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Pet Shop Boysが好きだなんて、認めるのは体裁が悪い。むき出しの野心も、あからさまな浪費も罪も、全部まとめて過剰に機械処理されたビートに載せ、何気に語って聴かせる彼らのやり方は、''80年代の醜さの集大成とみなされているのだから。


しかし、だったら説明してもらおうか。どうしてこの星に住む誰も彼もが、彼らの歌詞を歌えるのか。それはつまり、魂を持たないはずのシンセサイザーデュオが、ポップスの世界の潜在意識にこっそり潜り込みおおせていたということではないか。


Pet Shop Boysの曲はひとつしか知らない(大抵それは、世界的にヒットした“West End Girls”なのだが)と言い張る人でも、“Opportunities”や“It''s A Sin”、“What Have I Done To Deserve This?”あたりがラジオから流れてくると、知らず知らずのうちに一緒になって、楽しげに鼻歌を歌っていたりする。この覚えやすさこそ、2人の曲作りの技の冴えと個性を示す何よりの証拠ではないか。

かつてSmash HitsやStar Hitsといった雑誌の編集者をしていたNeil Tennantが、''81年、ロンドンのシンセサイザーショップでChris Loweと出会い、その3年後、1stシングルの“West End Girls”を発表した。洒落た都会的な語り口が魅力の、切れ味シャープなこの曲が、やがて国際的な大ヒットとなるのは、その18ヶ月後、Sephen Hagueがリミックスを施してからのことだった。

それから''80年代が終るまで、彼らはオイルをしっかり注したロボットよろしく、ヒット製造機として稼動を続けた。“分別ある人間が作るヨーロッパ産廃棄物”などと呼ばれながら、彼らはその不可思議なポップ感覚で、冷淡かつ無味乾燥なコンピュータ製のリズムに乗せて、聴いたらすぐに口ずさめるようなシングル曲をいくつも産み落とした。

Tennantの端的で辛口なウイットや、ホモセクシャル(というか性別不詳というか)な含みを持たせた表現力と、Loweの手になる異常に耳障りの良いシンセサイザー音が相まって、非の打ち所のない''80年代サウンドを作り上げていたのだ。教育が行き届き過ぎたTennantの、上品で取り澄ました歌いっぷりは、物理学の教授か、はたまたテレビのコメンテーターかという、病的なイメージでばかり語られがちだった。

Elvis PresleyやWillie Nelsonが情熱的に歌い上げた名曲“You Are Always On My Mind”や、U2の“Where The Streets Have No Name”を、皮肉たっぷりの、不感症アンドロイドの賛歌に変えてしまうのだから、聴いている方だって、結局これはジョークなのではないか、''80年代の電子音楽を痛烈に茶化しているだけなのではないか、と疑いたくもなる。

とは言うものの、彼らの楽曲は数あるダンスヒットの中でも群を抜いて素晴らしく、シンセサイザー音がどんなに味気なかろうと、ヴォーカルがどんなに無表情だろうと、歌詞がどんなにまやかしだろうと、“Suburbia”や“Left To My Own Devices”といった高揚感溢れるシンセポップは、各地でクラブに通い詰める熱狂的ダンスファンに、生きていて良かったという感覚を与えてきたのだ。

Pet Shop Boysのレコードを1枚だけ手に入れるなら、やはりベスト盤の『Discography - The Complete Singles Collection』だろうが、彼らのレコードがどれもそうであるように、初期の『Please』『Actually』といった作品もまた、充実した知的ユーロディスコを提供してくれる。

リミックス盤の『Disco』と『Disco 2』は、最初から充分に踊れる素材(英国でテレビ放送されていた同名のコメディドラマに捧げた、どこか戸惑いがちな“Absolutely Fabulous”は例外として)の、輪をかけて挑発的なヴァージョンを聴かせる。『Bilingual』では、フランメンコ等々、ラテンの様式に手を染めたものの、いつもの冷血サウンドから、そうかけ離れたことはしていない。

''90年代に入り、“エレクトロニカ”がもてはやされている昨今、Pet Shop Boysが再び最先端に返り咲く日も近いと思われる。その時は誰もが、「本当は昔から彼らが好きだった」と公言できるようになるだろう。

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