――WEBでの「音漬日記」連載はどういうキッカケでスタートしたのですか? 佐伯 明(以下、佐伯):僕がなにを聴き、どんな人に会い、どんな思いを持ったのかってのを赤裸々に書きたいと思ったんです。与えられた文字数で起承転結もしっかりあって……といった整合性のあるものでなく、もうちょっとレアな感じを出してみようと。そういうものをインターネットでやる価値はあるんじゃないかということで始めましたね。 ――内容はミュージシャンの秘話や裏話もありつつ、文章はあくまでも佐伯さんの視点であり、目線を通したものですよね。佐伯:ええ、僕は“音楽文化ライター”って言っているくらいなんで、音楽もひとつの文化で、ほかのもの……映画、スポーツ、マンガ、書籍、時事ネタ、なんでも吸収して、佐伯明というフィルターを通して音楽の記事と同じように読んでもらえたら嬉しいなと。そうなると一種のエッセイぽいものになりますよね。入口は音楽だけど、出口はいろんなものの要素のあるエッセイ、になればいいなと。 ――たしかに佐伯さんの文章は最後、視点が広がる感じがします。スタート時は赤裸々でレアなものを目指しつつ……。 佐伯:って当初は思ってたんですけどね。1年ほど経つと結構美しいものになりましたね。最初は1回1回短かったり長かったりだったんですよ。1年くらいするとだいたい分量ってのが決まってきて、完結のさせ方も変わりましたね。最初の音漬日記は「○○聴きました」「○○観ました」、はい、終わり、だったんですけど、だんだん「○○聴いてどう思った」「ライヴ観てこう思った」ってのがコンパクトながらにキレイになっていきましたね。やっていくうちに学習していきましたね。だからレアな感じではなくなりましたね。 ――そういった変化はユーザー、周りの反応からですか? それとも佐伯さん独自の考えで収束していったんですか? 佐伯:最初はあまり受け手ってのを想定してなかったんですよ。僕が吐き出したいものを吐き出す、僕自身の見解を述べてみるって。だから打ち出す軸足としては自分にあったんだけど、だんだん受け手の人っていう存在が自分のなかで大きくなって、バンドのファン、ミュージシャンのファンがどう思うだろうってのを意識して書くようにはなりましたね。WEBで読んでくれた人のダイレクトな感想もいただいてましたしね。 ――その後、音漬日記で変わったところは? 佐伯:それからは大きいのはないですね。だからね、ひとつ出来上がったと思うんですよ。それゆえ本として出るんです。確立したなって。 ――その確立したものを踏まえて、音漬日記って佐伯さんにとってどういう位置付けのものなんでしょう? 佐伯:自分自身で1冊の雑誌を作ってるい感じ。たとえば雑誌に原稿を書く場合は、「このバンドのライヴレポを3ページ分で書いてください」って依頼をされる。で、原稿って形をとってその雑誌に参加するのは、何十ページあるうちの3ページくらいじゃないですか。でも音漬日記は自分で――どこまでが1冊の雑誌か分からないけれど――たとえば半年間かけて1冊の雑誌を作るような感覚。自分で話題、人物などの対象を選んで、この人はこの辺の視点で書いてみようとかね。ひとりで編集と執筆をやってるみたいな。 | ▲オフィスの間取り図(本より抜粋) | ――今回、追加で書き下ろした部分があるんですよね。
佐伯:音楽ライターの生活実態っていうんですか、取材心得、7つ道具、あと僕の事務所の間取りがイラストで入ってます。ほかにも僕が音楽ライターになろうと思ったキッカケ、挫折という生き様部分も入ってます。 ――この本はどんな人に読んでもらいたいですか? 佐伯:音楽ライターになりたい人にね、年齢を問わず。音楽が好きで、文章が好きで、あの人に取材にしたい!って思ってる人。 ――一区切りとして「音漬日記」は書籍になりましたが、第二期としてWEB版はこれからどうなっていきますか? 佐伯:第二期は受け手と何かコラボレートをやれたらいいですよね。たとえば誰かのコンサートのライヴ評を受け手であるみなさんと僕が書く。それを一挙公開、クロスレヴューですね。当然僕よりいい原稿を書かないとダメですよね! ってプレッシャー与えてどうするんだよって感じなんですけど(笑)。そういうコラボしたいですね。 取材●BARKS編集部 |