寺岡呼人 Golden Circle LIVE REPORT
ひとつの出会いが世界を広げた。15年前、寺岡呼人はラジオ番組のイベントに友部正人を招いた。電話による直接交渉に友部は快諾、18歳年下の寺岡と同じステージに立った。JUN SKY WALKER(S) に在籍していた寺岡にとって、それは初めての新鮮な経験だった。 それから10年、ソロとなった彼は<Golden Circle(以下、GC)>という名のイベントを立ち上げる。世代や利害を越えた人選で音楽を通して理解し合う瞬間が、GCを特別なイベントに作り上げていた。2006年8月11日、GCは10回目を迎えた。真心ブラザーズのYO・KING、森山直太朗、そして友部正人。GCの出発点とも言える友部を中心に、弾き語りの名手たちが集い、どんな空間を作り上げるのか。今夜もまた特別な夜が始まった。 ホスト役、寺岡呼人が新曲を披露する。「ゆずの「もうすぐ30歳」に感動して。僕はもうすぐ40歳なんですよ(笑)」“友よ。もうすぐ俺たち40歳だってよ”と歌う「大人」、そして「スーパースター」では等身大の言葉が胸に響く。会場全体も歌に耳を傾けるという空気に染まっていく。 「さっそく、今日、ひとり目のゲストを」大きな拍手と声援の中、森山直太朗がフラリと登場。二人が歌うのは寺岡の「夜曲」。詩情溢れる曲調に森山の個性が大いに映えた。スケールが大きく緩急も絶妙。“泣いて泣いて泣いて”という素直な歌詞は彼の新しい魅力を引き出した。「友部さんと一緒に歌える。ええ。それだけで来ました」人を喰った発言に会場が沸く。実は、今回のGolden Circle は、彼の“友部さんの大ファン”という告白から始まったのだ。しかし新曲「愛のテーゼ」を歌いだした瞬間、空気は一変した。歌は縦横無尽に、表現は心のおもむくままに。トーキング・ブルース「坂の途中の病院」、バラード「愛し君へ」と豊かな才能はどこまでも爆発していく。若さと、相反する音楽性の広さ。それに圧倒された3曲だった。 「森山君、すごかったよー」「やっぱり? すごいと思ったよ、彼は」リラックスした雰囲気の寺岡とYO-KING。二人は同い年だという。YO-KINGの「その後の世界」が始まる。それは僕が死ぬ時とその後の世界。寺岡が少しだけ手を加え、この切なさがさらに際立った。ひとりになったYO-KINGが歌うのは「ダムの底」とボブ・ディランの「マイ・バック・ページ」。他者と自分自身へ向けられた毒。だけど、その向こう側に世界との融合を望む彼もいる。「尿管結石になって、水を飲みなさいと言われて作った曲です」と笑わせて「きれいな水」。これもまたその流れにある曲だった。 「呼人君! 森山君!」YO・KINGの呼び込みから「HEY!みんな元気かい?」のセッションへ。彼がKinKi Kidsへ提供した切なくも暖かい曲。大胆にためて歌う森山、真っ直ぐに歌った寺岡、そこに武骨で力強いYO・KINGが重なり、会場は大きな手拍子に包まれていった。 「はじめぼくはひとりだった」。友部正人はこの曲から歌い始めた。寺岡のリクエストだった。孤独であることの幸福がある日変化する。少年は世界を知る。そんな物語が淡々と語られるのだが、その目は鋭く光り、歌声は今にも叫びだしそうだった。
「せめて歌だけでも一番若い歌を歌いたい」と言った「おしゃべりなカラス」。確かに若い。死に物狂いで何かを求める。それが友部の表現した、胸の痛くなる若さだった。 「誰かが歌ってる。もしかしたら、それは森山直太朗君かもしれない」「朝は詩人」の後で友部がつぶやくと、「歌ってましたよ!」と森山が現れた。彼のリクエストにより「こわれてしまった一日」。極上のコーラスと至福の顔。森山の友部への気持ちが溢れる。そこに寺岡とYO・KINGが加わり、Golden Circle は佳境へ入っていく。全員がアコギ、上杉洋史のピアノ、中北裕子のパーカッションという編成ながら、「Speak Japanese,American 」と「Like a Rolling Stone」はロックだった。まるで個性の違う4人なのに、不思議とその声は合った。熱い魂が宿っていた。 アンコール。友部の絶唱から「一本道」が幕を開けた。なぜ、中学生だった森山と寺岡が彼の歌に惹かれたのか。その答えがわかった気がした。痛々しく無様で美しい。それが人間の本当の姿だから。横に立つ森山の歌に長年の想いが入る。YO・KINGは優しい声で「HEY!」と叫ぶ。「はじめぼくはひとりだった」。そして最後に「ぼくは君を探しに来たんだ」。森山直太朗は願いを叶え、YO・KINGは大きなヒントをもらった。友部正人との出会いは二人に、会場を訪れた人達に、これからどんな世界を見せるのだろう。寺岡呼人が秘かに紡いだ物語は、イベントという枠を越えて、それぞれの未来へと受け継がれていった。
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