかいないのではないだろうか。ホワイト・ストライプスの編成が2人だけというミニマルなものなのは、ジャックという男だけで既に音楽が成立してしまっているからなのである。 (C)TEPPEI
そして、そこにメグと、彼らの独自の立ち姿とファッション・センスがさらにライヴを盛り上げる。ドラマーとしてのメグは決して上手くはないが、ジャックの爆発するプレイの横で鋭いスネアとフロアタムで絶妙な間の手を打っていた。そして、メグの方を向いてマイクにかぶりついて歌うジャックと、うっとりと陶酔しながら叩くメグの姿には、音塊を媒介させた麗しきセックスを連想させる。そして、ローディを含め、全てが赤、白、黒の衣装に楽器類……。プレイヤーとしての才能、楽曲、カリスマ性、立ち姿、セクシーさ、ファッション・センス、どれを取っても全て高水準の最高のロック・コンビではないか! もう一回言う。ホワイト・ストライプスは断じてハイプなどではない! これは現在もっともプログレッシヴなブルース・ロックだ! 使い古された過去の音素材でも、才気溢れるものの手にかかると、まだ新しい可能性が十分残されていた。そのことをホワイト姉弟は証明してくれたように思う。その意味でも、歴史的な一瞬だったと思う。 取材・文●沢田太陽 |