レッド・マーキーに戻り、今回のフジ・ロックが初来日公演となる次のセミソニックを待つ。開演直前だというのに客が全然いない……。確かに日本では知る人ぞ知る存在かもしれないけど、本国アメリカでは「クロージング・タイム」のヒットで、すでにブレイクしている3人組だ、それでもこんなものか!? と、ちょっと暗い気分になってしまったけれど、セミソニックの演奏は、そんな気分を吹き飛ばしてくれた。 XTCやポリスといったイギリスのニューウェイヴ・バンドの影響を思わせるサウンドで知られるセミソニックは、どちらかと言うとカントリーやブルースといったルーツ・ミュージックが盛んな地元ミネソタ州ネアポリスでは、ずっと異色の存在と言われてきた。実際、今回もギターとキーボードを演奏するサポート・メンバーを加えた4人編成で、無骨さが売りのミネアポリス勢(たとえばソウル・アサイラム)とは異なるテクニカルなパフォーマンスを披露した。 ▲Semisonic 卓越したソングライティングと凝った音作り。そんな魅力が十二分に発揮されたステージはもっと多くの人が体験すべき! | たとえば演奏中、Bのジョン・マンサンがギターに持ち替え、いきなりツイン・リードになったり、やはり演奏中にVo/Gを担当するリーダー、ダン・ウィルソンがギターをベースに持ち替えると、それまでベースを弾いていたジョンがテルミンで電子音をピヨーンと飛ばしたり……。そう言えば、Drのジェイコブ・スリッチャーも何やら機械を使っていた。ライヴはレコードとは違って、やっぱりシンプルなんだろうと予想していた僕は大いにびっくりさせられた。とは言え、サビを観客に歌わせたり、観客に投げキッスしたり(ちょっとクサいけど)、巧みにライヴを盛り上げるステージングは、やはりツアーのくり返しで鍛えられているアメリカのバンドならでは、と感心。 基本的には流行りすたりとは無縁の、いい歌を聞かせる、非常にオーソドックスなバンドなんだろう。しかし、その聞かせ方には他のバンドにはないヒネリが加えられている。フジ・ロックのステージでセミソニックは、しっかりとそんな個性をアピールした。演奏が終わるころには、観客の数も増え、それなりにさまにはなっていた。しかし、できることならば東京でも、たとえばショーケースでもいいから1回ぐらいライヴを行なって、そんな個性をもっと多くの人に見てもらいたかった。フジ・ロックだけではもったいない。再来日公演を熱望する。 因みにラスト・ナンバーは、もちろん「クロージング・タイム」。そんな心憎い演出に思わずニヤリ。 文●山口智男 |