メンバーが楽器の位置に着くと、オープニング恒例のセリフがPAから流れる。「最高のが見たいんだろ、最高のはここにいるぜ。世界一熱いバンドだ、Kiss!!!」。そしてバンドは“Detroit Rock City”でショーを始めた。冒頭のスタッカートのリズムに合わせて、炎が噴き上がる。ステージ前方に立ったStanley 、Frehley 、Simmonsが、彼らの発明した3人一体の振り付けをキめる。歌に入ると、ファンの歓声がいっそう高くなる。曲の後半では、この曲のテーマを完璧に映像化したアニメが流されていた。ハンドルの利かなくなったKissパトカーが、対向して来るトラックに正面衝突するのだ。
『The Destroyer』のスタンダードをもう1曲、“Shout It Out Loud”が演奏される。そして曲が終わるとPaul Stanleyが客席に叫んだ。「忘れられない夜があるかい。今夜をその夜にしてやるぜ!」
“Heaven’s On Fire”が終わると、Stanleyがクイっと顔を動かす。Crissはストリップショーみたいなビートを叩いている。ファンが笑って奇声を上げると、Stanleyは客席を指差して言う。「ひとつだけ教えてやろう。この女は裸だぜ!」
あっという間に“Deuce”“Calling Dr. Love”“Shock Me”“Psycho Circus”と続く。その次が“Firehouse”。Stanleyは、70年代のあの赤いプラスティックの消防帽をかぶっていない。しかし、Simmonsは今夜もこの曲で火を吹いた。観客が大喜びする。曲が終わりに近づくと、またアニメが流れる。こんどは、ガイコツの消防士が梯子車の階段を上って行った。
その次は『Dressed To Kill』から“Do You Love Me”。このころには観客が全部の歌詞を合唱していたので、Stanleyはこの曲の1番の歌詞を観客に歌わせた。続く“Let Me Go Rock And Roll”では、Kissのトレードマークとなった3人一体の振り付けをいっそうフィーチャー。曲が終わるとStanleyが言った。「1万9000人の親友と夜を過ごすって、たまんないもんだぜ」
続く“Into The Void”では、Ace Frehleyがセンターステージへ。この夜2回目のリードヴォーカルだ(1回目は“Shock Me”)。Frehleyが長めのギターソロを弾いていると、彼のギターのピックアップがおなじみの煙を噴き出した。ところがこの夜は煙が出すぎたようで、Frehleyはステージの端から端へ、煙に呑み込まれないように逃げていた。その後彼は、ギターをワイヤーに引っかけた。音が生きたままのギターは、フィードバックを起こしそうになりながらステージ上方へ吊り上げられていく。Frehleyは同型のレスポールに持ち替えて、ソロを弾き続ける。最後に彼は“新しい”ギターで上空に狙いを定め、ギターヘッドから噴き出す閃光で宙吊りのギターを“撃って”みせた。
わずかな合間の後、深くて不吉な轟音がPAから洩れて来た。あれしかない。Simmonsが血を噴く時がやって来たのだ。彼は期待に応えた。Simmonsは不気味な緑色の照明を浴び、鮮やかな赤いライトがステージの床面(と、それを覆うスモーク)を照らしていた。口から血を噴き出すと、Simmonsは宙吊りになってステージ上方の照明機材まで飛び上がる。そこにマイクが準備されていて、彼が“God Of Thunder”のリードヴォーカルを取る。Frehleyが間奏のギターソロを終えると、緑色の炎が噴き上がり、Simmonsはステージに舞い降りて曲の後半を歌った。
それからStanleyは、メイキャップを落とす決心をしたときの話をした。もしあのときファンがついて来てくれなかったら、バンドはダメになっていただろうと彼は言った。あのときリリースしたアルバムがすぐプラチナディスクになって、Kissはただのギミックバンドじゃないと証明できた。だから“Lick It Up”や“I Love It Loud”を出したんだ。彼はそう言った。彼が言わなかったこともある。Frehley とCrissは、その2曲のオリジナルヴァージョンに参加しなかった。だから、2人がこの2曲を観客の前で演奏するのは、この夜が初めてだったのだ。
Kissが短い休憩を取っているあいだ、観客はバンド名をリズミカルに連呼していた。バンドが戻って来ると、Stanleyはマイクに近づいて言った。「この曲は、おまえたちのことだ」。そして“I Stole Your Love”で、彼らは1回目のアンコールに応えた。またわずかの休憩をはさんで、今夜初めてPeter Crissがソロを取る。歌った曲は“Beth”。PAから演奏が流れると、Crissはステージ前方の椅子に腰かけて、観客にバラをあげたりもらったりしていた。ファンたちは彼と合唱した。曲が終わるころ、彼は体がヘトヘトだという素振りを見せた。
一瞬照明が落ちたが、すぐにステージは明るくなった。次の曲は「ロックンロールの国歌」だとStanleyが言った。“Rock And Roll All Night”が始まると、観客は立ち上がる。ステージ前方に並んだ空気砲が、この曲のあいだずっと紙吹雪を打ち続ける。曲が終わるまでに、Simmonsの顔には何枚か紙吹雪が貼り付いていた。ソロを弾くFrehleyのギターヘッドには、火花を散らして回る車輪が付いていた。Stanleyは観客とおなじみのコールアンドレスポンス。やがて曲がエンディングを迎えると、Stanleyがステージにギターを叩きつけた。数回かかったけれどギターはいくつかの破片に砕け、彼はそれを客席に投げ入れた。