佐藤竹善インタヴュー編 ソロ10周年を迎える彼がリスナーと共有したい時間とメロディ
──シングル「風光る」ではペドロ&カプリシャスの「五番街のマリー」と坂本九の「上を向いて歩こう」をカバー。特に「上を向いて歩こう」はさわやかなアレンジが新鮮でした。 佐藤:カバーをやり始めた時にフッと思い出したんですけど、僕がいちばん最初にハマッた洋楽はビートルズで、最初に聴いてたのが赤盤のベスト。その後に1stや2nd、ライブ盤を聴いて、“ビートルズってすげぇ曲を書くんだな”と思っったんです。でも赤盤以外で僕が聴いて“すげぇな!”と思ってた初期のアルバムのうち半分は、チャック・ベリーとかリトル・リチャードのカバーだったんですよね。でもたぶん、タイミング的にビートルズが歌ってなかったらいい曲だと思わなかったんじゃないかな。いきなりチャック・ベリーの「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」を聴かされてもピンと来なかったと思うんですよね。だから僕にとってはビートルズのバージョンがオリジナルって感覚が大きい。で、原曲はチャック・ベリー、というぐらいの感じ。歌い手としても、そういう感覚で原曲の大きさを意識しないでカバー曲に取り組めればって考えてますね。 ──そもそもSING LIKE TALKINGとソロは、竹善さんの中で別物ですか? 佐藤:結果的に別物ですけど、音楽を作ってる時は別って感覚はないですね。SING LIKE TALKINGの時は、自分で楽曲を書いていって、自分が思った通りの結果になったらすごくつまらない。2人とやってて、“こうなるか”“あ、そういう発想をするか”ってなって結果的に生まれるものがSING LIKE TALKINGとしてすごくおもしろいんです。ソロの場合は、僕と、SING LIKE TALKINGじゃない別のスタッフとバンドをやってる感じなんですね。プログラマーやエンジニアや、楽器を演奏しない人たちも含めて、そこで生まれるものがいいなって感じですね。いくつもいろんなタイプのバンドをやってる感覚ですね。SALT(塩谷哲)とやる時もそうですし。 ──そうなんですか。 佐藤:ええ。人とやってる空気感が新鮮で、楽しそうで、お互いが見えてるものがひとつに向かってる実感さえあれば、ずーっとやりたいと思うし、それがなければすぐに辞めたくなります。良い作品を作らなきゃいけないんですけど、それ以上に自分に素直な作品を作らなきゃいけないと思ってますね。自分が今やりたいと思うサウンドなり曲調なり、それと同時に聴き手の人と良い時間や良いメロディーを共有したいんですね。 ──さっき、AORが好きなイメージを持たれてると言われましたが、新曲の「風光る」を聴いていて“佐藤竹善=ポップス”だなとあらためて思いました。 佐藤:それはうれしいですね。僕はポップスがいちばん好きだし、ポップスがやりたいんですよね。自分でカラオケで歌って気持ちいいだろうかとか(笑)、ステージで歌って気持ちいいだろうか?とか、それなんですよね。 ──聴き手と良い時間、良いメロディーを共有すると言われましたが、詞に込める思いに関してはいかがですか? 佐藤:これはSING LIKE TALKINGでデビューした時からずっとそうなんですが、聴き手の人たちが常に主役で、その歌を聴いて元気になったら“この歌のおかげで元気になれた”って言うんでしょうけど、自分で元気になれたっていうところにたどり着ける詞にしたいといつも思ってますね。聴いて、自分の中でいろいろ思って、聴いた人が自分で元気になったんだっていう自負につながる歌が書ければ。歌で世の中は変わらないですけど、世の中を変えようと思って頑張る人たちは歌によって生まれていくことはたくさんありますし、歌に限らず芸術はそういうものだと思うんですね。そういう中のごく端っこに自分の歌があったらいいなと思ってますね。 取材・文●梶原有紀子 |
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