【ライブレポート】音楽ライブを超えたライブエンタテインメント…未来古代楽団が「断章6」で切り拓いた新たなる体験

未来古代楽団による6thライブ、<祝祭あるいは断章6『巨いなる神のオブリビオ』>が、2026年5月7日(木)に東京・台場のZepp DiverCity(TOKYO)にて開催された。観客全員が陪審員となってひとつの事件を裁き、その集合的な判断によってライブそのものの結末が分岐する…120分にわたるこのステージは、もはやコンサートの枠組みには収まらない、まったく新しいライブエンタテインメントのかたちを提示するものとなった。
未来古代楽団は、砂守岳央が主宰する音楽ユニット。そのライブは毎回、砂守自身が書き下ろすオリジナルストーリーを軸に組み立てられ、ゲストボーカルの歌唱、楽団による生演奏、朗読、映像と照明、さらには観客のリアクションまでもが、ひとつの音楽劇としてまとめ上げられる。シリーズ「祝祭あるいは断章」と銘打たれたこのフォーマットは、上演ごとに新たな仕掛けを加えながら、独自の表現を磨き続けてきた。
観客がペンライトの色で物語の分岐を選ぶ参加型の演出は、前回のライブからすでに取り入れられている試みだ。今回はその仕組みをさらに推し進め、観客一人ひとりを“陪審員”として法廷劇の登場人物に組み込んでしまうという、ライブをさらにゲームの方向へと寄せた設計が打ち出された。意思表示の手段も拡張されている。手元の光る腕輪(ペンライト)に加え、スマートフォンの画面に呼び出した赤と青の色を使う仕様が用意され、ステージとオンライン配信は完全に同期。配信視聴者も同じ仕組みでリアルタイムに一票を投じることができる。会場の1,000人と、画面の向こうの視聴者がひとつの陪審員集団として束ねられたうえで物語の内側に取り込まれていく…これは、音楽ライブとオンラインゲーム、舞台演劇とインタラクティブフィクションのちょうど中間に立ち上がる、新しい体験設計と呼ぶほかない。
物語は、開場した瞬間からすでに動き始めていた。透過スクリーンの向こうに現れたのは、シリーズおなじみの“人形”…未来古代文字でかたどられた小さな案内役だ。人形は朗らかに観客へ語りかけ、本日この場で行われる審判のルールを告げていく。観客全員が陪審員を務めること。物語の節目で、何度か判断を求められること。判断の意思表示には赤と青の光を用い、必要に応じてスマートフォンの画面でも代用できること。そして、同じ光の表明が配信視聴者からも会場の集計に流れ込むこと。説明はユーモアを交えながら進められ、開演前にもかかわらず、会場と画面の向こう側の人々はすでに、自分が物語の一部であるという覚悟をひそかに引き受けていく。
やがて照明が落ちる。荘厳なオーケストラのイントロが鳴り響き、戌亥とこの歌声が空間に降ってきた。一曲目を飾るのは、未来古代楽団を代表する楽曲「忘れじの言の葉(シンフォニックver.)」。代表曲をいきなりオープニングに据えるという思い切った構成と、それを担う戌亥のクリアでパワフルな歌声に、客席には驚きの気配が走り、息を殺すような静かなどよめきが広がっていく。砂守岳央以下、楽団メンバーはこのときすでにステージに揃っていた。

歌い終えると、再び人形がスクリーンに浮かび上がり、「デカトリア事象に関する審判」の開廷を宣する。証人として召喚されたのは、砂守岳央が演じる古代遺物研究者マナス博士と、松田悟志が演じる軍人サマル少尉。「証拠として、楽曲を再生する」…今夜この場で奏でられる音楽は、すべて法廷に提出される証拠物件として位置付けられる、というルールが告げられる。楽団がインストゥルメンタルで「エデンの揺り籃」を演奏。歌唱のないインストパートのあいだ、スクリーンには楽曲の歌詞だけがゆっくりと浮かび上がり、楽器の音色が言葉を運ぶような独特の静謐が客席を満たす。続いて場内には13拍子の手拍子が広がり、その律動に乗ってブーケが登場。前作で初登場し“正体不明の歌姫”として強烈な印象を残した彼女が、突き抜けるような歌声で「もろびと」のカバーを披露した。

朗読パートに入り、サマルとマナスの掛け合いによって、審判の焦点となる「デカトリア事象」の輪郭が描き出されていく。マナス博士の娘リヤが、海底に眠っていた巨神とともに、人工島デカトリアを敵艦隊から守ったあの戦い。注目すべきは、その戦いの様子が、本ライブに先立って公開されていたミニゲーム『デカトリア防衛戦』のなかですでに描かれていた点だ。ライブ前にゲームをプレイしていた観客は、ここで朗読を初出の“情報”として受け取るのではなく、自分の手で動かして体験した記憶として受け止め直すことになる。事前のゲーム、本番のライブ、リアルタイム投票、そしてオンライン配信までが一連の“体験のセット”として束ねられている…この設計こそが、今回の公演が提示した最大の発明と言ってよいだろう。続いてブーケがオリジナル曲「火火火」と、もう一曲のカバー「約束のプリムラ」を、力のこもった歌声で叩きつけるように歌い上げる。さらに楽団による人気曲「吸って、吐く」のインストゥルメンタル演奏。歌のある楽曲をあえてインストで聴かせることで、楽曲の骨格を別の角度から照らし出すというのも、シリーズで定番化した魅せ方のひとつだ。



ここで、最初の問いが投げかけられる。「島を救った少女と巨神の物語の、その記録と記憶を、残すべきか…消すべきか」。マナス博士は記録を抹消すべきとして赤を、サマル少尉は残すべきと訴えて青を掲げる。観客が手元のペンライトやスマートフォンをいっせいに掲げると、スクリーンには会場と配信を合算したリアルタイムの集計が、ゲームの選択肢ウィンドウのようなビジュアルで提示される。現時点での印象としては、青の光がやや優勢に灯る。物語の入り口で観客の集合意思が可視化されるこの瞬間、ライブは観客ひとりひとりにとって、もはや他人事ではない“自分の物語”として走り出していく。




ここで、シリーズに初めて参戦するゲスト…新居昭乃が法廷に呼ばれた。歌うのは、ライブ直前に発表されたばかりのコラボ楽曲「ごみのうた」。砂守岳央と、ギターの吉田和人もコーラスに加わり、新居の表現力に満ちた歌声がじっくりと客席へ染み込んでいく。歌い終えてもなお新居はステージに残り、そのまま完全未発表の新曲「モルフォの遺言」へと滑り込んでいく。誰ひとりとして事前に知らない楽曲のはずなのに、歌詞がスクリーンに映し出される演出のおかげで、観客は迷うことなくその楽曲世界に入り込んでいく。歌が終わると、その余韻を引き継ぐようにして、マナス博士が自身の過去に眠る“青い蝶”の記憶を語り出す。歌が朗読に流れ込み、朗読が次の楽曲を呼び込むという、楽曲と物語の完全な融合がここで実現される。そして二度目の投票。一度目に比べ、今度は圧倒的に青の光が会場を埋めた。松田の熱演に当てられたのか、観客の判断は明確に“記録を残す”側へと振れていた。
続いては、楽団によるインストゥルメンタル「アムリタと沙漠」。アイリッシュフルートの豊田耕三がしっとりと旋律を立ち上げ、その横で、吉田篤貴のヴァイオリンが旋律を引き取って応える。フルートとヴァイオリンの掛け合いが、まるで荒野で交わされる二人の旅人の対話のように響く、強い印象を残すインストパートとなった。そして次に呼び込まれたのは霜月はるか。彼女本来の清廉なイメージとは打って変わり、漆黒の衣装と黒のメイクで現れた霜月は、ライブ直前に発表された新曲「マヨヒガ」を歌う。母性の優しさと、底知れない畏怖とを同時にたたえる歌声に、客席は息を呑むようにしてステージに釘付けとなった。

朗読パートに戻ると、マナスとサマルの主張はいよいよ熱を帯びていく。マナスは、巨神の情報が残るかぎりリヤは権力者の道具として一生消費されると訴える。これに対しサマルは、記録を消したところで結局リヤは闇のなかで利用されるだけだ、と反論する。巨大な力と、それに関する情報を、社会がどう取り扱うべきなのか…現代社会が直面している問いそのものが、ファンタジー世界の法廷で剥き出しのまま投げ出される。物語のテンションに呼応するように、霜月はるかが屈指の人気曲「踊踊踊レ」を披露。途中で挟まれる超絶技巧のヴァイオリンソロが、会場の熱気を一段引き上げた。霜月の退場と入れ替わりに、戌亥とこが再びステージに戻り、新曲「始祖鳥」を歌い上げる。歌い始めた瞬間、観客は気付かされる…この曲は、ライブ前にプレイしていたミニゲーム『デカトリア防衛戦』のBGMとして繰り返し流れていた、あのメインテーマのフルバージョンだったのだ。ゲーム内で何度も耳にしていたあのメロディに、ようやくボーカルと歌詞が宿り、生演奏で法廷に降りてくる――観客の高揚は、この瞬間に最高潮を迎えた。そして最終投票。会場を見渡すと、ここに来て赤がはっきりと盛り返したようにも見える、緊張した票読みとなっていた。
結果の発表までに、残された曲はあと二曲。古代の巫女のような白装束に身を包んで現れたのは、安次嶺希和子だ。歌うのは、これもまた未発表の新曲「モノリスの竜」。圧倒的な異世界の気配がステージから客席へとあふれ出していく。続く人気曲「光あれ」では、絶好調のハイトーンボイスが、法廷の最後の余熱を完全に支配しきった。そして、人形が判決を告げる。「審判の結果は、青」。記録と、記憶は、残されることが決定する。観客の集合的な判断が、ライブの結末を確定させた瞬間である。注目すべきは、勝ったはずのサマル少尉がどこか切なげな表情を浮かべ、敗れたはずのマナス博士がどこか満足げに頷いた、その一瞬の感情の反転だ。短いセリフのやりとりが交わされたのち、サマルのリクエストにより、安次嶺希和子の歌唱で「忘れじの言の葉」が、今度は原曲のアレンジで再び演奏された。開幕は戌亥とこの〈シンフォニック ver.〉で、終幕は安次嶺希和子の原曲アレンジで…同じ1曲が異なる姿で開幕と終幕を担う劇的な構成が、観客たちの心に忘れられないなにかを残したことだろう。

全演目の終了後、楽団メンバーとゲストボーカル陣があらためてステージに並ぶカーテンコール。鳴り止まない拍手の波のなかで、再びスクリーンに戻ってきた人形が、団長に代わって観客への感謝を告げる。そしてここで“特報”…新たに「やなぎなぎ」とのコラボレーション楽曲制作が決定したこと、そのやなぎなぎがゲストとして出演する次回公演<祝祭あるいは断章8『氷る世界と燐の君』>が、2026年11月2日(月)、東京国際フォーラム ホールCにて開催されることが発表された。会場は、この夜いちばんの大きなどよめきに包まれる。今回の公演の模様については、配信サービス「ZAIKO」( https://miraikodai.zaiko.io/e/obliviongod )で5月17日(日)23時59分までアーカイブ配信を視聴することができる。ライブを観るだけのもの、聴くだけのものという従来の常識を、未来古代楽団は今回の断章6で確かに塗り替えた。次の断章で、彼らはいったいどんな新たな体験を組み立てて見せるのか。その答えは、半年後、東京国際フォーラムの客席で確かめるしかない。

取材・文◎Shogo Marunouchi
写真◎伊藤真広(TRANSISTOR)、仲村翼
<未来古代楽団 祝祭あるいは断章6『巨いなる神のオブリビオ』>
1.忘れじの言の葉(シンフォニック ver.) / 戌亥とこ
2.エデンの揺り籃 / インスト
3.もろびと / ブーケ
4.火火火 / ブーケ
5.約束のプリムラ / ブーケ
6.吸って、吐く / インスト
7.ごみのうた / 新居昭乃
8.モルフォの遺言 / 新居昭乃
9.アムリタと沙漠 / インスト
10.マヨヒガ / 霜月はるか
11.踊踊踊レ / 霜月はるか
12.始祖鳥 / 戌亥とこ
13.モノリスの竜 / 安次嶺希和子
14.光あれ / 安次嶺希和子
15.忘れじの言の葉 / 安次嶺希和子
※配信アーカイブ(ZAIKO・5月17日23時59分まで):https://miraikodai.zaiko.io/e/obliviongod
次回公演<祝祭あるいは断章8『氷る世界と燐の君』>
チケット購入:https://miraikodai.com/live
未来古代楽団オフィシャルサイト:https://miraikodai.com







